第6話 結界

「走れ! カイの街はすぐそこだ!」

僕はまだ幼い子供達を他の3人に託し、殿に控える


なんてタイミングの悪さだ...

母さん達も居ない時に。大厄災なんてそうそう起きてたまるもんか! 

僕は空を睨みながら必死に山を駆け降りる。


どこまで降りただろうか、遠くに街明かりが見えてきた。


しかしこちらの都合通りにはいかないようで。数刻も経たないうちに魔族達は空から飛び降りてくる。


唖然としていた僕は、空に夢中で周囲への警戒を怠っていた。


「キャーーーー」

突然に森の脇道から出てきた魔族に気付いたのは、子供達の悲鳴を聞いてからだった。


「危ないっっ」

声を聞いて振り向いた時には1番小さなガーベラを庇って血を流すツバキが倒れている。

しまった、既に地上でも魔族は増殖していたのか。


「ひ......」

蒼白な顔と共に、子供たちは泣きじゃくる。


「フリージア! 君はツバキの手当を。あいつの相手は僕とスイセンが引き受ける!」

咄嗟に出た言葉に僕も驚く。

フリージアは震えながら頷くとツバキに駆け寄る。


ひとまずツバキはフリージアが側にいれば大丈夫だろう


「スイセン、2人だけどいけるな?」

そう言いつつ横を見るとそこには腰の引けたスイセンがいた。

「ぼ、僕は......僕は......」


「馬鹿野郎! 死にたいのか!闘志を保て! 僕ら以外に剣を握れる奴はいないんだぞ!」

僕の投げかけも虚しく、彼は完全に戦意喪失している。

ダメだ......あの状態で剣能が応えるはずない


1人でやるしかないのか......

僕は愛刀を抜刀し構える、不思議と心は落ち着いている。母さんはこの日のために剣技を教えてくれたのかな、そう思うくらい手に馴染んだ刀を握りしめる。


作戦なんて立てている暇もない。相手の動きに合わせて一太刀で断ち切る。


そう決めた途端、背後から別の悲鳴が飛び交う。

まさかと思い振り向くと、どうやら魔族は一体ではなかったようで、僕らの周りを10体いやそれ以上の魔族が取り囲んでいた。


これはさすがに諦めるしかない。


いつもの投げやりな僕ならそう思っていただろう。

しかし、あの男の、そして母さんの言葉が脳裏をよぎる。

何も倒す必要などない。ここにいる皆を護れればいいじゃないか。


この刀が僕の剣能なのか、はたまたアルストロの剣なのかはまだ分からない。だがここは祈るしかないだろう。


「頼むぜ......愛刀」

微かな可能性に全てを込めて、僕は頭上に刀を構える。

少しでいい。

皆を結界を僕に与えてくれ。


「でろぉぉぉぉぉぉぉぉ」

らしくもなく大声をだしつつ地面に刀を刺す。


途端、刀を中心に半径10mほどの光の半球が僕たちを覆う。


「うっ......」

思ったより結界は体力を持っていかれるらしい。唐突な疲労感に僕は膝をつく。だがしかし気を失う訳にはいかない。一歩も引けないのだ。


「ユリ! この結界はユリがやったの? 大丈夫!?」

フリージアが駆け寄ってくる。


「た、多分大丈夫。少し気力を使うみたいだ」

僕の言葉にフリージアは胸を撫で下ろす。


「それよりツバキは?」


「すぐに止血したから大丈夫だと思う。今は気を失ってるわ。」


「それよりユリ。これってメリアさんの......」


「あぁ、そっか。家系が持つ剣の遺伝は皆知らないのか。またあとで説明するよ。それより今は......」


周囲を見渡すと先ほどより魔族が増えてる気がする。

結界の中には入れないみたいだが、正直いつまで持つか心許ない。

しかしなぜだ? 遠目で見た限りカイの街は被害はなさそうだ。山にはこんなにも魔族がいるのに....僕はつらそうに呼吸するツバキを見る。今はツバキと子供たちを早くカイの街まで運ばないと...


そんなことを考えていたところに、森の中から声が聞こえてくる。


「団長! 2時方向に子供たちを発見。魔族に囲まれています」

何人かが途轍もない速度で駆け寄る音と共に、若い男の声が聞こえる。


「総員、抜刀!!」

野太い声とともに、団長とやらの声が聞こえる。


「殲滅っっ」

次の瞬間、目の前を覆うほどの魔族が塵となって宙に消え、その代わりに白いマントを靡かせた5人が取り囲んでいた。

今のは....剣戟!?一瞬過ぎて見えなかった。


「無事か! 少年たち」

暗闇の中から姿を現し、ニカっと笑う無骨な男の胸には、先刻目に焼き付けたアングレカムの紋章が浮かんでいた。




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