奥さんの節約術!~一か月ゼロ円で生活してみよう!~

ブーカン

節約しないと!

 コタローの散歩から帰ると、夫が帰宅していた。

 最近はいつもこう。

 おかげで夕食の手抜きがしづらくて少し困ってる……。

 でも今日は、そんなことよりももっと困るコトを言われた。


「給料、下がるかもしれない」


 え?


「この状況でウチの業界もキツイんだ。なんとか持ってたけど、こうも不透明が続くともしかしたらって、部長が言ってた。今の出費と同じような生活してたら、お前にもまた、働きに出てもらうことになるかもしれない。前の職場、復職できそう?」


 前の……仕事?

 嫌、いや、いや、いやいや、イヤ、イヤいやイヤ、嫌、嫌イヤ。

 もう、あんなトコロ、絶対嫌。絶対イヤ。絶対イヤだ。嫌だ、イヤだ絶対。


「ちょっとずつでもいいから、節約してこうか」


 うん。そうする。そうしよう。

 節約しなきゃ、しないとダメ。ダメ。



「え、エアコン切るの?」


 当然! 三十五度までは扇風機で耐えるよ!


「なんか今日、ハンバーグちょっと……おかしくない?」


 お豆腐も混ぜて節約レシピだよ! 味付けも薄く、薄く!


 二カ月間、そうやって色々と試した。本当に色々とやった。

 でも、ダメ。ダメ。全然ダメ。

 夫の給料が減るコトはなかったけど、全然ダメ。

 この程度の節約じゃ、あの頃の私の稼ぎの、十分の一もいってない。

 ダメ、ダメ。

 これじゃあダメ。

 なにかもっと、もっとこう、根本的に。

 根本的に、支出をカットしないと。



「ねえ」


 ん?


「コタローどうしたの?」


 コタロー?


「うん。昨日もいなかったけど、またお義母さんのところ?」


 節約したよ? コタローは。


「……は?」


 今度のゴミの日に出すから、寝室のクローゼットに置いてるよ。


「な、何言って……」


 慌てたように食卓から立ちあがって姿を消した夫。

 少しして、奥から大声が聴こえてきた。

 そうして、足音をがなり立ててダイニングに戻ってくる。


「おま、おま、おまえ、ナニ、何してんだ! コタローに何したんだ!」


 何って……。

 コタローって今三歳でしょ?

 食費や病院代、美容室代で月二万弱かかるとするじゃない?

 コタローを節約したら、その二万、丸々浮くんだよ?! 十歳まで生きると考えたら、百六十万以上も節約できるんだよ!


「……ば、ババ、バカじゃないか?! お前、何言ってんだ!」


 夫がゲンコツを作ってテーブルを叩く。

 ああ……、豚汁こぼれちゃったじゃない……。コタローで浮いた分、少し贅沢しようと思ってお肉入れたのに。入れてあげたのに。

 勿体ない、もったいない、モッタイナイ。

 ホント、もったいない……。


「ちょ、ちょっと、おい、何する気だ……?」


 食費を一か月三万だとするじゃない?

 光熱水道費を一万とするじゃない?


「置け、ひとまずそれ、置け。な?」


 ケータイ代、保険代、年金代、付き合いのおカネ、あなたしか乗らない車の維持費……。

 諸々が八万だとするじゃん?

 そうすると、十二万!


「あ、や、やめ、あ、あぁ、あ!」


 あなたを節約すると、月に十二万もおカネが浮くよ!


「や、あ……、……」

 

 浮いたお金で、今度はステーキでも……って。

 嫌、いや、イヤイヤイヤ。

 ダメ。そんなことしてたらダメだよね。

 前の職場になんて絶対に戻りたくない。絶対にイヤ。イヤ、イヤ。

 もっと、もっともっともっと、もっと節約しないと。


 住宅ローンが月十万よね。

 食費やライフライン代はあなたと同じくらいかな? いや、私の方が家にいる時間が多いから、合わせて五万と見ておこう。

 私は人との付き合いないし、交際費ゼロと見ても、保険代、税金、年金……。

 やっぱり色々掛かってるよね……。


 でも、大丈夫。

 私を節約したら、これで我が家の出費はゼロ!

 これならお給料減っても大丈夫だよね?

 私は働きに出なくてもいいよね?

 コタローの散歩帰りにちょっとジュース買ったり、スーパーのお惣菜で夕食ごまかしても、よくなるよね?

 ね

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