「ううん……わたし、変わりたいの。かおりちゃんや吉田くんや松井さんみたいに、まっすぐで、堂々としたい。格好良くありたい」

「……よくわからないけど、佐藤は佐藤だろ」

 困ったような声に、「えっ」と隣を向いた。

 そこには、戸惑う吉田くんがいた。

「今の、何だか自分の良さを否定してるみたいで、おれは嫌だ。佐藤は、佐藤にしかなれないよ」

「でも……わたし、嫌いなわたしを変えたくて……」

「何のために?」

「え?」

「何のために変えたいの?」

 わたしは、答えられなかった。

 答えは知っていたのに、答えられなかった。

「佐藤は、自分のこと嫌いなの? 理想通りなら、完璧だったら、好きになれるの?」

「それは……」

「おれは、完璧な人間なんて何か嫌だな。だって、それってロボットみたいだろ」

「でも……」

「佐藤は、何をそんなに頑張ってるんだ? 必死になるのは、何で?」

「……」

「おれたち、まだ子どもだよ。できないことがあったって、良いんだよ。大人だって、完璧じゃないよ。だって、それが人間だって父さん言ってた。だから、助け合うんだって。優しくしてあげられるんだって」

「それが、人間……」

「だから、嫌な部分があったって良いんじゃないの? そこも含めて、佐藤は佐藤だろ」

「……難しいよ」

「……ごめん。何か、ムキになって……ただ、佐藤が自分のこと虐めるから、つい……悪い。おれ、帰るな」

「あ……」

 そう言って、吉田くんはスタスタと一人で帰ってしまった。

 残されたわたしは、とぼとぼと家へ向かう。

 ずっと吉田くんに言われたことを考えていたけれど、もやもやして引っかかったままだった。


◆◆◆


 クリスマスが終わって、年末年始は家族でおじいちゃんとおばあちゃんの家を訪ねた。

 家族でのんびりと過ごす冬休み。

 親戚にも久々に会って、わいわいと楽しく過ごした。

 けれど、ふいに脳裏を過るのは、吉田くんのこと。

 今何してるのかなとか、どこか行っているのかなとか、風邪を引いてないかなとか。

 早く会いたい反面、気まずい気持ちもあって心が揺らぐ。

 わたしは、吉田くんの問いに心で答えた。

『何のために変えたいの?』

 ――わたしが、みんなに好かれたいから。

『自分のこと嫌いなの?』

 ――情けない自分を見たくない。だから、そういうわたしは、嫌い。

『何をそんなに頑張ってるんだ?』

 ――不安だから。好きになってもらいたいから、焦るの。

 本当は、わかっていた。どうして、あの時に答えられなかったのか。

 吉田くんはまっすぐ向き合ってくれていたのに、わたしは目を逸らしてしまった。

 それこそ、嫌な印象を与えただろう。

 わたしが隠そうとした部分でさえ、人間なんだからと肯定してくれた吉田くん。

 わたしの良さを見てくれていた彼に、わたしは失礼なことをした。

 だめな自分を否定するための材料を集め続けたわたしに、彼は向き合う強さを教えてくれようとしていたのに。

「やっぱり、吉田くんはすごいな……」

 だめでも良いなんて思うのは、難しい。

 だけど、吉田くんはそれで良いって言ってくれた。

 だったら、無理して背伸びしなくても良いんじゃないだろうか。

 だって吉田くんは、ロボットみたいに完璧な人間は嫌だって言ってた。

 わたしも、吉田くんやかおりちゃんたちがロボットみたいだったら、嫌かもしれない。

 嘘をついていたわたしを許してくれたかおりちゃんのように、そんな部分さえ受け入れてあげられたら。

 そうしたら、何かが変わるのかな?

「とにかく、このままなんて嫌だ」

 吉田くんに会いたいのに、気まずいままなんて嫌だ。

 わたしは、彼に会ったら謝ることを決めて、今年の抱負を『嫌な自分を許してあげられるようになる』にした。

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