第5話 今日の心音は出掛けたい③ 《亜羅騎side》
「はぁぁ!あんた何言ってんの!?」
教室全体に、それどころか学校中に聞こえるような声で彼女は叫んだ。
「何ってそのまんまの意味や。今先生出てって暇なりそうやから帰る。何かおかしいか?」
「何もかもおかしいわよ!何で先生が居なくなったら早退するって考えなのよ!」
「だって戻ってくるまでここで静かに自習やろ?そんなことするよりも家帰ったほうが良いやろ。多分あの先生ホームルーム終わるまでに戻ってこんと思うし、まず僕転校してきたばっかやから教材持ってへんし。このクラスで一番面白そうな二人も早々に退場していったし......。それにはよ帰らなあかん用事もあるし......」
「それはあんたの都合でしょ!って言うかあんた少し関西弁おかしくない......?」
「観察力えぐいなぁー。あっちにいたのが短いから変なだけや。っと......出来上がったな」
「出来たって何が......はぁっ!?何あんた教室でカップ麺作ってんのよ!!」
「何でって朝食べる暇だったら無かったからや。それよりそろそろ静かにしたらどうや?お前がいちいち突っこんでくるせいで周り皆『無言』やんか。これやったら観客の真ん前で盛大に滑っとる夫婦漫才みたいやんけ」
「誰があんたの嫁になんかなるかぁぁぁ!」
「とにかく静かにしぃ。他に誰か緊張してる転校生に話してくれる心優しい人はいないんか?」
「じゃあ俺から頼みがある!俺は西コー2年2組2番!定期テストは必ず22位!
「よろしゅうなイオリクン。それで頼みって何や?」
このクラスが24人で全部で4クラスあるので、単純計算でも22位は結構良いほうなんじゃないか......
「俺に!カップ麺分けてくれ!少しで良い!俺も寝坊して朝メシ食ってねぇんだ!頼む!」
「サノ君何頼んでんのよ!」
この女はうるさいなぁ......
「いいでー。そっちにカップニードル『期間限定カニ味噌クリーム風味 鷹の爪を添えて』があるからそれやるわ」
「ありがたい!恩に着る!」
「あんたもあげるんかい!!ってなんで電気ポットが教室にあるの!?」
「僕が持ってきたんや。通学カバンすっかすかやったからな。」
「いやっ、カバンが空だからって普通そんなもの持ってこないでしょ......」
「いや、もしかしたらこんなかにも何か要らんもん入れてる奴おるかもしれんで?あっ、お湯もう沸いてるでー」
「了解だ!本っとーうにありがとうな!」
「サノ君も何食べる気満々になってんの......ってあんたどこ行くのさ!?」
「どこってさっきから何回も言ってるやろ、帰るんや。カップ麺も食べ終わったしな。......あとお前さっきからあんたあんた呼んでるけどな、僕にもきちんと名前があるんや。さっき名乗ったけど多分誰も聞いてないやろうからもう一度名乗っとくわ......片空亜羅騎や。おっ、やっぱお湯ちょうど二つ分やったな......」
電気ポットを直しながらそう名乗る。何で一日に二回も名乗らないといけないんだ......いや、始業式のときの全校の前のと合わせると三回目か......。ポットをカバンの中に入れ、立ち上がり廊下の方へと歩く。
「まっ、待ちなさい!」
ドアに手をかけたところであの女がまた叫ぶ。
「私こそお前お前って......
2
そう女は......香嶋は名乗った。
「覚えたでカシマちゃん。それじゃまた明日な。イオリクンもー」
「えぇ!また明日!!」 「ほふ、はたなー」
彼はもうカップ麺を食べていた。絶対にまだ三分たっていないがそんなにお腹が空いていたのだろうか......。って買っといてなんだがカニ味噌と鷹の爪って本当に旨いのか......?
「そや、最後に一つ。さっきクラスでおもろそうなのは出てった2人だけって言うたけど前言撤回。カシマちゃんもイオリクンもめちゃおもろかったわ。ありがとうなー」
教室を出て水道でカップを洗い、カバンにしまい階段の方へと歩く。授業中ということもあってか先生と全然会わないまま1階まで降りてくることができた。何で言い訳考えてたんだ......?と前をみると靴箱のところで老教師が倒れていた。
「なして......はるくんを放してー!」
外からキョウノちゃん?の声が聞こえるので多分あの2人が関わっているのだろう。老教師の胸ポケットを漁るとスマホが出てきた。指紋認証がついているものだったので簡単にロックを解除することが出来た。アドレス帳アプリを開くと、沢山の名前が出てきたが、そのほとんどの名前の後ろに、『2-1』や『理科』といったものがついていた。人の名前すぐに忘れそうな顔してるもんなぁー。アドレス帳の中から
「もしもしセンセ片空でーす。暇なので帰りますねー」
『は!?何を言っているんだお前は!?』
うるっさいなぁ......
「だからぁ、僕もう飽きたんで帰りますねってとりあえず報告しときますー」
「はるくんあっち!」
キョウノちゃん?が僕を指指す。それにつられて他の2人もこちらを向く。
「それじゃさよならー」
スマホを老教師の近くに落とし、外へと歩きだす。
「に、逃がすか片空ァ!」
「何で出会ってすぐの転校生の名前は覚えてて僕の名前は覚えてないんですかァ!」
鬼河原先生がこちらに飛びかかろうとしてくる......が、
「先生後ろ危険ですよー」
「あん?」
振り返った鬼河原先生の顔面にかわいいペンギン(?)のぬいぐるみがぶち当たった。
「っしゃあ。ヒットぉぉ」
やっぱりカバンに無駄なもの入れてる人いたじゃん。鬼河原先生がよろけたタイミングで走り出し、キョウノちゃん?の元へたどり着いた。
「逃げないんかい?キョウノちゃん?」
「もちろん逃げるとも!いくよはるくん!」
「はぁっ! これもう絶対指導室行きじゃん......」
はるくんと呼ばれたクラスメートはキョウノちゃんに手を引っ張られながら(多分強引に)走っている。
「それにしても転校生君!ナイスタイミングだったね!」
キョウノちゃんがグーで手をつきだしてくる。
「4回目か......。僕は片空亜羅騎や。よろしくな」
そう言い、キョウノちゃんにグーの手を返す。
「うん、よろしく。あらきくん」
もう校門が見えてきた。後ろを確認するが鬼河原先生とは結構差が空いていた。
「僕校門出て左だけどキョウノちゃんは?」
「右っ!ここでお別れだね。あらきくん」
「そうやな。また明日学校で」
「うん、バイバイっ」
校門を出て二手に別れた。最後に僕の目に写ったはるくんは、助けを求める目をしていたが、多分気のせいだろう。一旦止まって後ろを見るが、もうキョウノちゃんの影は小さく、鬼河原先生の姿は全く見えなかった。諦めたのだろうか......?明日、あの2人がどんな顔で学校に来るのか、それを楽しみにしながら、再び走り出した。
#急募 京乃心音を止めてくれぇぇ! 八咫鏡 シノ @taki_me
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