第2話 1年ぶりの始業式 (とっとと帰りたい..)

人生とは、生き物が神に与えられた尊い時間であり、同時に人を縛るものでもあると、僕は思う。



僕、晴喜田はるきだ陽斗やまとは幼いときから、人の変死だったり、行方不明といったニュースがとても苦手だった。それには、父が目の前で死んだことも関係しているだろう。小学校3年生くらいから、死んだら人はどこへいくんだろう?もし宇宙人、心霊が存在しているならどうしよう。死んで生まれ変わるのならば、有名な偉人の転生者がクラスの中に......あるいは自分が?......転生していたとして、前の人生でも楽しかったことがあったはずなのに、どうして忘れているんだ?あるいは今楽しいと思うことも、次の人生では、全て忘れて笑っているのか......。楽しいって......必要なのか......?などと考えるようになっていた。



生きることは義務であり、喜びなど感情は必要ではない。いつか僕はそう思うようになっていた。小学校5年生くらいからだろうか?友達と遊ぶことをやめた。次第に周りから人が居なくなっていった。しかし、それを苦とは思わなかった。逆に嬉しいとさえ思った。結局、小学校卒業までの二年間で思い出というものは一つもない。しかし、最後まで、僕に声をかけ続けていた奴が2、3人いたような気がする。どうせ、仲良し主義のクラス委員長か誰かだろう。



そうして中学校へと進学したが、これと言って変わることはなかった。元々、中学校の校区からして、小学校からの持ち上がりなので、学年のメンバーは、あまり変わらなかった。数人、この中学校よりもスポーツに力をいれている、隣町の中学校へ進学したくらいだった。



ほぼなにもないまま、中学校生活も終わりに近づいた。誇れることといえば、3年間全てのテストで1位を取り続けたことぐらいだ。この頃から、学校をサボることが多くなり、母が将来のためにせめて勉強は頑張れと言ってきた。別に将来を頑張るなんて気はこれっぽっちもなかったが、親にこれ以上迷惑をかけるわけにもいかず、部屋に引きこもっていても、勉強だけは頑張った。母もそこだけは誉めてくれた。そこだけは......



そうして、高校受験が近づいた2月、母は死んだ。



買い物にいっている間にトラックに跳ねられたらしい。それ以上詳しいことは、僕の耳には入らなかった。



現実を受け止める前に、母の葬儀は終わり、気づいた時には、遠く離れた、親戚の家の中だった。叔父は、僕を優しく迎え入れてくれた。



問題は従兄いとこだった。



当時、従兄は高校2年だった。よっぽど暇だったのかは知らないが、家での嫌がらせは日常茶飯事だった。その時、まだ2月だったので、僕はその地域の中学校に転入となったが、受験間近の3月頭。ましてや、こちらからの拒絶。もちろんクラスでは浮いていた。その後、家に帰ると、従兄からの嫌がらせ。はじめは物が無くなるなどの些細な物だったが、だんだん、物が壊れていたり、部屋に閉じ込められたりと、過激なものになっていった。なので、食事の際に、コップをこちらに倒したときですら、故意かどうかと疑った。



そして、高校受験では、母と話し合って決めた、学力高めの第一志望校 「県立西高等学校」にみごと合格した。また、もといた地域に戻るということで、従兄の嫌がらせを受けずにすむという喜びが大きかったが、なぜたった1ヶ月で再びあの場所に戻るのかという気持ちもあった。母との最後の約束ということで、西コーを受けたが、何のために西コーに行き、何をしたいのか、わからなくなっていた。



それどころか、自分が何を好きで、誰のために、何をしたくて、何のためにここにいるのかすら、わからなかった。



叔父に引き留められたが、家を出て、西コーの近くで独り暮らしを始めた。あいにく西コーと、元々住んでいた場所は少し離れていたのでそこまで気にはならなかった。が、この引っ越しの際に、一番覚えているのは、従兄が、叔父と一緒に必死になって僕を引き留めようとしていたことだった。気には留めなかった。いや、気には留まらなかった。

 


そうして西コーに進学したが、やはり学校に行く気になれず、入学式後は、テストの日だけ学校に行きテストを受けた。周りから見れば相当レアだろう。もちろん1位だったが、喜ぶ必要はない。喜んでくれる人はいない......



3学期になると、進級するための単位が足りないと、担任だろう教師からの電話が毎日のように鳴り響いた。仕方なく、3月からは学校に通ったが、もちろん、誰も寄り付かない。もうこの辺りから、生きている理由が分からなかった。



そして三度目の4月。12日。僕は、昨日と同じように西コーの正門をくぐり、校舎へと歩く。辺りには他に人はいない。そりゃ一時間遅刻しているからな。絶対に行かないと思っていたが、昨日の女の言葉が気になり、万一のことを考え家を出た。今は9時30分なので、丁度始業式が終わったところだろう。わざわざおっさんどもの話を聞くためだけに暑っ苦しい体育館に入るのはお断りなので、丁度よかった。



2年2組の教室のドアの前に立つ。中からガヤガヤと話し声が聞こえる。うちの学校は、進級ごとのクラス替えが無いので、多分ここで会っているはずだ。



ガラッと勢いよく扉を開けると、教室内が一気に静かになり、一斉に視線がこちらに向く。そりゃずっと引きこもってた奴が新学期初日から学校に来ていたらこうなるか。



僕は、その視線を無視して、空いている机に向かって歩く。教室には、4×6の形で机が並べられており、僕の席は、扉側から4列目の後ろの方だった。あまり人と関わりたくないので後ろでよかったな。なんて考えていると、チャイムが鳴り、担任が入ってきた。担任は、たまに家に来ていたので顔を覚えている。(かろうじて......)


教室のざわつきが落ち着き、担任が何か話始めた。しかしそんな話には興味など無いので、少し下を向いて夕飯を何にするか考える。最近食べていないし、ハンバーグでも作ろうかな、なんて考えていると、目の前が少し暗くなり、人の気配がした。担任かと思い、急いで頭をあげると、そこにはあの女が立っていた。




京乃きょうの心音ここねです!これから宜しくお願いしますっ!」




彼女......京乃さんはそう、教室中......いや、学校中に響き渡るような声でそう叫んだ。嫌な予感がする......

「早速だけどー......今から一緒に遊びにいかない?」



早速嫌な予感は的中した。

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