理沙視点 幸せ

 春ちゃんが私にキスをした。と言うか、キスと言っていいのかってくらい濃厚にぺロペロされてしまった。

 混乱する私にしたくなっちゃったからとか言うし、どういえば春ちゃんを納得して約束を守ってもらえるのかと戸惑う私に、春ちゃんはふいに目を伏せた。


「理沙ちゃんが守ってくれても、私はもう、守る気ないんだ。ごめんね、私、悪い子になっちゃったね。こんな私は、嫌いになっちゃう?」

「……春ちゃん、そんなことはあり得ないよ。前にも言ったけど、春ちゃんはいい子でも、悪い子でも、どんな春ちゃんでも愛してるから」


 ちょっとだけ目を伏せて悲しそうにそう言った春ちゃんに、私は春ちゃんの肩をしっかりつかんで目を見て言った。

 そんなことはあり得ない。伝わっていないなら、何度でも言おう。春ちゃんが信じてくれるまで何回でも。少しでもこの気持ちが伝わるように。


 だけど私の言葉にあわせてくれた春ちゃんの目は、柔らかく緩んでいて、傷なんて何一つないような綺麗なもので、私は少しだけびっくりしてしまう。


「うん……ありがとう。信じてるよ。だから、約束破ってもいいってことだよね?」

「…………あー、うーん……」


 そう言うことか。うん、まあ確かに、その理屈は間違ってはいない。約束は守るべきだけど、春ちゃんに限っては守らなくてもデメリットはない。私は春ちゃんが守らなくても嫌いになるどころか、むしろすごい、余計に好きになってしまうから。


 でも困る。こんな、こんな風にキスされて、私が約束を破ってしまいたくなってしまう。

 だと言うのに、春ちゃんは平気でもう一度私にキスをしてきた。


「はぁ……理沙ちゃん、可愛いよ」

「……春ちゃんの方が、可愛いよ。あー……ほんと、まずいよ」


 その蕩けたような、幸せそうな顔。赤らんだ妖艶な表情。すごく、したい。ああ、ほんとに、こんなの、まずい。だけど強固にとめることもできなくて、むしろしてほしいし、うん。困った。


「あと、昨日はごめんね。その、ちょっと、生理で情緒不安定なのもあったかも」


 だから翌日、そう謝られてちょっとほっとしたのは本当だ。昨日が特別だったんで、これからはキスはしないんだ。それは残念だけど、でも私が我慢できなくなることはないから。


「だから、またしばらくはああいうキスはお預けね」


 なのに振り向いた春ちゃんはそう言って、これからもすると暗に宣言した。しばらくって、いつだろう。すぐにそんな、次回を期待してしまう自分が恥ずかしくて熱くなってしまう。

 本当は断るべきだ。昨日は受け入れてしまうみたいになったけど、ちゃんと駄目だよって、大人になるまではって言わないと。


「…………うん、そうだね」


 そうわかっているのに、私は自分の欲求を抑えられず、頷いてしまった。だって、だってめちゃくちゃ気持ちよかったし、あの状態の春ちゃんを強く拒絶したりとか、絶対無理だし。口だけ駄目って言ってもどうせ無理だし、強く言って嫌われたくないし。……したいし。


「どういたしまして。大好きだよ」

「……私も、大好きだよ」


 約束を破ってしまうくらい大好きだと、春ちゃんの瞳が全力で伝えてくれる。私の気持ちも伝わっているといい。すごく、幸せだ。困っちゃうけど。


 こうして春ちゃんが普通にキスを、時々特別なキスをしてくるようになった。すごくすごく、幸せな日々。だけど、困った。すごく困った。嬉しいけど、嬉しいけど困る。色んなことをしたい気持ちはある。キスだって私も応えたいし、私もしたい。

 だけどそうもいかない。春ちゃんとした約束なんだから。春ちゃん自身が、もう約束はいいよって言わない限り、守るべきだ。春ちゃん自身が破る分には自由だけど、私は破りたくない。


 私は何もできないし、春ちゃんに大したことをしてあげられない。気の利いたことを言ったりもできない。だからただ春ちゃんに真面目に向き合って、些細なことだと春ちゃんが言ったとしてもその全部を大事にして、心からの思いをそのまま伝えるだけだ。それだけが、私にできることだ。

 あと、お金を稼ぐのも先輩がいるからだけどできるか。でもそのくらいだ。いつか春ちゃんが大人になれば、きっと立派で素敵な人になって、私なんか足元にも及ばないようなそんな人になるだろう。


 でも春ちゃんと離れたくない。いつか、春ちゃんが私を嫌いになったら仕方ないって思う。それは、思う。わかってる。でも、離れたくない。

 春ちゃんに嫌われないように努力したいし、もし私を好きじゃなくなっても、もう一度私を好きになってもらえるよう、努力したいって今は思う。絶対後悔させないように幸せにしたい。


 だから私は、私にできるだけのことはしたいのだ。今できるのは約束を守ることくらいで、なので特別なキスをされる時も自分からしてしまわないよう、唇をかたく閉じて、抱きしめないよう手を宙にして、直接見ないよう焦点をずらして頑張っている。

 絶対挙動不審な変質者状態なのに、春ちゃんはご機嫌で可愛がって来れるの、嬉しいけど。嬉しいけど、ほんと、困る。


 なんとか約束を私から破ってないけど、むしろもっと春ちゃんから破ってくれないかなとか考えちゃってるし、もう私だいぶ駄目になってる気がする。


 でも、春ちゃんとの約束は破らない。それだけは絶対だ。だから春ちゃんが小学校を卒業するまでは頑張って、我慢する。


「ねぇ、理沙ちゃん」

「ん。なに?」

「……ちゅ、ンふふ、大好き」


 今も仕事中なのに、急に名前呼んで、振り向いたらキスして。こんなの、可愛い。可愛すぎる。しかも正面を向かせたのに微妙に唇じゃなくて、ぎりぎり頬なのとか、ちょっと控えめな感じが可愛いし、はにかんでるの可愛いし、もう、口にしたい。

 めっちゃしたい。悪戯っぽく笑ってるけど、私からしたらどんな反応するのかなとか、驚くかなとか、ドキドキしてくれるかなとか、すごい、色々考えてしまうし、したい。


 小学校卒業まで、あと一年半。あああ。な、長くない?

 私がこれまで生きてきた期間、春ちゃんに会えない数カ月とか全然すぐ終わってきた印象だったし、なんなら今年に春ちゃんと同棲するまでの人生全部、前菜でプロローグでしかなかった数行で終わったくらいの気持ちなんだけど。

 一年半、長くない? まだ春ちゃんとキスするようになって我慢しまくってるのにまだ冬にもなってないの、時間経過おかしくない?


「……」

「あれ? 固まっちゃった? お仕事の邪魔して怒っちゃった?」

「そ、そうじゃないよ。あの、その……春ちゃんが、可愛すぎて、固まっちゃっただけ」

「そっか。邪魔してごめんね」

「ううん! 邪魔なんかじゃない。その、い、いつでもいいよ」


 折角、大好きって言ってくれたのに、春ちゃんが好きすぎて自分の体が動いちゃわないようにして固まってスルーしてしまった。邪魔なんてとんでもない! 仕事なんてどうでも、よくはないけど、その、春ちゃんがいない時間だけでも十分なくらいだし、なんならやりたくないくらいだよ! いやでも、春ちゃんに手を出さないためにもむしろ仕事して気を紛らわせている方がいいくらいなんだけど。

 あっ、ていうか今の言い方は暗に催促してしまったかもしれない。でも、でもしたいんだもん。


「そっか。ならよかった」

「うん……」


 あれ、そうは受け取られなかったみたい。よ、よかったような……うう。もう一回してほしいなぁ。


「……」


 お仕事に戻りたいけど、なかなか気持ちが戻らない。ああぁ、キスしたい。……はぁ、もうしてくれないみたいだし、頑張るか。


 と言うか、今にも春ちゃんに手を出したい欲求はもちろんあるし、してしまいそうってくらいの気持ちではあるんだけど、多分普通に、私約束守れそうだなぁ。どう考えても、手を出せるイメージがない。むしろ約束なくても無理だったかもしれない。


「……」

「!?」

「えへへ」


 どうせ無理なんだから真面目に仕事しよう、と思って再開したところで春ちゃんがとんと私の肩にもたれてきた。はっとそちらを見ると顔をあげて目があってはにかまれた。可愛い。

 抱きしめたい。ああああ。が、頑張ろう。春ちゃんが小学校卒業したらすぐ、頑張ろう! 約束を守って小学生じゃなくなった春ちゃんに、すぐ手を出そう!


 今はすごく幸せだからこそ、私はもっともっと幸せになりたくて、もっともっと春ちゃんを幸せにするために、頑張ろうと心に決めた。









 幸せすぎて時間の流れが遅すぎると思ったのも、結局過ごしている日々の最中だからで、過ぎてしまえば短かったと……やっぱり長かったかもしれない。すっごく我慢した。

 だけどついに、春ちゃんが小学校を卒業した。中学校の制服も届いて、入学式までまだ猶予はある、ちょっと長めの、私にとっても最後になる春休み。ついに、約束が終わったんだ。

 そうドキドキしながら、私は卒業パーティも終わって落ち着いた翌日に春ちゃんに真面目に話しかけた。


「あの、春ちゃん。その……約束、のことなんだけど」

「ん? なに? どの約束?」


 きょとんとした春ちゃんは無邪気で、時間もまだ午前中だし言いにくいけど、でも午後に、夜に、寝る前に、やっぱり明日にってなるから、今しかない。


「その、小学生の春ちゃんには、手を出さないって言う、約束」

「あ、あー……え、あの、手、手出すって話?」

「う、うん」


 春ちゃんは赤くなって頭をかいて視線を泳がせてから、そっと私にもたれた。肩に頭をぶつけて顔が正面から合わない姿勢になってしまう。


「そっか、あー……そう言うの、その、言わなくても、普通にしてくれて、いいよ。ていうか、約束のこと、ほとんど忘れてたし」

「そ、そっか」

「うん……でも、まあ、わざわざ言ってくれる、その、丁寧なとこも、好きだし。うん。ちょっと無粋かなって思わなくもないけど、いいよ」


 春ちゃんはちょっと照れくさいのか、ぽんぽんと私の膝を叩きながらそう褒めてくれた。


「う、うん。ありがとう、あの……ところで、なんだけど。その……手、って、どこまでいいのかとかも、一応、聞いてもいいかな?」


 これはさすがに、すごい、無粋なこと聞いてるよねって思う。でもあの、念のため、手を出すの程度の認識が違うと困るもんね。

 手を出してるって春ちゃんは自称しながらキス以上はしてないから、そこまでで十分って思ってるのかもしれないけど、一応、前に検索履歴見てるからそれ以上にもやることあるって知ってるはずだし。

 その、できればいい機会だし、それ以上にも進展できたらもっと幸せなんだけどー?


「え、どこまでって……り、理沙ちゃんのえっち。そう言うのはさすがに、その、まだ早いって言うか……恐いよ」


 私の問いかけに春ちゃんはまだ何もしてないのにぱっと火が付いたみたいに真っ赤になって、二回強く私の膝を叩いてからぎゅっと掴んでゆらした。私は慌てて意味なく手を浮かせて理沙ちゃんの顔の前で振りながらなんとか弁解する。


「うっ、あ、ご、ごめんね! ごめん。あの、無理強いするつもりなくて、あの、全然、全然そんな、期待とかしてなかったからね!? 一応の確認だからね!?」

「き、期待してたんだ? 私、小学校卒業したって言っても、まだ、誕生日きてないから11才だよ……? そう言う目で、見てるんだ?」

「あ、ご、ごめんなさい……」


 私の弁明を聞いているのかいないのか、春ちゃんは俯いて顔をみせてくれないままそう聞いてきたので慌てて謝るけど、11才どころか、10才の時から見ていました。

 う、うう。気まずい。でも、逆に、聞いてよかった。これ、聞かずにしてたら春ちゃん怖がらせてたところだもんね。よかった、よかった……う、い、いつになるまで駄目なんだろ。これ、私からキスもやめておいた方がいいのかな。


 両手をあげて春ちゃんに触れてしまわないようにして、そっと春ちゃんと違う方に倒れて距離をとる。


「ちょっと、どこいくの」

「う、ごめん。あの、へ、変なことしないから」

「もう、何言ってるの。戻って」

「はい……」


 距離をとったらもたれてた春ちゃんの姿勢も崩れて怒られたので、素直に上体をもどす。またぽんと春ちゃんはもたれてきて、手を回して軽く横から抱き着いてきた。

 う。春ちゃんの体、熱くて柔らかい。部屋着だからって薄すぎる。まだ暑くなってくるには早いと思う。


「あのさぁ、その……下は無理。恐いし、ハズいから。でも……う、上なら、いいけど?」

「……えっ。あの、あの、あ、あ、その、む、胸、触っても、いいってこと?」


 思わず聞き返した私に、春ちゃんは真っ赤な顔で振り向いて私の肩を強めに叩いた。


「もう! そこは聞き返さないでよ。馬鹿」


 そうふくれっ面を見せてくれる春ちゃんはとてつもなく可愛くて、私は頭が焼き切れてしまいそうで思わず顔に手を当てて耐える。


「う、あの……、じゃあ、い、いいですか?」

「え、今? ま、まだお昼にもなってないのに?」

「あ、ごめんなさい。そ、あの、よ、夜、いいですか?」

「なんで敬語……いや、まあ、ちょっとくらいなら、今でもいいけど」


 ごくり、と無意識に口の中にたまっていた唾を飲み込んだ。ちょっと呆れたようにしつつもそう言った春ちゃんの軽さとは逆に、私の下心の重さはとどまるところを知らず床についてしまいそうだ。


「じゃ、じゃあ……」


 顔をおおっていた右手をおろして、ゆっくりと手を春ちゃんに向ける。いつも自分から触れてしまわないように気を付けていた。そこに、触れていいんだ。

 春ちゃんは無防備に、夜寝間着になってブラもつけていない状態でも平気で腕を組むようにしてきたから、いつも意識しないようにはしていたけど、まあ……わかるよね?


 心臓が爆発してしまいそうになりながら手をちかづけて、なんとなく手のひらで触れるのも恐れ多い気がして、爪先で下から撫でる様にちょっとだけ触れてみた。

 少し背がのびて、少し胸も大きくなった春ちゃんはファーストブラの時とは違って、ワイヤーとかはないスポーツブラみたいなやつだけど、ちゃんとブラみたいな形をしたのを使っている。

 そんな柔らかい生地越しにも、春ちゃんの胸が確かにあるのがわかる。脂肪の張りと言うか。弾力があるのが力をいれてなくてもわかる。春ちゃんの胸に触れていると思うと、爪先だけで感触って程じゃないのにすごく興奮してくるのを、自分でも自覚しているけどとめられない。


「ん……くすぐったいよ」

「! や、や、や、柔らかい、ねっ」

「そりゃあ、固かったら恐いでしょ……と言うか、ちょっと、顔、見ないで。恥ずかしいし」


 春ちゃんの声に無言になってしまってて怖かったかなと思って、何か言わなきゃって口を開けたけど馬鹿みたいなことしか出てこなかった。集中しすぎて胸元ばかり見ていた顔をあげて春ちゃんの顔を見ると、呆れつつ照れて赤くなっていて、恥ずかしそうに顔を隠した。

 赤くなるくらい、珍しくない。でも今は意識しまってて、すごい、エロく感じてしまう。いや、見ないでってことはちょっと自覚しているのかな? あ、そうじゃなくて、その、えっと。顔を見ちゃ駄目だから。


「じゃあ、その、膝、のってもらっていい? その、後ろから触るから」

「い、いいけど……」


 春ちゃんに私の膝をまたぐようにして座ってもらう。前より少し大きくなった春ちゃんは膝にのせると同じくらいの高さになっていて、顔をよせるとそのまま頬にキスができる。


「ん」


 キスをして気持ちを落ち着けて、まあ落ち着かなかったけど、その勢いで春ちゃんの脇の下から手を忍び込ませてそっと両胸に触れた。角度が自然だったので、思っていたよりスムーズに触れられた。

 一昨年、春ちゃんとお風呂に入った時、はっきりその胸を見た時はまだ、膨らみかけている程度だった。だけど今、明らかに膨らんでいる。手のひらで包み込むと布越しにも柔らかくも張りのある元気さがそこにあって、心臓がどくどく動いているのが分かる。


 春ちゃんもドキドキしてくれてるんだ。ちょっとだけ力をいれて、軽く指先で触れる。はじき返されるような感触。指先でくすぐるように揉んでみる。


「ん、んふぅ」

「い、痛くない?」

「痛くはないけど……くすぐったいよぉ。ふふふっ。もう」

「ご、ごめん。えっと、じゃあ……」


 痛くないように慎重にしつつも、指が春ちゃんから離れてくすぐってしまわないよう手の平全体で押し付ける。さっきよりはっきりと柔らかさを感じる。揉んでいるんだと思うと、全身が心臓になってしまったかのようにドキドキしてうるさい。


「ん……」

「い、いたい?」

「痛くはないけど……変な感じ。ちょっと、むずむずするって言うか」


 その言葉に、さらに欲がでてくる。私の手で気持ちいいって感じさせたい。


「……あの、シャツの下に、手、入れて、いい?」

「……えっち」

「あ、ごめ、う、うぅ……でも、上はいいって、言ったし」

「そうだけど……もういいよ。わかった。いいよ。どーぞ」


 なんだか投げやりにだけどOKはもらえたし、見えている耳は真っ赤になっているので別に嫌がってるわけじゃないはずだ。と言うか、仮にちょっと嫌がってたとして、もう気持ちがとまれない。

 私は逸る気持ちのままに春ちゃんのシャツの裾から手をいれた。お腹の素肌にまず触れる。温かくてもちもちした肌。思わずそのままお腹を撫でてしまう。すごい、肌触りが良すぎる。すべすべだ。右手の中指がお臍にかかったので、そのままふにふにと指先を入れてみる。


「ちょ、ちょっと。おへそはやめて。下痢になっちゃうでしょ」

「そうなの?」

「え、わかんないけど」


 おへその奥までいけば、内臓に近いのだから強い刺激が影響をする可能性もあるかもしれないけど、普通に表面なら問題ないとは思うけど、ちょっと気持ちも落ち着いたのでやめることにする。


 そしてついに、下着に触れた。春ちゃんのブラは優しい手触りをしていて、単体としても肌触りがいい。そっと胸を覆い隠すように手のひらでふれる、手の平は触れたままで、指全体で上下に撫でる。


「ん……」

「痛くなったら、言ってね」

「うん……」


 小さくなるように身をすくめて反応が少なく、言葉も少なくなった春ちゃん。でも嫌とか痛いとか無理なら、絶対言ってくれるはずなので続ける。今度は指先をまげて揉んでみる。少しだけど指先が沈む感触。抑えた分、指の付け根に春ちゃんの胸が押しあてられるような感触。


「……」

「……!」


 しばらくそうしていると、ブラ越しにも中に変化があったのがわかった。別に、気持ちよくなくたって刺激に反応する。わかっているけど、どうしても少しは感じてくれたのだと思ってしまって、興奮して私はそのままブラをずらすようにして直接触れた。

 その瞬間、かすかに震えた春ちゃんだけど、やっぱり何も言わないままだったから、そのまま触れる。固くなった頂点は指先で触れると、まるで花の蕾のようにかたく震えていて、可愛らしい。


「ん……」


 つんつん、と優しくつつくと春ちゃんが少しだけ声を漏らした。


「あ、あのさ……顔、見ないから、正面から春ちゃんの、見たいんだけど」

「……変態」


 春ちゃんは私をののしりながら、そっとシャツを下からまくり上げてくれた。首まで上がったシャツの向こうに無理やりあげたブラが窮屈そうに胸を圧迫し、その下から春ちゃんのピンク色の小さな蕾が顔を出した。


「綺麗、だね」

「うるさい」


 うるさいと言われてしまった。本音なのだけど、恥ずかしすぎてキレ気味になっているのかもしれない。春ちゃんは照れ屋さんなのでそういうところがある。そう言うところも可愛いけど。

 でも、そう言われたら仕方ない。うるさいって言われたら、もう話せない。だから仕方ない。声にはださずに続けるしかない。と言う理論武装を脳内でした私は、春ちゃんに確認をとらないまま体を持ち上げて左太ももの上にのせて膝を引き寄せるようにして半身こちらに向けさせた。


「ちょ、や……馬鹿」


 膝の上で横向きに座っている形になった春ちゃんは両手で自分の顔をおおった。そんなに顔が見られたくないなんて、ほんとにかわいい。顔より隠さなきゃいけない、エッチなところが丸見えなのに。

 背中に当てて支えている手を少しゆるめて、春ちゃんをもたれ気味のし姿勢にさせて、そっとその胸に顔を寄せた。


「!?」


 ちゅっと軽く唇で触れると、さっきと同じようにぴくんと反応してくれた。だけどこれ以上強く触ることは、春ちゃんの体を思うとやりにくい。なので指より柔らかくて、より気持ちよくなれそうな舌で触れてみる。

 肌って塩っ気がある気がしていたけどそんなことはなくて、これと言った味はしないはずなのに、どこか甘い気がした。


「や、やぁ……へ、へんたい。ほんとに変態なんだから」


 春ちゃんは顔を覆っている指の隙間から私を見下ろしてそう声もふるわせながら、私の手に背中を押し付ける様に体をそらす。でもそれは逃げているのではなくて、まるで私に体を預けるような動きで、私はそっとそのまま春ちゃんをソファにもたれさせた。お尻をあげて体を抜いて、そっと春ちゃんに覆いかぶさる。

 右手で優しく乳房全体を揉む。と言っても、仰向けになってしまうとますます胸はひらたくなってしまって、揉むほどない。脇の下から引き寄せる様に、くすぐるように優しく触れる。

 そして反対側の胸には舌で触れる。ちゅ、ちゅ、と二回舌ではじくと、唾でぬれたのもあってまるで挨拶してくれたみたいに音がして、充血して固くなったそこは春ちゃんの興奮を表しているみたいに感じた。


「あ、あぁ……」


 ちゅぱっ、と音をたてて唇をつけ舌先で舐めながらちょっとだけ吸い付くようにして味わう。口に入ってくるのは私自身の唾でしかないはずなのに、唇で固い弾力を感じながら味わうと春ちゃんのいい匂いもして頭がくらくらして、すごく美味しく感じてしまう。もっともっと、味わいたい。


「あ、だめ、やだ、なんか、生理きたかも」

「ん……? 先週終わったところだよね?」

「そうだけど、出る感じしたから。ちょっと、トイレ行ってくるから、これで終わりね」


 春ちゃんは膝をあわせて太ももと占めるようにしながらそう言って、私の鎖骨あたりを押すようにして終了をうながした。

 でも、ちょっと待って。それって生理じゃないんじゃ? だって春ちゃんの整理周期いつも安定してるし、その、単に何か出てきたってだけなら、おりものってことなんじゃ?


「あの、それって生理じゃなくて……気持ちよくてでてきたやつじゃないかな?」

「え……そ、そんなわけないし」


 純粋な疑問だったのだけど、春ちゃんはいったん引き始めた赤みをまた戻して、怒ったみたいにぎゅっと顔をしかめてしまった。でもそんな顔も可愛いし、それに、気持ちよくなって濡れてくれたのだと思うとすごく嬉しくて心臓が痛いくらいばくばくしてきた。


「気持ちよくなかった?」

「……馬鹿。そんなの知らないもん」


 真っ赤な顔で涙目になって睨んでくる春ちゃんと目を合わせているだけで、頭がおかしくなってしまいそうなくらい、くらくらする。


「あの、じゃあ、ちょっとその、見せてくれない? 私、見て判断するから」

「な、何言ってるの馬鹿っ。下はダメって言ったでしょ」

「見るだけ! 見るだけだからお願い!」

「恥ずかしいから無理」

「私も見せるから。お願い! 絶対触らないから!」

「……」


 いつもなら絶対こんな風に強引にできないのに、頭に血が上った私はそう春ちゃんに迫っていた。そして嫌そうに顔をしかめられたりもしたけど、最後の砦(パンツ)だけは守ったけどそれ以外全部脱いで、私は春ちゃんと一緒に気持ちよくなった。


 こうしてこの日、私はあんなに幸せだった恋人との半年を過ごしてもまだ知らなかった幸せの先を味わった。

 そしてこれからきっと、この幸せのさらに先を、もっと先を、春ちゃんと一緒に味わっていくんだろう。死ぬ前には今想像できないくらい幸せで、幸せすぎて死んじゃうんだろうな。


 そんな風に思いながら、私は疲れて寝ちゃった春ちゃんのほっぺにキスをした。


 あー、幸せだなぁ。


 ちなみに目が覚めた春ちゃんには強引すぎたってめちゃくちゃ怒られたけど、その後も時々は許してくれるようになったので多分セーフ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

だって、好きになっちゃったんだもん 川木 @kspan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ