星のうつわ

蛍火千花

第1話 与えられたもの

 「君に正義を与えよう。」


 麻酔が効いてきて、意識はぼんやりとし、あたり一面が暗くなる瞬間に聞こえてきた言葉がそれだった。「正義」とはこの地獄を生き残る力だと、少なくとも俺はそう思っている。

 異星人の地球侵攻から2年という月日が経ち、多くの人が亡くなった地球で、それでもギリギリのところで持ちこたえているのは人類が諦めずに戦っているからであった。しかし、宇宙の彼方からやってきた彼らに人類は敗北を重ね多くの都市が占領されていた。人類の大半は住処を失い、核戦争を想定して造られた地下シェルターでなんとか今日を生き抜いていた。

 そして俺は今、深い深いどこかの地下施設で彼らと戦う為の兵器になろうとしていた、もともと地球は異星人が攻め込む前から膠着状態といえる状況だった。未知のウイルスが蔓延し経済は悪化、度重なるテロや紛争で人類は世界大戦の一歩手前の状態まで差し掛かろうとしていた。そうしたなかで主要な国々は戦争で勝つために数万人がしばらくの間生活をするのを想定して造られた地下都市を建造(核戦争となるのを想定したため)と極秘裏に進められたプロジェクトを開始した。それは、新たな強力なミサイルや銃の開発などではなく、「人類」の進化だった。

 普通、戦争というのは人と人の戦いだが文明が発達した現代、無理して人間が戦う必要はないはずだった。これからはAIを駆使した無人兵器が主流となるとどこかの国の国防長官がニュースで演説していたにも関わらず人類は人と人とが戦うという道を選んでしまったのだ。

 結局のところ人類は欲しいのだ自国を勝利に導く存在が希望の象徴となる人間すなわち「英雄」が。プロジェクトが開始されて10年という月日が経ち計画は予定の最終局面まで迎えようとしていた。そして、完成間近に差し掛かろうとしていた2040年に異星の戦士が地球を攻めてきた。

 彼らの攻撃で殆どの研究施設は焼かれ運よく残ったこの地下研究施設で俺は手術を受けようとしていた。もともと身寄りがなく天涯孤独の身だった俺は15歳の頃から全地球防衛大日本第一高等学校に進学し軍人を目指して5年という月日が流れて卒業し、その後は一兵士として日本459基地に配属となり20歳を迎えた。この年の2040年8月、気温40度を超える猛暑日に彼らが突如地球に攻めてきたのだった。最初は人類の脅威となるはずだった新たな人類は皮肉にも希望として戦場に送り出されることとなる。


「こんど寝て起きたら君はもう唯の人ではなくなる」


「それでも君は力を欲するかね。」


当然だ、別に俺が欲しいのは正義でも英雄の称号でもない。ただ生き残りたいから力が欲しい。視界はだんだんと暗くなり抵抗する暇もなく瞼を閉じる、今度目覚める時、俺はもう普通ではなくなっている…。


「先生、被験者の容体は安定。いつでもオペを開始できます。」


「これこれ浅海くん、被験者なんてまるで彼が実験動物みたいじゃないかこの子はいずれきっと人類の希望となる、必ず成功させよう。」


「申し訳ありません先生。決してそういうつもりでは…」


「分かっているとも。それでは諸君、本日5月5日時刻13:00、人類の新たな希望として、幸長士道くんのオペを始める」


「さあ幸長士道くん君に正義を与えよう。」

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