第2話・少し怒れ銀子

「あんた、あたしに何をしたの! 説明して!」

「う~ん、どこから話したらいいものやら……銀子、最後に覚えているコトは何?」

「なに言っているの? あたしが陸上部の部活休憩で、芝生の木蔭で友だちと並んで雑談していたら、いきなり背後から近づいてきた。あんたが、あたしの髪を抜いて……あ、あれっ??」

 困惑する銀子。

「そこから先の記憶がまったく無い……なんで? それに、あたしショートヘアだったのに。いつの間にか髪が腰まで伸びている??」

 腕組みをして「うん、うん」と、満足そうにうなづく才演。


「その銀子の髪を抜いたのは、半年前だよ……銀子の陸上部は、県代表の予選を突破した」

「陸上部の県代表予選なんて、はじまってもいないのに?」

 頭を掻く才演。

「短刀直入に伝えた方がショックが少ないかな……ズバリ言う」

 才演は銀子を指差して言った。

「これ、クローン人間の銀子。本物は元気に学校に通っている」

「はぁ!?」

 クローン銀子の目が、横楕円の白抜き目になる。

「AIと生体3Dプリンターの力を借りて、クローン人間の銀子を作ってみたら、成功しちゃった♪」

 才演が続けて喋った。

「銀子の細胞に刺激を与えるために、フランケンシュタインの映画みたいに、少し電流を流したりもしたけれど」……の言葉に。

 下を向いて、ワナワナとさっきよりも震えだした銀子が言った。

「相変わらず、状況はさっぱり呑み込めないけれど……つまり、あたしの体を使って、とんでもないコトをしてくれちゃったワケ!」

「いやぁ、好奇心を抑えきれなくて」

 赤い液体が染みた、バスタオルを巻いた銀子が立ち上がる。


「あたし、家に帰る! あたしの下着と服は!」

「ズバリ、オレの部屋には用意してない」

「ふざけるな!」

 怒り心頭の銀子。

 その時、部屋のドアが開いて、才演の姉が顔を覗かせた。

 固まる銀子──年頃の男子高校生の部屋に、バスタオル一枚を体に巻いて立つ、女子高校生がいるシュチュエーション。


(こ、この状況は……)

 銀子が、初対面の才演の姉の出現に、どう反応したらいいのか戸惑っていると才演の姉はサラッと言った。

「銀子ちゃん、完成したの? ちょっと待って今、着るもの持ってくるから」

 あまりも自然な、才演の姉の対応に、二度目の横楕円白抜き目になる銀子。

(はぁなに? そのガンプラでも、完成したような反応?)


 才演の姉は、すぐに自分の部屋から自分が高校生の時に着ていた服と下着を持ってきて、銀子に差し出す。

「はい、これあたしのお古だけれど……まずは、お風呂ね。バスルームは階段を降りた廊下の突き当たりにあるから……お風呂から出たら、洋風の居間に来て」

「はぁ……どうも、お風呂お借りします」

 銀子は言われた通り、お風呂でシャワーを浴びて。ラフな室内着を着ると居間に向かった。

 洋風の居間では、才演の家族たちが、クローン銀子の二度目の誕生を祝うパーティーを用意して待っていた。

 才演の父親が、居間に入ってきた銀子を見て、祝福のクラッカーを鳴らす。

「いやぁ、やっと完成したね……待ち望んだよ」


 才演の母親が、キョトンとしている銀子の手を引いて席につかせる。

「はい、銀子ちゃんは才演の隣に座って」

 ワケもわからないまま座った、銀子の伸びた髪を触りながら才演の姉が言った。

「後でカットしてあげるね、才演の好みの……肩甲骨くらいまでの長さに」

 パーティーがはじまり、しばらくしてから才演の母親がポツリと銀子に言った。


「早く、孫の顔がみたいわね」

 飲んでいたジュースを勢いよく吹き出して、動揺する銀子。

「ま、孫ぅ!? いったい何を言って?」

「あら? てっきり才演が、話しているものだとばっかり……家族には『好きな女の子がいるから、嫁にしたいからクローンを作る』んだって……聞いてないの?」

「聞いていません、今さっき勝手にクローンで作られたって、聞かされたばかりで」

 才演の父親が結婚式場のパンフレットを数冊、取り出して言った。

「なんだぁ、初孫の顔が見れるかと楽しみにしていたのに……ところで銀子ちゃん、式場はどこがいい?」

 パニックになる銀子。

(なんなの、この家族……息子が本人の許可なしで、勝手にクローン人間作ったのよ……そっちの方が大問題じゃないの)

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