第10話 「蛇の女王」

「そこで何をしておる」


発せられた声は幼さと冷徹さを放つ不気味な物だった。話をしようにも恐怖で声が出なかった。なんでこんなことになったのか……


ーー数分前ーー


蛇の口の中に隠れて、一緒に外に行こうと作戦した僕はなんとか蛇の顔の近くまで辿り着くことに成功した。しかし喜んだのも束の間蛇が口を開き、その大きな口で僕を丸呑みにしたのだ。


「うわぁぁぁぁ!!」


口の中はヌルヌルしていて、食べた物の臭いが残っていて鼻が取れそうだった。

口に放り込まれると同時に唾液が放出され、唾液が足元を滑らせ、思わず転倒する。そのまま唾液に流され、奥の方へどんどん流される。


不思議なことに下に流されるほど、広くなっていた。ある所までくると流れは止まり、部屋のような場所に着いた。蛇の体内とは思えないほど、綺麗になっている部屋はゲームらしいな、なんて考えていた。あたりを歩いていると後ろから声をかけられた


「そこで何をしておる」


と、今に至る


「貴様ニンゲンか? なぜ妾の部屋にいる?」


声の主は僕と同じくらいの少女で紫の髪には蛇のブローチが付けられていて、真紅の瞳と相まって人間ではないことはすぐ分かった。


いつまでも黙りこくっていても怪しまれるだけなので、震えながらもなんとか答える


「僕は、大きな蛇に飲み込まれてここに来ました……あなたを倒そうとかは思っていないので安心してください……」


「貴様のような子供が妾を心配しておるのか? 舐められたものよ……」


睨んだかと思ったら、ため息をつく素振りはとても感情豊かで思わず笑ってしまった


「くす……」


「貴様……! 何を笑っておる!?」


「あ……ごめん」


「まったく……それで? 人間がこんな所でなに用なのじゃ?」


すっかり緊張の溶けた僕は洗いざらい起きたことをその少女に話した。


「ふむ、姉とはぐれてここまで来たのか」


「はい……なんとかお姉ちゃんの所に帰りたくて」


そういうと少女は少し悲しそうな顔をして僕に尋ねてきた


「やはり……家族とは一緒にいたいものなのか?」


「うん……お姉ちゃんは大事な家族だから」


「そうか……なら妾が貴様を姉の元に返してやろう」


「え? 本当に?」


「なに、生きている人間など喰いたくはないわ、いつまでもここに居られてもこまるしな」


意外なほど話の通じる少女に、ここまでの疲れから思わず涙が溢れる


「ど……どうしたのじゃ!? 」


いきなり泣きじゃくる僕に困惑して、少女はあたふたと慌ててる。どうしたらいいのか分からなくなった少女は僕を抱き締める


「……!?」


「……悲しい時は母上がこうしてくれたのじゃ、だから妾もこうしてやる」


少女の優しさに姉の姿を重ねる。昔はこうしてよく慰めて貰ったな……

そうだ、今は泣いている場合じゃない。お姉ちゃんの所に帰らなければ。


「ごめん、ありがとう」


涙を拭い、少女の抱擁を解く。


「なんじゃ? もう良いのか?」


「うん、泣いてばかりじゃいけないから」


「そうか、お主は強い子じゃのう」


「強い子」と言われて涙が完全に引っ込んだ。自分を鼓舞し、少女に向き合う


「お願い! 僕をお姉ちゃんの所まで連れて行ってほしいんだ!」


少女は優しく微笑み、こう言った「もちろんじゃ!」


「ありがとう……そうだ君のことなんて呼べばいい?」


「そういえば自己紹介がまだじゃったのう、妾は蛇の女王シブラじゃ」


「僕はユウ、よろしくシブラ!」


「ユウか良い名じゃな」


お互い自己紹介を済ませたところで、自分が何をすべきか今一度考えてみた。

まずは外の沼を出て上に行きたい。ここが何層あるのかも分かっていないから。


「上に行くにはどうすればいいの?」


「上に行きたいのか? ならば要望通り連れて行ってやろう」


すると地面が揺れだし何かが動き出した。


「ど……どうなっているの!?」


「安心せい、妾の分身を動かしているだけじゃ」


「分身……ってことはあの大蛇は君だったの!?」


「そうじゃが? まったく……せっかく寝ていたのに口に入り込んできおって」


「あの……その……ごめん」


「まぁ退屈しのぎには丁度よい」


まさかシブラがあの大蛇だったなんて……ということは僕は人の脱皮した皮を勝手に加工して使ったということになる。そのことは言わないでおこう


緊張がほどけて気が緩んだのか、自分のお腹から「ぐ〜」と気の抜けた音がなった。


「お? 腹が減ったのか?」


「ごめん……ずっと食べてなくて」


「まだ時間はあるし、飯にでもするか」


そういうとシブラはどこからともなく獣の肉や腐った果実を取り出した。


「え!? それ……食べるの?」


「何か問題あるか?」


よく考えてみればシブラはモンスターだ。あの沼の物を食べて生きてきたのだ。

周りを見ても散らかっていて、とても女の子が住むような部屋ではない。


「……シブラ」


「ん? どうした?」


「ちょっとそこに座ってて」


シブラを椅子に座らせて、落ちているゴミを一箇所に纏める。プロパティから木の板を加工して家具を作り部屋に置いた。

あっという間に部屋を綺麗にすると、シブラは感心している。


「ユウは凄いのう」


「あ……勝手にやって迷惑だったかな?」


「いやこの方が落ちつく。助かった」


喜んでくれているみたいでよかった。せっかくだしご飯も作ろう。プロパティから食料を合成し簡易的なサンドイッチを作った。


「よかったらこれも食べて」


「これはなんじゃ?」


「サンドイッチっていうんだ」


シブラは初めて目にする食べ物を見て警戒しているのか、恐る恐る手に取る。

大きく口を開いて口に入れると目を輝かせた。


「う〜ん!! これは美味いのう!」


「口にあったみたいでよかった。お茶もあるからよかったらこっちも飲んでね」


「おお! これも美味い! ほどよい甘みと口に広がる花の香りが最高じゃ!」


それからしばらく色んな話をシブラに話した。どの話にも目を輝かせて聞いてくれて、この世界に来て初めての友達ができた。

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