第35話 潜入

側近がタギアタニア国王の所まで息も絶え絶えに走ってきた。

「国王!左軍将軍フェルマン様が到着しました! それと。。」


「それと何だ!」


「ウド将軍。。いえ。。。ウド監獄長及び部下1名が同行しております」


「問題ない 直ぐに通せ!」


「国王 お久しぶりでございます」

ウドが片膝をついて頭を下げた。横にいたリュックはこれに倣ならう。


「ウドよ。。。懐かしい所悪いがお前の部下カールがこの暴動を先導しているのは本当か?」


「本当のようです。全ての責任は私に有ります。処分ならこの件が済んだ後で何なりと……」


国王はウドとフェルマンにどの様にこの事態を収拾するか戦略を聞いた所、ウドはカールとの対話が最善策だと提案し、フェルマンは武力行使による抵抗を提案した。


「ペソノ お前の考えはどうだ?」


「まぁ 今回はカールが先導しているというし、ウド獄長にカールを説得出来る自信があるのでしょう。ウド獄長の対話の案に乗ってみては?」


「うむ。。。 そうだな。。。」


国王は黙り込んでしまった。


問題はどうやってカールと対話をするかだった。恐らくカールは王の首を狙っている。対話をしよう! よし! 分かった! なんて単純にいくはずがない。

そうこうしているうちにカールは暴動を先導してこの城へ近付いてきていた。



一方、クロガネと青藍は。。。



「青藍、 城へ行くための隠し通路があるんだろ?」


「ああ、噂ではな。。。 でもな、隠し通路を知ってるのは王族の人間かそれに近い人間位だ。。。 悪いなクロガネ、どうやら俺逹はここまでのようだ」


「何言ってるんだ青藍、居るじゃないか一人!」


「あっ。。。」


 2人は顔を合わすと、外には暴徒が居るのもお構いなしに目的の場所へ駆け出していた。

2人は同じ事を考えていた。確かに、彼女なら絶対に知っているはずだ。



あっという間に目的の場所へ戻ると、クロガネが勢いよくドアを開けた。


バタンッ!


「イブ王女!」



「きゃあ! ななななな。。。なんなのよ! びっくりしたでしょ! 暴徒かと思ったじゃない!」


イブが後退りしながらびっくりした顔で叫んだ。


クロガネと青藍はイブを落ち着かせた後、経緯を説明した。

すると、イブの顔がみるみると強張った。


「クロガネが必要としているモノをあいつペソノが持っているわけね。いいわ、取り返してあげる! 私、あいつの弱みを握ってるから」


「本当か?」


「ただし! クロガネ 教えなさい! 命懸けで連絡を取ろうとしている人は貴方のなんなの? 本音で答えなさい!」


「。。。」


「言えないの? ならこの話は無かったことにさせて」


クロガネはふーっと息を吐くと口を開いた。


「俺はその人に会って謝りたいんだ。いや。。。言い訳かもしれない。

 会って自分の気持ちを確かめたい。それに、色々と知りたい事があるんだ。。。それが本心だよ」


「女性?」


「ああ」


「綺麗な。。。人なの?」


「ああ」


「。。。名前は?」


「テレジア」


「自分の気持ちって言ったのは。。。その。。。もしかして。。。彼女に。。。好意があるの?」


「。。。ああ」


「。。。わかった。城へ続く隠し通路があるから連れていってあげる。でも、1つ条件があるの。国王を、ううん、この国を助けるのを手伝って! お願い!」


「国を助けれるか分からないけど、最低でもイブだけは守るよ」


「ふふっ 弱いくせに。。。でも ありがとう」


出発の準備を整えると、3人は隠れ家から外へ出た。イブの案内の元、途中何人もの暴徒に出くわすが、難なく突破して隠し通路のある場所までたどり着いた。


「ここよ。汚いからあんまり入りたくないんだけど」


一見するとなんて事はない公衆トイレだった。イブが言うには一番奥の用具入れが城へと続く隠し通路になっているという。

 用具を片付けて行くと床の一部が見え、一部色が変わっている箇所があった。

 イブが足でその箇所を踏み込むと目の前の壁がゆっくりと横にスライドした。


開いた先は真っ暗だったが、よく見ると遠くに灯りがある。


「さぁ 急いでいきましょう!」


イブを先頭にクロガネと青藍が続いだ。


「ねぇ クロガネ! どうしてカール監長はおかしくなってしまったのかしら? やっぱり、ずっと

私達人間に恨みを持ってたのかしら?」


「。。。どうだろう? ただこの暴動はカール監長が先導してるらしいからな。とにかくあの人を説得すれば暴動自体は治まるかもしれない」


「どうやって?」


「。。。うーん、やっぱり対話しかないと思う。そりゃあ この暴動を止めれるような力が俺にあればそうするけど。争いで終結したとしても力で押さえつけるだけであって、真の終結にはならないと思うんだ」


「うん。この暴動の根底は種族差別から始まっていると思うの。私は青藍の村に行って気付いたの。お互いが分かり合えれば、種族関係なく平等に暮らすことが出来るんじゃないかって」


「。。。」


クロガネとイブのやり取りを黙って聞いていた青藍が口を開いた。


「イブ王女。あんたの理想は甘すぎるな。種族差別は無くならない。誰かを下に置きたいんだよ人間ってのはな。俺はそういう人間を何人も見てきた。。。 でも、ありがとな。その言葉を王族から聞けただけでも、俺の村の人間は喜ぶだろうぜ」


 暗いとは言え遮るものがない隠し通路は思いのほか順調に通過する事が出来た。

3人は城の中へ入ると、城の中の廊下で慌ただしく動くメイドや兵士達の光景があった。


「囚人と獣人が城へ侵入したぞ!」


1人の兵士が大声で叫ぶと周りから十数人の兵士達がワラワラと集まり、あっという間に3人を取り囲んでしまった。


「何処から侵入してきた? 図体のでかい獣人が居たら気付くはずなのにな。それにその服装は囚人だな!」


すると、イブは被っていたフードを下げて兵士達に下がるように命令するが、何を言ってるんだ?という顔をして、構わず飛び掛かってきた。


「青藍! 手加減してあげて!」


 イブの声に反応した青藍は、あっという間に取り囲んだ兵士達を倒していった。

イブが倒れている兵士の1人に声を掛けた。


「お父様は何処にいるの? 暴動はどんな状況なの? 教えなさい!」


「う。。。 囚人に教えるはずがないだろ? 殺すならさっさと殺せ!」


「馬鹿者! この国の王女の顔を忘れたの! 王女の名にかけて命ずる! 教えなさい!」


兵士はじっとイブの顔を見ると、みるみると青ざめていった。


「イブ王女? 生きていたんですね!」


その声を聞きつけて周りに人が集まってきた。

野次馬の中にイブ専属のメイドも居て本物のイブ王女である事を証人になってくれた。

おかげで3人は疑われずに済む事になった。


「え? カール監長が王の間に居るんですって?」


話を聞くと、ウド獄長が丸腰でカール監長の元へ行き、説得に説得を重ねて対話の場を設けたのだった。今まさに、王の間で国王と対話をしているとの事だった。

暴徒達はカールの命令通り対話の間は大人しくしているらしい。


「行きましょう! 王女である私も参加する権利があるわ! 行くわよ クロガネ! 青藍!」


 イブが2人の手を引っ張って王の間へ連れていこうとした。周りの制止も気にせずズカズカと王の間へ歩いていく。


「おっ おい! イブ王女 俺達も行っちゃっていいのか?」

「姉ちゃん。。。いや、イブ王女。俺が行くとややこしくなるんじゃ。。。」


「いいのよ! 2人とも黙って付いてきなさい!」


「はい。。。」


王の間の扉の前で待機している兵士が立ち塞がった。

剣を抜き3人に突き付けた。


「何奴! 囚人服を着ているお前たちは暴徒だな!!」


すると、後ろから急いで止めに入る身なりの良い男が走ってきた。


「剣を直ぐに下げろ!! 目の前に居るのはイブ王女であるぞ!」


「どいて! クロガネ! 青藍! 中に入るわよ!」


バーン!


イブが勢いよく扉を開けて入ると、目の前にそうそうたるメンバーが座っていた。

向かい会って左側には国王、ペソノ、フェルマンが、右側にはカール、そしてウドとリュックが居た。



「あれ? エヴァ、クロガネ、それに青藍じゃないか! 何でこんな所に?」


リュックが思わず大きな声で驚いた。


すると、ウドとフェルマンが跪ずいた。リュックは2人の行動に驚きただ眺めるしかなかった。


「帰って来たか。。。 我が娘イブよ」


国王がイブを一瞥すると、カールへ視線を戻した。


「お父様! 私達もこの対話に参加させて頂きます!」

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