第34話 慢心

一行いっこうが村を出てから既に5日が経っていた。


壁の内側は酷い惨状になっていた。

門が開き、囚人が雪崩れ込んで来た事は王の耳に直ぐに入っていた。

将軍へ指示を出し事態の収集を計ったつもりだった。


軍が直ぐに何とかするだろう。


王族、大臣逹は慢心していた。


蓋を開けてみたら全く軍が機能しておらず、街のいたる所で略奪や殺人が発生していた。

軍からの言い訳として主に3点を国王に報告していた。


1.囚人逹は観光客、すなわち他国の要人逹を人質にして手が出せなかった

2.壁があるという安心から有事を想定した訓練をしていなかった

3.軍をまとめる者の統率力不足だった


言い訳として最悪だった。

常日頃の訓練を怠ってなければこんな事にはならなかったはずだ。

国王はこの時初めて、ウドを壁の外へ放出してしまった事を後悔した。


「国王!報告です!」

国軍隊長が国王の元へ走ってきた。


また悪い報告か。。。

国王はうんざりして聞いた。


「報告せよ」


「はっ。。。この城へ続く3つの検問所の内、2つが囚人達によって突破されました」


「何だと!何でこんなに簡単に突破されているんだ!鉄壁の検問だったはずじゃないのか?」


「それが。。。申しにくい事が起こっているようです」


「直ぐに申せ!どういう事だ?」


「元・軍隊長カールがこの暴動を先導していると部下より報告がありました。厄介な事に魔族、獣族の部下達がカールに賛同して検問所の防衛を放棄し、検問所の門を開けてしまいました」


「なっ なっ 何だと―!!!左軍将軍フェルマンをここへ呼べ!! 今すぐにだ!!」


「はっ」


気付いたら城まで行くための2つの検問所が既に囚人逹に突破されていた。

対岸の火事だと思っていたタギアタニア王は目の前まで迫ってきている脅威に怯える事になった。






「クロガネ 起きろ!」

青藍の声で目を覚ます。


「悪い。。。眠ってたみたいだな。街の様子はどんな感じ?」


「相変わらすだ。囚人逹が略奪や街の破壊をして騒いでやがるぜ」


クロガネ逹は2日前に壁の内側に入ることに成功していた。

囚人逹が言っていた通り、見上げる程の門は全開になって誰もが入れる状態になっていた。


今は、住人が逃げ出した空っぽになった家に潜伏して状況を伺っていた。


-ここからは別行動だ。ワシらは軍の所へ行ってくる。エヴァの事たのんだぞ!!



昨夜、ウドとリュックは軍が駐留している場所へ向かうとの事でクロガネ達に別れを告げた。


エヴァは。。。何故かどうしてもクロガネ逹と行動すると言って止とどまった。


「エヴァ あの夜に喋った事を知ってるからウド獄長と行動した方が良かったんじゃないか?」


「あの夜に喋った事?」

それを聞いたエヴァがキョトンとしているのを見てクロガネは頭を抱えた。


「いや だからさあ・の・話・だよ。。」


「回りくどい男ね! はっきり言いなさいよ! 女にモテないわよ!」


「エヴァはこの国の王女って事だよ!!」


「え。。。あ。。。。あ。。。何で。。。何で。。。知ってるの。。」

エヴァは顔を真っ赤にし、口をパクパクしていた。


「なんじゃそりゃ?本当なのか?」

青藍は驚いてクロガネとエヴァの顔を交互に見た。


「ああ、ウド獄長も知ってる。はぁ。。酔っぱらったてたとは言え喋った事全部忘れているとは。。。」

クロガネは溜息をついた。


「そ そうよ 私の本当の名前は タギアタニア=イヴ ブロンド。皆にはイヴ王女と呼ばれているわ」


「ぐわっはっはっは。そうだったのか。肝が据わった王女様だ。気に入ったぜ!なぁ?クロガネ」


「くそっ!!」

クロガネが珍しく感情をあらわにした。


「隠してた事。。。。怒ってるの?」

イヴ王女がクロガネの機嫌に驚き、言葉に詰まる。


「あっ ごめん そういう意味じゃないんだ。エヴァ。。イブ王女をここにいさせた自分の判断に対してなんだ。もっとウド獄長に相談すべきだった。 ああ。。 やっぱ報連相ほうれんそうは大事だなー」


「野菜が大事なの?」

イブが不思議そうにクロガネに尋ねる。


「そういう意味じゃなくって。。。えっ この世界にホウレン草あるのか?」


青藍がクロガネに耳打ちをした。

クロガネが頷きイブへ提案をした。


「今から青藍と2人で出かけて来る。日が沈む迄にはここへ必ず帰って来るから隠れていてくれ」


「クロガネの言ってた目的の事ね。。。分かった、私も隠し事をしていたし今回は大人しく言う事を聞いてあげるわ」


「ありがとうございます。イヴ王女」

クロガネと青藍は片腕を胸に当て頭を下げた後、街の中へ出ていった。


青藍の話だと隠れ家から目的の場所まで走れば一刻程で着くという。

2人は囚人服を着ている為、暴動を起こしている囚人達に上手く溶け込んでいた。何より青藍が迫力がありすぎて誰も近寄ってこないんだが。


それよりも合わないように気を付けていたのは軍の人間だった。

こちらは囚人服を着ている為、相手は問答無用で攻撃してくるだろう。


「こっちだ!」

青藍が裏路地に入る道を指した。


裏路地に入ると表通りとは雰囲気がガラリと変わり、怪しげな空気が漂っていた。

何故か囚人達の姿が見えない。


「ここは。。。」


「ここはタギアタニア王国内唯一裏取引が出来る場所。ここには人身売買、違法魔法薬の販売、そして滅多に手に入らないアイテムの売買が出来るんだ」

青藍が詳しく説明する。


「周辺で囚人が暴動を起こしているのにここは不気味なほど静かだ。。。」


「だろうな、さぁ。。着いたぞ」


ドンッ

ドンッ


青藍が大きな扉をノックした。


目の前には何の変哲もない建物に大きな扉があった。看板に何か書いているがクロガネには読めなかった。


「どなた様で」

抑揚よくようのない声が建物の中から聞こえてきた。


「俺だ!青藍だ!」


扉がゆっくりと開き顔を覗かせたのは何とも言えない表情をした人間だった。


「入るぞ!」

と言うよりも早く青藍は扉を開けて中に入って行った。

それを見ていたクロガネも急いで後に続く。


建物の中には、見た事が無いアイテムが壁一面に飾られ、高そうなアイテムは頑丈なガラスケースの中に入っていた。


いったどうしたんだ?と言うその人間の名は青藍がレンスキーと呼んでいた。

青藍が売ったアイテムはレンスキーがブローカーとなって収集癖のある王族の人間や他国からの観光客へ売っているという。


「実は少し前にお前に売った激レアアイテムを持ち主に返したくてな」

と、青藍は親指を後ろに立っているクロガネを指しながら事情を説明した。


すると、レンスキーはクロガネの顔を見て驚いた表情になった。


「な。。。なんであんたがここに居るんだ?」


話しかけられたクロガネは青藍と顔を見合わせ首を傾かしげた。


レンスキーは静かに首を横に振った。

「悪いが無理だ。知ってるだろ?王家の人間に売っちまった事。あの激レアアイテムを返してくれと言って素直に返してくれる相手じゃない」


「まー そこを何とかよー、せめて王族の誰に売ったか教えてくれねーかな?俺が直接交渉にいくからよ」

青藍がレンスキーに肩を組んで脅迫をし始めた。


「無理なものは無理だ、売り先を教えたなんて知れたらもう2度と商売出来ないだろ!!」

レンスキーは頑として首を縦に振らなかった。


「レンスキーさん、あんたが売った王族の素性を教えて欲しい。外の状況を知っているだろう?こんな混乱の中あんたが1つや2つ売り先の素性を喋ったって大したことないよ。それでも言わないなら喋ってもらう方法を考えさせてもらう」


クロガネがそう言うとレンスキーの顔が青ざめた。


「や。。止めてくれ!。。わ。。分かったから。。喋るから殺さないでくれ!!」


「何であんたを殺さなきゃならないんだ?」


「ち。。違うのか?。。あんた。。な。。名前は?」


「。。。。クロガネ」


「そ。。そうだよな。。。そんな訳ないよな。。」

レンスキーは自問自答して最後には納得していた。


青藍がレンスキーに喋るように畳みかけ、レンスキーは観念したように口を開いた。


「どうせ喋ったってどうにかなる相手じゃない。売り先はタギアタニア=デル ペソノ。この国の王子だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る