第27話 まだ終わってねぇんだよッッ!!

「桐右が言うから来てあげたのに、全然ダメ」


 尚も臓器を絞り上げられるような激痛が襲う。吐き出す胃液に、血が混ざりだした。こいつはヤバすぎる、このままじゃ殺される……ッ!


「ぐ……、こは……っ」


 ゲボが詰まって声にならねぇ。早く迎撃の準備をしなきゃマズい。……それなのに。


 ヒートが、発動出来ない。


「【シスター・アクト】。それが私の、本当の変異技能の名前だ」


 言われ、破れかぶれに美野里先輩に殴りかかったが謎の攻撃に弾かれた。


「記憶を操作していたのは、私ではないんだ。マルホランド・ドライブは波津三年生の技能。方法は、対象に意識の外側から体に触れること。だから、彼女は喋らない。普段は気配を消しているのだ」

「じゃ、じゃああんたのは……」

「君が今体験している通りだよ、対象の技能を封殺する。その方法とは……」


 そして、彼女は俺の顔面に蹴りをいれた。


「教えてやるわけがないだろ、無礼者」


 地面に顔面から転がって、無様に自分で吐いた反吐を浴びることになった。最初っから全部この瞬間のためってワケかよ。豹変っぷりもやべぇし、もう二度と生徒会コイツらの事は信じねぇ。何もかもが噓だらけだ


「副会長の寵愛を受けながらそれを無碍むげにして、あまつさえ会長と謁見までせしめた。剣である私を差し置いてな。……非常に不愉快だ」

「頼んでねぇっすよ、くだらねぇ」

「その態度が許せないんだよ、わかるか?鷽月一年生。本来なら頼んでも叶わないんだ。そんな事は叶わないんだよッ!!」


 叫び、駆け寄って振りかぶった足を俺の腹にめり込ませる。再び口から吐いて出たモノは、もはやただの血でしかなかった。


「だから、君にはここで再起不能になってもらう。八光一年生にはショッキングな出来事だろうが、まぁそれは後で忘れてもらうさ」

「……殺す!」


 呟き、グッド・フェローズをこの場所に瞬間移動させると虎の姿のままで美野里先輩を襲わせる八光。しかし、会長の攻撃によって空中で弾き返され、一瞬で無惨な姿となり堕ちて消えていった。

 そして、波動は彼女の体をも貫く。苦悶に表情を歪ませると、後方へふっ飛ばされてしまう。俺が下敷きになったのは、守ってくれと頼まれたからだ。


「こ、小戌さん……」


 泣きそうな顔するんじゃねえよ、らしくない。


「驚いた。会長の攻撃を受けて立ち上がれるとは。おまけに、まだ教育を受けていない変異人類が人の為に身を挺するなんてな」

「お前らみてぇなキチガイと一緒にすんじゃねぇよ、バカ女が」

「……クク、バカ?この私がバカだって?なんの称号も持たない下等な生徒が、この私をバカ呼ばわりしたのか?」


 グルリと首を回して歪に笑う。後ろに立つ二人とは対象的だ。


「ナメるなァ!」


 あんたみたいな直情タイプはやりやすくていいよ。どれだけ人を騙す術を覚えても、根底の部分が変わらねぇからみんな似たような負け方するんだろうな。


「覚えとけ」


 蹴りを掴み、引きずり倒して顔面に拳をブチ込んだ。お前らみたいな外道には、声を上げる暇さえ与えない。


「来なよ、やっつけてやる」


 片膝をついて、右手の指を曲げる。しかし、波津先輩は会長に耳打ちをして、ゆっくりとこちらへ向かってくると美野里先輩の体を背負って去っていった。

 ぶん殴るか?……いや、下手に動けば今度こそバラバラにされる。それに、まだヒートが発動出来ない。意識を断ち切っていないから、それも当然か。


 しかし、会長の技能はなんだ?さっきから手をかざしているだけにしか見えない。これだけ強力なパワーであるにも関わらず、何か制約や弱点があるようにも見えない。明らかに規格外だ。


「別になんてことない」


 脈略も無く、唐突に否定する。


「……なに?」

「【リング】。何の変哲もないサイコキネシス」


 読心まで出来るのかよ、もはや何でもありだな。


「一番ポピュラー」

「ちゃんと喋ってくださいよ」

「……?」


 言葉を理解していないのか、それとも興味がないのか。会長は小首を傾げて俺を見るだけで、それ以上なにも答えなかった。


「そろそろ時間」


 パチッ。何かかが来る。そう感じた瞬間に地面を蹴って駆けだす。しかし、踏み込んだはずの足に感覚が無い。その代わりに八光の悲鳴が聞こえる。バランスを崩して地面に倒れる。なんだ?やけに熱いぞ。どうして、俺は前に進め……。


「迷惑かけないで」


 そして、気が付く。左脚の膝から下が吹き飛んでいることに。


「……ッ」


 宙を舞った俺の左足を見て、会長は踵を返すと建物の影へと引き換えしていく。その目には、憐みも驕りも含まれていない。俺が毎朝顔を洗って歯を磨く様に、当たり前のことを当たり前にやっただけ。


 痛ぇ。痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ……ッ。苦痛がハンパじゃねぇ。血の量が尋常じゃねぇ。殺しは違法なんじゃねぇのか?これ、死ぬんじゃねぇのか?ここで諦めたら、心で負けを認めたら、繋ぎとめている意識を手放したら、俺の人生はここで終わっちまうんじゃねぇのか?


 ……嫌だ。そんなのは絶対に嫌だ。俺は、幸せに暮らすんだよ。そう決めてここに来てるんだよ。諦めねぇ。負ける事だって認めねぇ。ケーサツは必要以上にブチのめしちゃいけない、だって?もう関係ねぇ。美野里先輩は、浅く殴っただけだ。こっちがマジメにやってりゃ好き放題荒らしやがって。もう、手加減してやらねぇぞ。


 だから。


「まだ終わってねぇんだよッッ!!」


 真上から降って来た足を掴んで右足で跳躍すると、油断した頭を踵の部分で思いっきりぶん殴ってやった!クタバレ、コノヤロウ!

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