番外編:エリオット殿下とお忍びデート。2


 その日はそのまま王宮で休むことにした。急な話だけど、明日、お忍びデートをすることになったから。……と言うか、エリオット殿下が既に手を回していた。明日は私も休みだから、ゆっくり休んでくださいねと城のメイドに言われた。

 ……エリオット殿下、いつの間に……。

 私はゆっくりと息を吐いた。


「……明日、デートなら丁寧に手入れをしなきゃ……っ」


 ぽつりと呟くと、「お嬢様?」と声を掛けられた。メイドのエリノーラだ。私の屋敷で働いている子も連れてきていた……と言うか、エリノーラは私の侍女だから、ついて来てもらったのだ。伯爵令嬢であるエリノーラは、私よりも年上である。


「聞きましたよ、お嬢様。明日は殿下とデートなのですね?」

「は、はいっ」

「では、いつも以上に丁寧にお肌と髪の手入れを致しましょう!」

「は、はいっ!」


 ガシッと手を握られて、エリノーラにお風呂場へと連れていかれた。……髪と身体をそれこそ丁寧に洗われて、「明日はファイトですよ、カリスタお嬢様!」と熱い声援をもらったわ……。

 エリノーラにはお忍びだってことを説明したほうが良いかしら……と思いつつ、止められるかもしれないなぁとも思って、言わないことにした。


「服装はどうしましょうか」

「あ、それは大丈夫……、エリオット殿下が用意しているから……」

「まぁ。それはそれは……うふふ」


 何か含みがあるように笑われて、私は首を傾げる。エリノーラは私にこう囁いた。


「男性が意中の相手に服を贈るのは、脱がせたいからって聞きましたわ」

「え、えええっ?」

「うふふ、お嬢様も年頃ですものねぇ」


 そんなことを言いながら、ものすっごく丁寧に手入れをされた……。お、お忍びだから、お忍びだから服を用意して下さったのよ……!

 お風呂から上がり、これまた丁寧に髪、顔、身体の手入れをされて、ネグリジェを着て休むことに……。


「おやすみなさい、お嬢様」

「おやすみ、エリノーラ」


 ……目を閉じると、エリノーラの言った内容が……。う、ううん。エリオット殿下はそんなことを考える方では…………、私、ゲームの彼は知っているけれど、この世界のエリオット殿下のことは詳しく知らないことに気付いた。

 明日のデートで、きっと色々なエリオット殿下のことを知ることになるだろう。

 ちゃんと向かい合わないと、ね。

 ……緊張して中々眠れない、なんて……私にそんな可愛い感情があったのかと改めて驚いた。

 カリスタとして生きた十八年。婚約破棄イベントをちゃんとしなくちゃって、そればかり考えて生きてきたから……。でも、もうそのイベントは終わってしまった。かなり意外な形で。……だからこそ、私はちゃんと、私の気持ちにも向かい合わないといけないのよね……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る