お家に居なきゃ

たまごかけごはん

お家に居なきゃ

 パパは今日も狩りに出る。美味しいお肉を食べるため、毎日パパは外へ行く。そして、私に釘を刺すのだ。「お前は家に居ろ」と。


 私が「何で?」と聞いてみると、「外には怖い化け物が居るからだよ」と言う。すると、私は不安になって、「パパは大丈夫なの?」と聞いてみる。すると、「パパは強いから大丈夫!」と、笑いながら出かけてしまう。


 私は怖いのは苦手なので、大人しく部屋の隅で丸まって、パパの帰りを待ち続ける。人形ごっこは飽きちゃったし、私にママは居ないので、ずっと一人で退屈だ。


 けど、パパが狩りから帰ってきて、美味しいお肉を持って帰ると、とても幸せな気分になる。パパとの会話は楽しいし、お肉もとっても美味しかった。


 そして、フカフカのベッドで寝て、幸福なまま一日を終える。


 けど、そんな生活も、毎日毎日繰り返していると、どうしても暇になるものだ。扉の向こうが気になった。それでも化け物が怖いので、私はパパが帰ってくるまで我慢する。


 そんなある日。今日もパパは狩りに出て、「お前は家に居ろ」と言って去る。私はそれに頷いて、部屋の隅で座り込む。そんな何も変わらない日々だった。ただ、一つだけ異変が起きた。


 パパが猟銃を忘れていったのだ。


 こんな事は初めてで、私はとても困惑する。けれど、同時に高揚感も覚えていた。いつもとは違う体験。いつもとは違う今日。


 すると私は、途端に外の世界を知りたくなった。きっと、外は私の知らない事に溢れていて、いつもとは違う事が沢山起きて、私を喜びへと誘ってくれるのだろう。確かに、化け物は怖いけど、そんな恐怖より好奇心が勝っていく。


「うん……パパに銃を届けなきゃ行けないし……仕方ないよね」


 そう言い聞かし、私は扉を押し倒す。ずっと使って脆くなっていたからか、あっさり扉は崩されてしまう。


 初めての外。初めての光は私の目を眩ませる。けれど、不快には感じない。眩しい光も、澄んだ空気も、何もかもが楽しかった。


 辺りを見渡すと、そこには沢山の家が建っていた。家の周りには、パパと同じような人間が沢山いて、一人一人を眺めてみる。パパ以外の、初めての人間だ。


 すると、一人の男と目が合った。


 瞬間、私は驚きで身を引くと同時に、強い感動を胸に覚える。もしかしたら、初めての友達が出来るかもしれない。そう考えると、ワクワクが止まらなかった。


——だが、私の期待は裏切られた。


『化け物だー!』


 男がそう叫ぶと同時に、石の雨が降り注ぐ。


「痛い……! 痛いよ……!」


 私は何が起こっているか分からなかった。大切な銃も地面に落として、必死に頭を抱え込む。早くこの痛みが終わってくれと、祈ってみるが、それと反対に、悲鳴と石は増えていく。


『化け物め!』

『死んでしまえ!』


「やめてよ……! 私……化け物じゃないのに、皆と友達になりたいだけなのに……!」


 嘆きの声も聞こえない。私は痛みに耐えかねて、走って逃げることにした。誰も居ない、森の奥へと逃げてみる。涙を流して、緑の迷路を駆け抜ける。


「はあ……はあ……はあ」


 けれど、すぐに足を止めてしまう。家の外から出たことがないのだから無理もない。少し休もう。きっと、パパがたすけてくれる。


 そんな淡い期待も、悉く壊される。


『探せ! 近くに居るはずだ!』

『見つけ次第、ぶち殺してやれ!』


 私を探す怒声が響く。疲れ切った足を動かし、訳も分からないまま、愚鈍に逃げ惑う。


 すると、大きな湖についた。


——そこに映っていたのは、醜い化け物の姿だった。

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