第4話  幼馴染なんて、そんなにいいもんじゃない

 商店街を歩いていた。中都市の中くらいの商店街。一応アーケードがあるので、雨が降っても濡れない。駅に近く、町では最もにぎやかな繁華街だ。


 あれ、見知った顔がこちらへ向かってくる。


「よお、真姫、何やってるの?」

「別に」


 商店街を歩いてるんだから、一応買い物してるんじゃないの。だけど、ここへ来る目的は人それぞれなのかもしれない。ドラッグストアあり、ラーメン屋あり、焼き肉屋あり、ゲームセンターや百円ショップなどが入った雑居ビルありの、種々雑多な物たちが集まる商店街だからだ。したがって集まってくる人々も種々雑多だ。


「ふ~ん、相変わらず暇そうだな」

「どういうあんたも、何やってるの?」

「特に、目的はない」


 まあここを通り抜けて反対側の道へ出たいというだけの人も通るからね。彼の名は潮騒渚太。女だったら渚にしようと思っていたら、生まれてきたのが男だったのでつけた名前らしい。そんな安易に名前を付ける親も親だ。小学校から高校まで一緒という、珍しい輩だ。気が付いたらいつも自分の周辺にいて、いつまでたっても自分の周辺にいるという空気のような存在だ。


 彼は黒縁の眼鏡の端をすっと持ち上げ、レンズ越しにちらりと私を見る。


「あたしってそんなに変わらない?」

「ああ、まったくいつみても同じだな。100メートル先からでもわかる」

「ふん、そういうあんただって、代り映えしないよ」


 あ~あ、いつもこんな会話になるんだ。だったらわざわざ言うことないのに。


「用がないなら行くよ」

「ああ、じゃあな」


 そういって、通り過ぎようといたその時、突風が吹き店の前に置いてあった居酒屋の置看板がふわりと巻き上がった。


「うわっ! ぎゃっ!」


 こちらへめがけて飛んでくるではないか。あんなものが! ふつう看板なんて飛ぶもんじゃない! 私は、道の端へ避けようとするが、間に合わなかった。が、ものすごい力で引っ張られ、地面に伏せさせられた。


 ぺったりと地面に伏せ、誰かが覆いかぶさっている。


「危ないところだった。ほら、立てよ」

「はっ、どうなったの」


 私は地面にうつぶせになっていた。どうなったのかと、顔を上げてみる。


「そこに、あるよ、看板」

「あんなところまで、飛ばされて」

「起きろよ」

「あのう、体が重くて」

「そうだ、ほら」


 渚太は、体をどかした。看板は道を横切り反対側に飛ばされていた。


「さっきのは、竜巻、それとも突風?」

「わからない、だけど風が吹いてきて看板を巻き上げてお前に直撃するところだった」

「そうだったの」


 あの看板がまともに頭を直撃していたら、と思うと空恐ろしくなる。


「よかったな、頭に当たらなくて。これ以上ぼおっとしたら大変だった。それじゃなくてもぼおっとして歩いてたから」

「そうだった。意外と運動神経いいね」

「まあな」


 私は考え事をしていた。それは昨日の出来事だった。


「真姫、さっきは夢でも見てるような間抜けな顔をしてた」

「これ以上言うと承知しないよ!」

「まあ、気をつけろよ。こういう繁華街には、突風以外にも変なあんちゃんがうろついてるかもしれないからな」

「どうも」


 相変わらず軽口ばかりをいってくる。まあ、彼のおかげで私の明晰な頭脳は守られたんだと思うと、少し悔しくもある。


「考え事でもしてたのか?」

「なにも、考えてないよ」

「まあ、そうだろうな」


 昨日の事を兄には話してしまったが、幼馴染に話す気はない。いつも以上にぼうっとしているところを悟られてしまい、これ以上からかわれないうちに家に帰ることにした。


 

・タイトル何度も変更してすいません。なかなかしっくりこなくて(*´ω`)

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