第53話 血筋の謎

生き別れた母と再会したアクス。

魔王軍幹部の襲撃を受けたが、アクスの母スノウの力によって、無事に済んだ。

「大丈夫アクス?怪我は無い?」

「無いから!ベタベタくっつくのは止めてくれ!」

すぐ側にサリア達が居るにも関わらず、スノウはアクスにベタベタとくっついた。

あまりの溺愛っぷりに、サリアが複雑な顔を浮かべる。

「大丈夫ですよサリアさん、親子なんだから取られたりしませんよ」

「わ…!私は別にそんなこと考えてない!」

「そんな事どうでもいいでしょ。それよりもお二人さん、申し訳ないけど話しを進めたいのだけれど」

「いいわよ、何から聞きたいの?」

「とりあえず、あそこの部屋の中に入ってる物が見たいわね」

リーナが指さした部屋は、スノウでしか開けれない部屋だった。

「はーい!ちょっと待ってね」

スノウが部屋に掛かっていた氷の錠を解いた。

扉を開き、中に入っている物をまとめて机の上に置いた。

「これはラースがあなたに残した物よ。受け取りなさい」

アクスの父親、ラースが残した物とは、二冊の本と一本の剣であった。

本にはそれぞれ、題名と作者の名前が書かれていた。

一冊目には“ルーフの一族について”。

二冊目には“気刃流剣術きじんりゅうけんじゅつの全て”と書かれていた。

作者は二冊とも、“ラード・シフェル“と書かれていた。

「ラード・シフェルって!伝説の勇者様と同じじゃない!!ちょっとアクスどういう事よ!?」

「俺に聞かれても……」

興奮したリーナを抑え、アクスが本を読み始める。

「この本を読んでいるお前以外には、本の内容は知られない。もし誰かに教えたいのなら、自分の口から伝えろ……」

本の冒頭には、その様な文章が書かれていた。

「ちょっとアクス!黙ってないでさっさと読みなさいよ!」

「ん?読んでるけど?」

「何も聞こえなかったですよ」

「おかしい、俺は確かに読んだはず……」

確かにアクスは本を読んだ。しかしその言葉は、アクス以外の者には聞こえていなかった。

「じれったいわね!」

無理矢理アクスの手から本を奪い取り、リーナが読もうとする。

「………白紙?なんで!?」

どれだけページをめくろうと、文字が一切いっさい書かれていない、真っ白なページが続いた。

「なるほど…関係者以外は本の内容が分からないんだな」

リーナから本を取り戻すと、アクスはその本を一度置いて二冊目の本を開いた。

「俺がかつて学んだ剣術の全てをここに残しておく」

「こっちはちゃんと声が聞こえてるわ」

「じゃあ続きをお願いします」

「う〜ん……こっちはただの剣術の指南書みたいだ。知りたい事は多分ないぞ」

「じゃあやっぱり一冊目の本ね。アクス、さっさと読んで私達に教えなさいよ」

「といっても、分厚いし文字がぎっしり書かれてるんだよなこれ。なぁサリア、魔法でなんとか出来ないか?」

話を振るが、サリアは何か考え事をしていて、声が届いていなかった。

「サリア!」

「わっ!な…なに?」

「魔法でこの本の細工を何とか解けないかって話」

「あー………私じゃ無理だわ」

試しもしないサリアに対して、リーナが詰め寄る。

「どういう事よ、あんたにしては随分ずいぶん弱腰ね」

「そう言われても、こんな魔法聞いた事無いし、解決策が無いのよ」

「よせリーナ。本の内容は後で俺が教えるからよ」

アクスから言質げんちを取ったリーナは、大人しく引き下がった。

「最後はこの剣だな」

二冊の本と共に残されていた、素朴な剣。

アクスが剣を抜こうと、剣を握る。

ゆっくりと剣を抜き、白い刀身があらわになる。

さやから抜いた剣を、皆に見せる。

「これは……!」

その剣は非常に綺麗きれいな状態で、特に刀身には傷一つ無かった。

「うおぉぉぉぉ!もしかして、勇者が使ってた伝説の剣とか!?」

「………ん?これ、鋼じゃない?」

サリアの言葉に、皆が目を向けた。

そして各々おのおのが順番に剣を手に取り、じっくりと剣を見た。

「確かにただの鋼ですね……」

「そっ!そんな訳ないでしょ!?伝説の勇者の使ってた物だったなら、海を割ったり大陸を両断したりしてたのよ!ただの鋼のはずがないでしょ!!」

「なぁ母ちゃん、これって父ちゃんが使ってやつじゃないのか?」

「そうよ!伝説の勇者様が使って物じゃなくて、アクスのお父さんが使ってた物ならただの鋼でも不思議じゃないわ!!」

「伝説の勇者様が使ってた物って言ってたわよ」

リーナはひざから崩れ落ちた。

「大丈夫かリーナ?」

「…………それはそれで…!」

「ん?何だって?」

「ただの鋼の剣であんな事やこんな事してたならそれはそれでかっこいい……!!」

「大丈夫そうだな」

アクスは剣をさやに納めた。

「やっぱり、あの本を読まないと知りたい事は分からないか」

「スノウさんはラースさんから何か聞いていないんですか?」

「ちょっとしか教えてもらってないわ。ルーフの一族は長寿ちょうじゅだとか」

「もっと詳しく知りたいわね」

「一日もあれば読み終わるだろうから、それまで待ってくれ」

受け取った遺品をまとめ、自分のかばんに詰め込んだ。

「それより、さっき母ちゃんが倒した魔王軍幹部の事だけど、あれで死んだと思うか?」

「はぁ?粉々になって死んだの見たでしょ」

「仮にも幹部だし、あいつ妙な身体だっただろ」

「さすがアクス、鋭いわね。アクスの言う通り、あの魔物はまだ生きてるわ」 

実際に戦って倒したはずのスノウが、アクスの意見に賛同した。

「雪山に潜伏していた分は全部片付けたけど、その後に山から離れていく小さな気配を感じたのよ」

「って事は、生きてるって事か……」

「あらかじめ身体の一部を山から離れた場所にでも隠してたのでしょうね。不覚だわ」

「じゃあ…また襲ってくるんじゃ…」

「ここに攻めてくる可能性は低いけど、街を襲う可能性はあるわね」

「どうして?」

「何故だか知らないけど、あのスライム貴方達にずいぶん敵意を向けていたわ。しばらくして力を取り戻せば、貴方達の所に攻撃しに行くと思うけど」

「そういえば……なんであいつ急に怒ったんだ?」

「どうせアクスがいらん事言ったんでしょ」

「なに言ったっけ俺……」

アクスはすっかり忘れているが、敵のスライムに対して、「気持ち悪い奴」とはっきり言っていた。

「じゃあ早く家に帰って準備しないと!」

「………アクスに提案なんだけど、しばらくこっちで修行しない?」

「修行って……母ちゃんがいろいろ教えてくれんのか?」

「ええ、そのつもり」

「俺はいいけど……」

仲間の意見を伺うために、三人に目線を向けた。

「もちろんいいわよ!」

サリアは笑顔で了承りょうしょうしてくれた。

「ヘルガンとリーナは……」

苛立いらだちを何とか抑えようとするリーナ。

それと苦虫を噛み潰したかの様に、顔をひどく歪ませるヘルガン。アクスが二人に理由を尋ねる。

「サリアさんはともかく、リーナさんがめんどくさいので早めに帰ってくれると嬉しいです…」

「誰がめんどくさいって!?」

後ろから足を小突こづき、ヘルガンを地面に転がした。

「リーナはなんでそんな顔してるんだ?」

「あんたが居ないと本の内容分かんないじゃない!」

「じゃあお前もこっちで修行すればいいじゃん」

「なんで私があんたと同じ修行しないといけない訳?バァーカ!!」

中指を立てながら、リーナは外に出ていった。

リーナが家の側から離れたのを見計らい、サリアがアクスに耳打ちした。

「せっかくお母さんと会えたんでしょ?いつまでも私達が一緒にいれる訳ないじゃない」

「そういうものか?リーナは優しいな」

「じゃあそういう訳で、しばらくお別れですね」

「あのスライムが動いたらすぐに知らせるから、修行頑張ってね」

「ああ、そっちも気をつけてくれ」

アクス達は、三人が帰るのを見送った。


「それじゃあさっそく修行ね。あまりもたもたしてられないし」

「どんな修行するんだ?」

「そりゃもちろん、精霊の力の使い方とか。私が教えられるのはそれくらいだしね」

外へ出た二人、お互いに距離を取った。

「私、理屈で教えるの下手だから、実際に戦ってみましょうか」

腕を上げると、そこら中の雪が空へと飛び上がっていく。

「さぁ!修行開始よ!」

腕を振り下ろすと同時に、空に浮かんだ無数の雪が、やいばとなってアクスに襲いかかる。

逃げる隙間の無い攻撃。アクスはかまくらを作り出し、上からの攻撃を防いだ。

大量の魔力を含んで作ったかまくらは、雪の刃を防ぐ事が出来た。

「それじゃあ甘いわよ!」

スノウは指を一本動かした。

それと同時に、かまくらの中にもっていたアクスが、大きな雪の腕に殴られて、かまくらを突き破って出てきた。

「げほっ!強ぇ!」

「どうしたの?降参するには早いわよ!」

今度は大きく腕を広げた。

山の天気が変わり、空の雲がうずを作る。

「精霊の本領は、天候をも変えるほどの力。よく見ておきなさいよ!」

「いや!さすがにこれをくらうのはまずい!」

「大丈夫、凍死はしないから!」

屈託くったくの無い笑みを浮かべ、容赦ようしゃの無い吹雪を浴びせた。



魔王城、王座の前。

スノウに敗れた幹部ライフは、玉座の前でひざを突いた。

「むざむざ負けて帰ってくるとは、ここを出る前に吐いた言葉を忘れたのか?」

魔王の側近である大神官が、玉座の奥から現れた。

「大神官様…!……申し訳ありません」

「貴様は魔王様の前で言っていたな、精霊など私の敵ではないと。それがこのザマか……」

「……申し訳ありません」

「もういい下がれ」

「はっ…!」

ライフが部屋から出ようと扉に手を掛ける。

所詮しょせんはスライムか……」

小さく吐かれたその言葉は、ライフの心に深く突き刺さった。

胸に秘めた思いを押し留め、部屋を後にした。

「それでいい……憎しみを、怒りを持つがいい」


玉座の間から出たライフは、目の前の壁を殴った。

弱りきったライフの力では、壁を傷付ける事さえ出来なかった。

その事実が、ライフの怒りをより一層と燃え上がらせた。

「あっ、ライフ様!お怪我はもう治ったのですか?」

偶然通りかかった部下の魔物が声を掛けた。

そのたった一言が、ライフを怒らせた。

「黙れ雑魚が……!」

「ぎぇっ!」

部下のあごを掴み、高く持ち上げた。

「お前も俺を馬鹿にしてんだろ?スライムだからって!」

「そ……そんな事…!思ってもいない……!」

部下の言葉を聞こうともせず、ライフは自分の部下を吸収した。

「どいつもこいつも……俺を馬鹿にして。全員俺の養分にしてやる!」

怒りのままに、ライフは城中を練り歩いた。

その日魔王城では、城の各地で魔物達の悲鳴が聞こえた。

悲鳴が聞こえて他の魔物が駆けつけるも、さらに被害が増えていった。

「まだだ………まだ足りん…」

被害が止まる事は無く、魔王城の魔物の大半がライフにまれた。

「あの精霊め……まずは貴様の子供、アクスとやらをほうむって、絶望をくれてやる!!」

スノウへの復讐ふくしゅうちかい、ライフが力を付けていく。

アクスとライフ、再戦の日はそう遠くない。





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