第14話 狂気に魅せられた瞳

町から離れた平原にて。

アクスは久しぶりの修行に熱心に取り組んでいた。

「はあっ!」

自身が生み出した氷のつぶてをそららした。

アクスが軽く腕を振ると、周りのつぶてが緩急をつけてアクスに向かって降り注ぐ。

四方から飛んでくるつぶてを、己の身体能力だけでかわす修行のようだ。

つぶてを手で弾き、つぶての飛び交う僅かな隙間に体をかわす。

慣れた様子で修行をこなしていく。

「…アクスったらいっつもこんな修行してるのね」

アクスから少し離れた所から、サリアが岩に腰掛けて様子を見ていた。

氷のつぶてを全て地面に落とし終えたアクスは、激しく息を切らしていた。

「大丈夫?」

慌ててサリアが駆けつける。

「…駄目だな。体がすっかりなまっちまってる」

「そう?」

アクスはそうは言うが、サリアはそうは思わないようだ。

何故なら、アクスは息を切らしているが傷を負った様子がない。

「なぁサリア、神様の力で重りとか出せねぇか?」

「…まぁできない事はないけど、何キロぐらい?」

突然の要望に、サリアは文句の一つも言わずに答えた。

「じゃあ百キロ」

アクスは迷う事なく言った。

「ん〜…じゃあ少し待って…もしもしルト?」

サリアが耳に手を当て、誰かと何やら話し始めた。

テレパシーによるものであろう。

「うん…うん…!そうそう、じゃあお願いね」

「誰と話してたんだ?」

「私の部下の天使のルトよ…っと!来るわね…」

アクス達の目の前に落雷のような強い衝撃と共に光が現れる。

光が形を成し、リュックの様な形へと変わった。

現れたリュックをアクスが手に取る。

「おおっ!ちゃんとした重りだ!」

腕にずしりと重みがのしかかる。

「ご注文通り、百キロの重りよ」

アクスは重さ百キロのリュックを背負い、何度か軽く飛び跳ねた。

「よし!これなら大丈夫そうだ。ありがとなサリア」

アクスは重いリュックを担ぎながら走り出した。

最初は重さで普段よりも遅い動きだったが、体が慣れたのか、しばらくすると軽快な動きへと変わった。

時間を忘れ、それから数十分ものあいだアクスは動き続けた。

修行を終えたあと、何度か体をひねりながらアクスは自身の体の具合を確かめた。

「…こんなもんで大丈夫かな」

すっかり感覚を取り戻したアクスは、満足気に微笑ほほえんだ。

『きゅるる〜』

広い平原にアクスのお腹の音が寂しく響き渡る。

「腹減ったなぁ…」

腹をさすり空腹を誤魔化そうとする。

しかし腹の音は止まらず、アクスは空腹でうつむいた。

様子を見ていたサリアが声を掛けた。

「そろそろ帰ろ?昼食の時間だし」

「そうだな。帰るか」

アクスとサリアは宿へと向かって歩き出した。

平原の中を他愛のない会話をしながら二人は進む。

「そういえばこの重りどうする?」

「ちょっと失礼」

サリアがリュックを軽くはたくと、光に包まれ消えていった。

リュックがあった自分の背中を、アクスはまじまじ見つめた。

「今のリュックはどこに消えたんだ?」

「消えたんじゃなくて戻したのよ。天界にね」

綺麗な青のそらを指差しながらサリアは言った。

「天界ってどこにあるんだ?宇宙?」

「昔はそうだったらしいけど、今は異次元空間にあるのよ。遠くにあるように見えて実は近くにあるのよ」

「ふ〜ん」

どうやらアクスには少し難しい話のようで、適当に返事をした。

「じゃあ…そこで人間みたいに過ごしてんのか?」

「ええそうよ」

「……その…嫌がらせとかもあんのか?」

少し言いよどんだ様子でアクスは聞いた。

サリアは少しのあいだ黙った。

「…どうしてそう思うの?」

「さっきのウォレト教のやつらずいぶんとヒーラ教を恨んでるみたいじゃねえか、だから因縁でもあるのかなって…」

「因縁…まぁそうなんだけど、くだらないことよ」

サリアは事の顛末てんまつを話し始めた。

「天界ではね、いくつか特別な仕事があって癒やしの神様もその一つ。ウォレト教もそうよ」

少し間を置くと、あきれたような深いため息をつき、サリアが再び話し始めた。

「それで因縁ってのが本当にくだらなくてね。

『あんたの髪の色が私のイメージと被るから』って…」

「なんだよそれ、ふざけた神様だなぁ…」

ふざけた理由に、アクスは怒りを通り越しあきれていた。

サリアが顔を指先で掻きながら苦笑する。

「まぁ…ただいちゃもんつけたいだけだろうけど、元々私は周りの神によく思われてなかったから」

「ん?なんでだ?」

「私のお母さんは神の中のトップに立つ神なんだけどね、まだ若いからあまり信用されてないの。それどころかその座を奪おうとする神がいる始末…なかには娘の私に強く当たってくるのよ。特にウォレト教の水の女神がね」

「聞けば聞くほどふざけたやつだな、今すぐにでもぶっ飛ばせばいいのに」

アクスが拳を握りしめ、怒りをあらわにする。

「駄目に決まってるでしょ、力があるからってそれを振り回すのは駄目よ。…さっきのウォレト教徒の件のようにね」

アクスを鋭い目つきで睨みつけた。

「いくら相手が仕掛けて来たからって、正当防衛とはいえやりすぎたらこっちが悪者になるのよ?」

きょとんとした顔でアクスが言った。

「そうか?あれでも随分手加減したつもりなんだがな」

サリアは頭に手を当て、小さくため息を吐いた。

「アクスにはまだまだ勉強が足りないようね…」


宿についた二人をヘルガンが出迎えた。

「二人ともちょうどいい時間に帰ってきましたね、昼食の時間ですよ」

「おお〜!グッドタイミングってやつだな!」

アクスが喜ぶなか、サリアは周りを見回してリーナが居ないことに気づいた。

「ねぇ、リーナはまだ帰ってきてないの?」

「僕は…見てないですね」

「お話し中に失礼します」

三人の背後から、女将が声を掛けた。

「お連れ様でしたら早めの昼食をとった後、またお出かけになられましたよ」

「また出かけたのか…まぁいいや俺たちもめしにしようぜ」

アクスは一足先に食堂へと向かったが、残った二人はリーナの事が気にかかるのか足が止まっていた。

少しすると諦めたように顔を前に向け、食堂へと向かった。

軽く昼食を済ませた三人は、各自自分の部屋へと戻った。

一人窓の外を眺めるアクスは、暇を持て余していた。

「どうすっかなぁ…」

特にすることもなくアクスは布団に横になり、そのまま眠ってしまった。


外が紅く染まった頃、アクスの部屋の扉が二・三度叩かれた。

「アクスさんちょっといいですか?」

扉の音とヘルガンの声で目が覚めたアクスは、布団から起き上がり目をこすった。

「ヘルガンか、なんだ?」

「急なんですが、今晩だけでいいのでラックルの面倒を見てくれませんか?」

ヘルガンは腕の中に抱いていたラックルを差し出して頼んだ。

「いいけど…なんか用でもあるのか?あったとしても一緒に連れてけばいいのに」

「そこはペット禁止なんです。という訳でお願いします」

ヘルガンは両手を合わせて必死に懇願した。

ヘルガンはそれだけ言うとラックルを渡し、部屋から急ぎ足で出ていった。

「う〜ん…どうしようかな」

「きゅ?」

アクスの腕の中から顔を覗き込んでくる。

「…風呂でも行くか」


アクスとラックルは二日目のお風呂にやってきた。

昨晩と同じく人は少なく、温泉は熱い。

相変わらずアクスは、熱さにやられないように下半身だけを湯船に浸かっていた。

「ふぅ〜…熱い…」

「きゅい〜」

弱ったアクスに対し、ラックルは桶にはったお湯の中に気持ちよさそうに浸かっていた。

「お前のご主人はどこに行ったんだろうな〜」

「きゅい?」

アクスがラックルの身体を指でなぞろうと手をのばすと、ラックルは桶から飛び出していった。

「おーい、別に食うわけじゃねぇぞ」

アクスの言葉を聞かず、植物の茂みに隠れてしまった。 

少しし、ラックルが戻って来たかと思うと、口に何かを咥えていた。

「なんだそれ?」

ラックルから受け取ったそれを、アクスはまじまじと見つめた。

短い白い髪に青いころも

奇妙な事に、その姿は十センチにも満たない小さな体であった。

それはかすれた声でアクスに話しかけた。

「あの…なにかつめたいものを…」

「冷たい物?ほらっ」

アクスは指先から冷気を噴出し、全身に浴びせた。

「…元気マックスゥゥ!!」

それは急に飛び上がり、元気一杯に飛び跳ねた。

死にそうだったはずのそれは、声高らかに話し始めた。

「いやぁ!どこの誰だか知りませんが助かりました…ってあなた!わたしの姿が見えるのですか!?」

アクスは首をかしげ、怪訝けげんな目でそれを見つめた。

「何言ってんだ?しっかり見えるぞ」

「いや〜しかし日頃の行いでしょうかね?わたしは運も良いのですね!ハッハッハッ!!」

話を無視し勝手に騒ぐ様子に、アクスは苛立ちを隠せなかった。

「話を聞け!お前は何者だ?」

「これはこれは失礼しました。私は氷の精霊に仕える妖精のジベルと言います」

ジベルという名の妖精は堂々たる笑みでそう言った。

「妖精?精霊?そんなのもいるのか」

「ややっ…その言い方はなにか引っかかりますが…まぁいいでしょう!助けてくれてありがとうございました。それではわたしはこれで!」

ジベルは腕をかかげて、地面からそら目がけて跳んだ。

しかし、ただ地面から跳んだだけでそのまま地面へと落ちていった。

「ぎゃあああ!!」

迫る地面を目の前にしてジベルが大声で泣き叫んだ。

「なにやってんだあいつ…!」

咄嗟にアクスが氷で作った腕を伸ばし、地面すれすれの状況で助けた。

「ほぉぉ…助かりました〜」

元の所に戻ってこれたジベルは、高らかに笑いながら話をし始めた。

「いや〜!本来なら自由に空を飛べるはずが、どうやら温泉の熱気で溶けてしまったようですね!わたしとした事がとんだ失態をしてしまいました。アッハハハ…」

途中でその笑いがぴたりと止まった。

「どうしましょう!?このままじゃ元の所に帰れません!」

涙目でアクスに訴えかける。

「そんな事俺に言われても…」

困るアクスにジベルが掴みかかり、頭を激しく揺らす。

「ちょっとアクス!さっきから女の子の声が聞こえるけど!?」

不意にサリアの怒声が聞こえてきた。

アクスがどこにいるかと辺りを見回した。

「こっちよこっち!」

サリアの声を辿り、声の方向に振り返った。

そこには、仕切りの上から頭を覗かせたサリアの姿があった。

「お前それどうなってんだ!?」

思わずアクスも驚いて声を上げた。

「ジャンプして仕切りを掴んだのよ。それよりも女の子の声を説明しなさい!」

「ややっ!いけませんよ!この状態は非常にハレンチです!わたしで隠さなくては…」

ジベルは丸出しになっているアクスの局部を、落ちていた桶で隠した。

「あら?もしかしてその子が声の正体?」

「まさか!あなたもわたしの姿が見えるのですか!?」

「ええまあ…とりあえずアクス、一度お風呂から上がりましょう」

サリアに言われるがまま、アクスは風呂場から出た。


サリアの部屋にて、ジベルを交えて話をし始めた。

「私は先程この男性に名乗りましたが、妖精のジベルと申します。あなた方のお名前は?」

「私はサリア。こっちはアクスよ」

「サリア殿にアクス殿ですか…しっかりと覚えました!」

相変わらずのテンションでジベルは話を進める。

「しかし、妖精のわたしの姿や声は普通の人には分からないはずなのですが…あなた達には見えるようですね」

「まぁね…というかあなた、どうしてこんな所に?妖精や精霊は基本一箇所にとどまっていなきゃいけない決まりのはずだけど」

「よくぞご存知ですね!そのとおりですが…私は今回、この町に大きな気配を感じて独自に調査しに来たのです!」

悠々と語るジベルを目にして、二人はおかしな物でも見るかのような目をしていた。

二人はジベルに聞かれぬよう、こっそり話し始めた。

「ねぇ…そんな気配感じた?」

「う〜ん…覚えがないな」

「あのさ、それはちなみにいつ頃の話?」

「今日の昼頃の事です!」

サリアは額に手を重ね、記憶を探った。

しばらく経ち、サリアは掌を自分の拳で叩いた。

「あっ!あれね!」

「心当たりがあるので!?」

ジベルはサリアの眼前まで迫って、顔を伺った。

「たぶんね…それアクスよ」

サリアの言葉に呼応し、アクスはうなづいた。

ジベルは大きく首を横に振り、サリアの話にはんした。

「そんなはずがありません!このようなまぬけそうな男があれほど大きな気配を出せる訳が…」

「なんで今馬鹿にした?」

その時、大きな爆発音が鳴り響き、三人の会話を遮った。

「っつ!なんだ!?」

アクスが窓から外を眺める。

東の方の山に爆発の後であろう煙と炎が見える。

アクスの背後からサリアとジベルが覗き込む。

「ふふん!やはり大きな気配はあなたではなかったようですね!ではわたしは早速現場に行かせてもらいます!」

ジベルは窓から高く跳んだ。

「おい、また落ちるぞ」

「あっ!忘れてましたぁぁぁ!!」

案の定ジベルは地面へと落ちていった。

それを再び、アクスが同じように氷の腕を伸ばして助けた。

「次は助けないからな」

「うぅぅ…ありがとうございます…」

ジベルの目には涙が浮かんでいた。


二人と二匹は宿を出て、爆発に気づいた町人が逃げる中、山へと向かって走っていた。

「サリア!俺はヘルガンと合流してからそっちに向かう。リーナは既に山に居るからそっちで合流しといてくれ!」

「リーナが山にいるの?一人で?」

「いや…もう一人いるが小さくて誰だか分かんねぇ…」

そう言ったアクスの顔は、何故か暗く曇っていた。

「…分かったわ。そっちも一応気をつけてね」

「あぁ…おっとそうだ!おいジベル、お前はサリアの守ってやってくれ」

「私がですか?」

「三度も助けたんだ、少しは恩を返してもらうぜ」

「…分かりました。エリートとたるもの礼は返さなくてはなりませんね」

納得がいったジベルはサリアの胸元に潜り込んだ。

「じゃあな!気をつけろよ!」

アクスは道を変え、ヘルガンの気配の元に向かった。

人混みを飛び越えたどり着いたのは、夜の町だった。

酒の匂いと香水の甘ったるい匂いがアクスの鼻を突き刺す。

「うえっ!臭っ!ヘルガンのやつこんな所でなにやってんだ…」

人混みの中から小さな気配を察知し、アクスはヘルガンの元にたどり着いた。

「あれっ、アクスさんどうしたんですか〜?」

ほのかに顔を赤らめたヘルガンが、家の壁にもたれかかっていた。

酒を飲んでいたようで、ヘルガンの吐息からかすかに酒の匂いが混じっていた。

アクスは鼻をつまみ、酒の匂いを防いだ。

「お前酒飲んでたのか…まぁいいや、事件が起きたから一緒に行くぞ」

「事件…ですか…ひっく…」

相当な量の酒を飲んだようでヘルガンの反応が鈍い。

アクスがヘルガンの肩を掴み揺さぶる。

「おいヘルガン!しっかりしろ!」

「ほへっ?いやだなぁ〜ぼくはだいじょうぶ…」

話している最中に、ヘルガンは眠ってしまった。

「ったく…仕方ない。ラックル!」

「きゅい!」

アクスはラックルを抱え、ヘルガンの顔の前に突き出した。

可愛らしい掛け声と共に、ヘルガンの顔にパンチを放った。

弱々しい攻撃だが、連続で放たれるパンチがヘルガンの頭を揺さぶった。

パンチが終わると、ヘルガンがアクス達を虚ろな目で見つめていた。

「立てるか?」

「えっ…あっ…うん、大丈夫です」

よいは覚めたため二人と一匹は、サリアとリーナが居る山へと向かった。


岩で出来た山を登り、二人は頂上までたどり着いた。

「ぜぇ…ぜぇ…流石にこの山を登りきるのは疲れました…」

ヘルガンは登っただけで体力を使いきり、固い地面に座り込んだ。

かたやアクスはバテている様子も見せずに、平然としている。

「休んでる暇はねぇぞ、ほら立て」

疲弊しているヘルガンに手を差し伸べた。

アクスはヘルガンを助けながら、先程さきほどの爆発の起きた現場へと走った。

目の前に見えると、そこには既にサリアとリーナも居た。

「おーい!二人共!!」

アクスが大きく手を振りながら、二人を呼びかけるる。

サリアがいち早く気づき、振り返った。

「アクス…ねぇあの人…」

サリアは震えた声で爆心地の先を指差した。

指の先には男が立っていた。

「ん…?あっ!お前は…!」

アクスはその男を見て表情が変わった。

驚きの中に戸惑いを感じる表情だ。

「おや?もしかしてアクスさんもいらっしゃるのですか?」

男の正体は、昼間に会ったペパだった。

二人の様子を見たリーナが尋ねた。

「あんたもこいつの知り合い?」

「…まぁな」

アクスは警戒するように、ペパだけを見つめ鋭い視線を向けていた。

「ペパ、なんでお前がここに?」

ペパは寂しげに答えた。

「…私は魔王軍幹部ペパ。つまりあなたの敵です」

ペパの口から重たい事実が告げられた。

アクスの表情が揺らぐも、すぐに元に戻った。

「おや?あまり驚かないところを見ると、すでに知っていたんですか?」

「…知らなかったさ、ただお前の底知れない狂気に気づいていただけだ…」

「なるほど…そういうことですか」

アクスは口を開き何かを言おうとするも、迷うように口を閉ざしてしまった。

見かねたリーナがアクスの肩に手を置く。

「言いたいことがあるんだったら今の内に言いなさい。ぶっ飛ばしたあとに言っても遅いわよ」

小さくうなずき、アクスは口を開いた。

「なぁ…?大人しく帰ってくんねぇか…短い出会いだったがお前とは戦いたくねぇ…」

アクスの口から意外な言葉が出てきた。

ヘルガンは驚き、他の二人の反応を伺っている。

サリアとリーナは止める事もなく、行方を見守っている。

「ちょっと待ったー!!」

ジベルが割って入ってきた。

「魔王軍の幹部を見逃すとはどういうつもりですか!?純粋にバカとしか言いようがありません!」熱弁するジベルだが、その声は姿が見えるアクスとサリアにしか伝わってなかった。

「あんたは黙ってなさい!」

「きゅっ!」

サリアがジベルの頭を指で弾き、気絶させた。

「私もあなたと戦うのは心苦しいのですが…私にもやるべきことがあるのでその願いは叶いません」

「やるべきことってのは、さっきの爆発と関係あるのかしら?」

「ええ、この山を崩壊させ、町を飲み込む。それらは我らの神に捧げる生贄となりますので」

ペパの言葉にリーナは鼻で笑った。

「ずいぶんと悪趣味な神様ねぇ…おおかた邪神と言ったところかしら?」?

リーナの言葉に反応し、ペパの体がぴたりと止まった。

「…邪神…だと…!」

体を震えさせ、血走った目でリーナを睨みつけた。

「我らの神を邪神扱いするなど…許さない…許さない…!許さない!!」

人が変わったかのようにペパはいかり。

喉が裂けるほどの怒声を浴びせると、ペパは懐から本を取り出した。

本が開き一枚のページを破り取った。

そのページには二つの円状の魔法陣が描かれていた。

ペパは狂った笑みを見せながら、破り取ったページを自分の体へと押し付けた。

次第に黒いもやがペパの体を包み込む。

「ぐわぁぁぁ!!ああっ!!はぁっ!はあっ!」

もやの中から苦しみに喘ぐペパの声が聞こえた。

「ペパ!」

アクスが近づこうとするも、激しい風に押されて近づく事が出来ない。

じきに風は止み、もやが風で吹き飛んだ。

その場所には、ペパの変わり果てた姿が見えた。

黒い皮膚に灰のように白い髪。

家よりもでかい体に丸太のように太い四肢。

それは既に人のものではなかった。

低く籠もった声でペパがリーナに向けて言う。

「さぁ!神に対する侮辱…その罪を償ってもらうぞ!!」

闇夜にどんよりとした瞳がリーナを睨みつけた。


















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