第13話 町の観光

旅行二日目。

朝日が目に入り、アクスが目を覚ます。

「朝か…」

目を擦りながら重いまぶたを開き、布団から起き上がった。

「朝日がまぶしいな…」

朝日に釣られ、アクスが窓から空を見る。

そらには雲一つなく、この時期には珍しい快晴かいせいだった。

「ふっ!はっ!」

アクスの下の方から声が聞こえる。

「ん?あれは…」

宿の庭だろうか、外の広場で修行するリーナの姿があった。

こぶしを何度も放ち、連続で足蹴りを放ったりなどの修行をおこなっていた。

「あっ!あいつずるいぞ!よし俺も…!」

アクスも修行しようと着替え始める。

しかしその時、アクスの動きがまる。

「そういえば…」

アクスの頭にある言葉が浮かぶ。

『ここへは休みに来たのよ?勝手な事はしないように!』

サリアの言葉を思い出したアクスは、着替えをめた。

「……旅行中ぐらいは言う事聞いとくかな」

アクスは外に出るのをめ、朝食まで大人しく部屋で過ごした。


朝食の時間。

食堂にて、アクス達はご飯を食べ始めていた。

「ごちそうさま」

一人先に食べ終えたリーナは、足早あしばやと食堂をあとにしようとした。

「どこ行くのリーナ」

出ていこうとするリーナに慌てて声をかけた。

リーナは小さくため息をつき、振り返った。

「…別にどこに行こうが私の勝手よ。詮索せんさくしないで頂戴ちょうだい

リーナはそそくさと逃げていった。

深くため息をつきながら、サリアは頭を抱えた。

「まったくリーナったら」

「どうかしたのか?」

「旅行に来てるのにリーナったら修行してたのよ。あれじゃあいつか倒れちゃうわ」

頭を抱えながら、サリアは机にした。

口の中の食べ物を飲み込み、アクスが言った。

「気にすることはねぇさ。あいつは俺よりずっと強いし、一人前の武闘家だ。体調管理ぐらいするさ」

「…だといいんだけど」

「まぁ、リーナさんはああ見えて立派な大人ですし大丈夫ですよ…」

「それもそうね……ひっ!」

突然サリアが奇妙な悲鳴をあげた。

「どうかしたんですか?」

サリアの視線の先に何かあるのかと気になり、ヘルガンは振り返った。

ヘルガンの背後には、恐ろしい形相ぎょうそうのリーナが立っていた。

「誰が…ああ見えて…大人…ですって…?」

咄嗟とっさにアクスがあいだに入ろうとする。

「小さくて悪かったわね!!」

アクスの行動は間に合わず、ヘルガンはリーナによって宙に飛んだ。

地面に落ちたヘルガンは頭を強くぶつけた。

「小さいなんて言ってないのに…」

「ふんっ!」

鼻を大きく鳴らし、再び宿から出ていった。

「なぁ…なんであいつはこっちの会話聞こえたんだ?」

「知らないわよ。それよりヘルガンを助けなきゃ」

サリアが急ぎヘルガンに近づき介抱かいほうした。


「大きな怪我はないみたいね。大丈夫?」

「おかげさまでなんとか。一瞬殺されるかと思いましたよ」

頭にたんこぶが出来たものの、サリアの回復魔法で治り、ヘルガンはすっかり元気になった。

「二人にも迷惑をかけてしまいすみません」

椅子に座りながら、頭だけを下げて礼をした。

「別にいいわよ。それより、リーナにもちゃんと謝っときなさいよ?」

「分かってます…」

小さくため息をつきうなづいた。

「二人はこれからどうします?僕はリーナさんのご機嫌取りのためにスイーツでも買ってこようかと思っているのですが」

「う〜んそうね…アクス、一緒に買い物でもしない?」

「いいぞ。どうせ修行出来ないからひまだし」

そう言うと、アクスは退屈そうに長いあくびをした。

「じゃあ僕はお菓子屋さんに行くので、なにか用があったら呼んでくださいね」

「きゅい!きゅい!」

懐にラックルを入れ、ヘルガンは宿を出た。

「じゃあ私達も行きましょうか!」

サリアはアクスの手を取り、リードするように引っ張っていった。


二人が訪れたのは町の服屋であった。

おなじみの服だけではなく異国で作られた服もあり、サリアの好奇心を刺激した。

店にある服を手に取り、自分の身体に合わせてみた。

「あっ!これ綺麗ね。でもこっちも良いわね…どれがいいからしら」

どうも納得いかないらしく、いくつもの服を見定めていた。

一方で、オシャレになど興味の無いアクスは長いあくびをしながら周りの様子をながめていた。

「ねぇねぇアクス!これとこれどっちが良いかな?」

サリアが突然アクスに近づき、二つの服を見せてきた。

一つは水色のシンプルなドレス。

もう一つは白を基調としたきらびやかなスパンコールドレス。

「どっちでもいいだろ」

アクスはキッパリ言い捨てた。

ほおふくらませ、サリアは静かに怒りを表した。

「…怒ってる?」

「ええ、怒ってるわよ」

アクスは不思議そうに首をかしげた。

「なんで?」

「少しは自分で考えたら」

アクスは少し考えるように下を向いた。

「本当はどっちも欲しいから?」

出した答えは実に的外れなものであった。

アクスに女性の気持ちが分かるわけが無かった。

「……ふんっ!もう知らない!」

そっぽを向き、サリアは店の奥へと姿を消してしまった。

一人残されたアクスは頭を抱え必死に考え込むが、結局答えは出なかった。

「……どうすりゃあいいんだよ」

アクスは気分転換をねて、他の場所へと買い物に向かった。


服屋から離れていたアクスだが、特に必要な物も無い事に気づき、意味もなく辺りをぶらついていた。

「なんかねぇかな」

なにかないかと路地裏にまで入り、何かを探し始めた。

すると、足元に何かがこつんとぶつかる。

アクスは気になり下を向くと。

不気味なほどに真っ黒な人形にんぎょうが落ちてあった。

地面にかがみ込み、人形にんぎょうを拾い上げた。

人形にんぎょういぶかしげに見つめる。

人形にんぎょうのあちこちを触り、しまいには匂いまで書き始めた。

「ん?この匂い…そこら辺に一杯あるな」

アクスは鼻を鳴らし、人形にんぎょうと同じ匂いを探し始めた。

匂いの先には、先程さきほど人形にんぎょうとまったく同じ人形にんぎょうが落ちてあった。

さらに匂いは続き、アクスは町中を探し回った。


一時間ほど経ち。

アクスは拾った人形にんぎょうを町のベンチの上に広げ、興味深くながめていた。

町中を回り、集まった人形にんぎょうの数は三十個もあった。

「ん〜…どれも同じなんて珍しいな。どうしようかなこれ」

「あんた何してるの」

横からリーナがアクスに声をかけた。

リーナの手には大きな紙袋があった。

「変わった人形にんぎょうを拾ってな。リーナこそどうしてここに?」

「ちょっと休憩よ」

アクスの隣に座り、紙袋の中から温泉まんじゅうを取り出し食べ始めた。

手慣れた動作で包装を外し、一口でまんじゅうを食べる。

一つ食べ終えると、すぐに次のまんじゅうを紙袋から取り出し食べ始める。

アクスがそんな様子を見ていると、目元に目が向いた。

「…なに?」

視線に気づくも、リーナは手を止めなかった。

「お前さすがに疲れてるんじゃねぇか?目がれてるぞ?」

リーナは面倒くさそうに、ゆったりとした口調で答えた。

「…このくらい寝れば治るわよ。それよりサリアと一緒じゃないの?」

「ん?あぁ…さっき怒られてよ、原因が分からない

んだよ」

リーナがベンチから立ち上がり、アクスに向かって言った。

「だったらあんたは私の心配なんてしてないで、サリアの所に戻りなさい。心から謝れば許してくれるわよ、きっと」

「…そういうもんか?」

「そういうもんよ」

アクスは少しのあいだほうけていたが、リーナの言葉を受け、決心がついたようにその場から立ち上がった。

「ありがとなリーナ、これから謝ってくる!」

元気よく言うとその場から走り出し、あっという間に姿を消した。

「あっ!ちょっと…!あいつ…荷物忘れてんじゃん。たっく…」

アクスが座っていた近くには、大量の人形にんぎょうが忘れられていた。

リーナがため息をつきながらしぶしぶ集め始めた。

人形にんぎょうを手に取ると、リーナの目からだるさが消え鋭い視線へと変わった。

「ん?これは…そういうことね…!」

手に取った人形にんぎょうを握り潰し、ニタリと笑った。 


そのころアクスは。

気配をたよりに、急いでサリアの所へ向かっていた。

家を飛び越え、屋根に乗り。大急ぎで向かった。

屋根から地面へ着地し、路地裏を通り抜ける。

すると、路地裏に人がおり、慌てて足を止める。

雪を巻き上げながら止まると、目の前にいた三人の男達がいぶかしげな目でアクスを見る。

「なんだてめぇ!?」

男の一人がアクスに怒鳴りつける。

アクスは申し訳なさそうに頭を下げ、精一杯の誠意を見せる。

「いやぁ、悪い悪い。急いでいたもんでつい…」

アクスが顔を上げ男達を見た。

一人は、目が飛び出そうなほどにせており。

もう一人は、半裸で大きな体の男。

最後は、特に特徴の無い男。

その男達の足元に一人誰かが倒れていた。

髪が長く、黒いローブを身にまとい、男か女かすら分からなかった。

「おいあんたら、そいつ傷だらけじゃねぇか、病院に連れてってやれよ」

男達は依然として態度を荒らげ、倒れている人を指差しながら言う。

「こいつが俺達に喧嘩売ってきたんだよ」

「…ち…違います…」

男達の足元からくぐもった声が聞こえる。

「…僕が布教をしていたら…この人達がいちゃもんつけてきたんです…本当です…信じてください…」

今にも途切れそうなか細い声でその人は言った。

「嘘つくんじゃねぇ!てめぇが仕掛けてきたんだろうが」

男達は声を荒らげ、倒れている人の腹を蹴り上げた。

必死に身体を手でかばっているが、三人がかりの暴行には耐えられない。

「…よくわかった」

黙っていたアクスが口を開いた。

「おうそうか!分かったんならさっさと消えな!」

男が手でアクスを払い除け、再び暴行をしようと腕を上げた。

アクスが男の腕に掴みかかった。

「なんだてめぇ…!離せっ!」

男は威勢よくもがくが、アクスに力でかなうわけがない。

「事実がどうであれ、お前たちの行為はやり過ぎだ!」

「ふざけんなおらぁ!」

二人の男がアクスに向かって飛びかかる。

アクスは掴んでいた男を二人に向かって蹴り飛ばした。

自身はそら高く跳び、男達の後ろに回り込んだ。

二人の男は、飛ばされてきた男を横にける。

そのすきをつき、アクスが大きく腕を広げ、二人の男を壁に叩きつける。

男達は地面に崩れ落ちた。

「くそっ…」

痩せた男が背後で投げナイフを取り出し、アクスに狙いをつける。

「投げてみろよ」

アクスは急に振り返り、男をにらみつけた。

「なっ…!ぐぐっ!」

「どうした?やってみろ」

大きく腕を広げ、男を挑発する。

「しっ!…死ねぇ!」

男がナイフを頭目掛けて投げつける。

しかしアクスは指ではさみ、簡単に取ってみせた。

「返すぞ」

取ったナイフを指で投げ返し、高速で回転しながら男のほおかすめた。

「ひいいっ!!化け物だぁー!!」

男は仲間を放り捨てて逃げてしまった。

「まっ…待ってくれ!置いていかないでくれぇ!」

倒れていた男達も、逃げた男のあとを追って逃げ出した。

男達の逃げていく背中を、アクスはあきれたように見ていた。

「あのう…ありがとうございます」

倒れていた人が起き上がり、アクスに声を掛けた。

「なぁに気にすんな。それよりお前…男?女?」

「僕はこれでも男ですよ」

男はそう言うと、手に持った髪留めをつけて長い栗色の髪をまとめた。

「僕はペパ=シヨン。助けてくれてありがとうございます」

「俺はアクス。よろしく」

アクスはペパに握手を求めた。

「こちらこそよろしく」

ペパは笑顔でアクスの手を握った。

「ところでけがは大丈夫か?」

「大丈夫です。けがによく効く薬を持っているので」

先程さきほどまで負っていた傷がすっかり治っていた。

「一応あんたからも話を聞いておきたいんだが、喧嘩けんかの原因はなんなんだ?」

聞かれたペパは、ふところから本を取り出した。

「実は僕、宣教師としてこの町に宗教をきに来たんですよ」

「へぇ〜布教ってやつか」

アクスがまじまじと本を見つめる。

「もしかして興味ありますか!?良かったらお話しをでも!?」

目を輝かせアクスにせまる。

「待て待て!悪いけど俺はヒーラ教一筋なんだ」

ペパは肩を落とし、深くため息をつく。

「…そうですか、残念です…」

アクスは気まずそうに頭をかき、一言付け加えた。

「でも、あんたの神様に対する情熱は宗派は違えど尊敬するよ。応援してるぜ!」

面と向かれ言われて、ペパは気恥ずかしそうに鼻をこすった。

「へへ…ありがとうございます!」

初めて会った二人だが、互いにどこか通じ合う所があるのだろうかすぐに仲良くなった。

「どうでしょうか?お礼もねて食事でもいかがです?」

「いいのか!?あっ…!悪い、俺実は…」

サリアの事を思い出し、ことわりを入れようとした。

その時アクスの目つきが変わり、鋭い視線でペパの奥を見つめる。

「悪い!食事はまた今度な!」

「あっ!ちょっと…」

アクスは返事を待たずにそこから駆け出した。


ケーキ屋の店先でサリアが女にからまれていた。

「何するのよ!離して!」

「観念しなさい!怪しいやつめ!」

女はどこにでもいる普通の町娘。

それが何故かサリアに執拗しつようからんでいる。

女はサリアが持つ荷物を取ろうと、力づくで引っ張っていた。

辺りには野次馬がいたが、二人の激しい攻防戦に入る事が出来ず見ているだけだった。

「あんたの方が怪しいでしょう、この泥棒!」

「こんな大荷物持って!あんたが最近町にいる不審者でしょ!?」

二人の会話が噛み合わない。

「これは買い物した物を入れてるだけよ!」

「ヒーラ教の信者の言う事など信じられるもんか!」

ヒーラ教。その言葉を聞いた野次馬の一部が声をあげた。

「なんだと!ヒーラ教だと!」

「おらぁ!そっちの水色の女を押さえ込め!」

野次馬の男達が町娘に加担し、サリアを押さえつけようとした。

「ひっ!」

町娘達の怒りを感じ取り、サリアはおびえ、その場にしゃがみ込んだ。

頭を抱え込みながら地面に座り込み、心の中で必死に助けを呼んだ。

恐怖で震えるなか、町娘達の悲鳴と打撃音が聞こえる。

おそるおそる顔を上げると、アクスが町娘の首を持ち上げてる姿が見えた。

サリアが慌てて止めに入る。

「アクス!それ以上はダメ!!」

サリアはアクスの背中に飛びかかり、その衝撃しょうげきで町娘を腕から離した。

アクスはゆっくりと後ろを振り返る。

その時の瞳は狂気に満ちているかのように暗く、飲み込まれそうなものだった。

サリアを見るなりアクスの様子は元に戻った。

「サリアか…けがは無いか!」

ほっとしたかと思うと、慌ててサリアのけがの具合をうかがった。

「大丈夫。それよりも、この人たちのけがを治さないと…」

アクスによって倒された人達を治そうと、サリアが手を伸ばす。

バチぃと乾いた音が鳴り、サリアの手が払い除けられる。

「触るな!ヒーラ教の助けなどいるか!」

町娘は憎悪のこもった目を向けると、その場から逃げ去った。

逃げた先からペパが向かって来ていた。

「どいて!」

ペパを押しのけ、町娘は路地裏に姿を消した。

サリアが深くため息をつきながら、町娘を見ていた。

「…大丈夫か?」

アクスが手を差し伸べる。

「うん…ありがとうね」

「大丈夫ですかアクスさん?」

あとからやってきたペパがアクスに声をかけた。

「ん?あんた付いてきてたのか」

「えぇ。それにしても災難でしたね」

サリアがペパの顔をまじまじと見つめると、今度はアクスの顔を見た。

「知り合い?」

「さっき知り合った。ペパって言うんだ」

「どうもはじめまして、ペパ=シヨンです」

「私はサリア=ルフェル、アクスが世話になったようで…」

「いえいえ!むしろこっちがお世話になってまして」

「それよりも、こいつらはなんだ?」

アクスが倒れたサリアを襲った男達を指差した。

ペパが男の胸の辺りを探り始めた。

「あぁ、やっばりウォレト教の人達ですね」

男の胸には、首から下げられたウォレト教のお守りがあった。

ウォレト教とは、水の女神を信仰する宗教である。

水のしずくのような物が描かれた紋章がその印である。

「ヒーラ教は他の宗教から嫌われていて、特にウォレト教からひどい嫌がらさを受けていると聞きましたが…まさかこれほどとは。同情します」

二人に深く頭を下げ、倒れた男達を見下ろした。

「ウォレト教徒は水のように清らかな心を持っていると聞きましたが実際は真っ黒でしたね。正義の使徒を名乗っておきながら、容赦ようしゃのない嫌がらせをする、蛮族共ばんじんどもの化けの皮が剥がれて、まったくざまぁないですね!」

徐々に勢いが増すも、その口調は冷たかった。

冷たくののしるペパの口元にかすかに笑みがこぼれていた。

それに気づいたアクスのペパを見る目が変わる。

「……おっと!私とした事がつい口が滑りました。どうか忘れてください」

そう言うとペパは、その場から離れようとした。

「おいペパ!」

アクスに呼び止められ、ペパがゆっくりと振り返る。

神妙な顔でアクスが問う。

「お前、どこの宗教だ?」

ペパは口をつぐむ。少しすると重い口を開いた。

「申し訳ないですがここでは言えません。もし興味があるのであれば、私はしばらくこの町に滞在いたしますので一人で会いに来てください。それではこれで…」

会釈えしゃくし、ペパは再び歩き出した。

アクスはペパの姿が消えるまで目をそらさなかった。

「ねぇ!もしかして改宗するつもりじゃないわよね!?」

アクスの様子を見たサリアが、あせった様子で問いかける。

「心配すんな、俺はお前一筋だよ」

「そうよね!よかったぁ…」

サリアは安心したかのように軽く息を吐いた。

「それよりもサリア、頼みがあるんだが」

「うん?何?」

「一日だけでいい、修行させてくれねぇか」

アクスは真剣な顔でサリアに頼み込んだ。

サリアは黙ってしまった。

しばらくのあいだうつむき、悩んだすえに口を開いた。

「………うん、分かった。あなたがそんな真剣になるって事はそれだけの事情があるのよね」

「あぁ…ありがとう」

「その前に一つ。さっきの事、私はまだ忘れてないわよ!」

「あっ…!」

アクスは思い出したかのように驚きの声をあげた。

「………適当に選んだから…?」

必死に考え出した答えを言うと、サリアはにこやかに言った。

「違うわ。でも、そうやって真剣に考えてくれたのが正解よ!」

「え?」

理解できないアクスが間抜けな声を出した。

「いい?将来、女性とデートするって時にさっきの態度じゃ振られちゃうわよ」

「デート?」

「そうよ、だから気をつけなさいね?」

勝手に話を進めるサリアに付いていけず、アクスはその場で放心してしまった。

「どうしたのアクス?修行するんじゃないの?」

サリアの声で、アクスが正気に戻った。

「ほら、早く行きましょ!」

サリアは足早あしばやに町の外へと向かって行った。

残されたアクスは、一人で呆然としていた。

「デートってなんだ…?」

謎が解けたと思いきや、新たな謎がアクスに降りかかるのだった。











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