第5話 魔王軍襲来

ダンジョンでの出来事から一日が過ぎた。

あの日ダンジョン内で出会ったヘルガンは、あの後町の宿屋へ運ばれサリアの治療を受けた。

サリアによれば、大した事はないらしい。今ではすっかり元気になり、ギルドで三人と食事を取っていた。

「ごちそうさまでした!」

食事を済ませたヘルガンは、アクス達に改めて礼をした。

「皆さん本当にありがとうございます!おかげで元気になりました」

ヘルガンの体は、遺跡で出会った時とは変わり、痩せほせた体が膨れ、健康体になっていた。

食事をしていたアクスが、口の中の物を飲み込んだ。

「良いって、困った時は助け合いだから気にすんな」

それだけを言うと、再び食べ物を頬張りだした。

「サリアさんも、その…ありがとうございます、親身に看病してくれまして…」

お礼を言うヘルガンは、サリアの顔を直視しようとせず下を向いていた。

「気にしないで、傷ついた人を助けるのが私の役目、これくらい当然よ」

優しく微笑むサリアは、まさしく女神だった。

「あっ…ありがとうございます…」

ヘルガンの顔が真っ赤になっていた。

「ところであんた、あそこで何やってたのよ」

デザートのパフェを食べてる途中のリーナが、昨日の事を尋ねた。

「昨日言った通り…好奇心で入りました…」

「ふーん…」

ヘルガンの言葉をリーナは信用はしていないらしく、用心深く見つめる。

視線に耐えきれなくなったヘルガンが話を切り出した。

「実は僕、冒険者になろうとして王都からやって来たんです」

「じゃあ冒険者でもないのに、一人でダンジョンの深部までたどり着いたの?」

謙虚な様子で、頭をかきながら頷く。

「えぇ、まあ…あの…それで皆さんにお願いがあって…」

「嫌よ」

「ええっ!?」

何も言っていないのに、リーナが先に返事をしてしまう。

「僕まだなにも言ってないですよ!?」

「どうせ、パーティーに入れてほしいとかでしょ?あんたみたいな弱いやつなんか入れたくないわ」

「うっ!」

図星のようだった。

「そもそも、なんで私達のパーティーに入りたいのよ、みすみす死にに行くようなものよ」

リーナの言うように、ヘルガンがパーティーに入った所で魔王軍を相手にするには荷が重い。

リーナの圧に押され怖気ながらも、ヘルガンはぽつりと語りだした。

「…実は、あのラルトと言う吸血鬼に大切な物を奪われてしまって…親の形見なんです」

弱々しい声が、徐々に大きくなっていく。

「だからお願いします!僕をパーティーに入れてください!」

机に頭を押し付け、三人に懇願した。

「リーナ、居たって邪魔にはならないだろうし、パーティーに入れてもいいんじゃねぇか?」

アクスは、ヘルガンを仲間に加える事に不満はないようだが、リーナは違うようだ。

しばし考え込むように押し黙ると、再び口を開いた。

「いいわ、ただし邪魔したらすぐに追い出すから」

リーナは念を押すように、ヘルガンを睨みつけた。

「はっ!はい!ありがとうございます!」

椅子から立ち上がり、何度も何度も頭を下げた。

サリアがデザートを食べ終え、椅子から立ち上がる。

「話も済んだ事で、アクス、ちょっと付き合いなさい」

「ん?」

「組み手よ」

アクスに対して、組手を申し込んだ。

「えっ!アクスとリーナが組み手するの!?」

サリアの声で、周りの冒険者達も気づいた。

「おいおいまじか!?」

「アクスのやつ死んだな…」

周りの騒ぎを無視して、リーナが話を続ける。

「で?どうするの、やらないの?」

アクスは椅子から立ち上がり、ニヤリと笑った。

「もちろんやるに決まってるさ、俺もおまえとは一度戦ってみたかったんだ…」

普段のアクスとは様子が違い、口調から、落ち着いているが興奮を隠しきれていない事がわかる。

リーナがニヤリと笑うと、視線をギルドの外にある広場へと向け、誘うように首を向けた。

リーナの後にアクスが続くように、広場へと向かった。

思わず呆然とし、止める事を忘れていたサリアが正気に戻った。

「いけない!あの二人を好きにしたら、大変な事になる!」

椅子から飛び出すように立ち上がり、二人を追って広場へと向かった。

「あっ!待ってください!」

急いでヘルガンも後を追う。

周りの冒険者達も、アクス達の戦いが気になるようだ。

「おい!俺達も見に行こうぜ!」

ギルドに居た冒険者達が一斉に立ち上がり、広場へと向かって行った。


広場には既に二人が間合いを取り、お辞儀をしていた。

サリアが慌てて二人を止めようと、ギルドから走って来ていた。

「おっ!良いところに来てくれたな」

アクスは背負っていた剣を外し、サリアに向かって投げ渡した。

不意の事に驚くも、無事に剣を受け取った。

「わりぃなサリア!ちょっと預かっていてくれ!」

「ちょっとアクス待ちなさい!まだ、組み手なんかしていいなんて言ってないわよ!」

サリアが止めるも、二人の戦いは既に始まっていた。

先手を仕掛けたのはアクス、素早い動きで相手の目の前まで迫り、パンチを繰り出した。

勢いの乗った拳は、リーナの腕に防がれた。

不敵な笑みを浮かべながら、リーナは動く事もなくその場で平然と立っていた。

リーナはアクスの腕を払い除け、顔目掛けて拳を放つ。左手で受け止めるも、防御が薄くなった左側から回し蹴りをくらう。

衝撃のあまり後ずさると、間髪いれずにリーナが仕掛ける。

突撃の勢いのまま頭突きを当て、よろけたアクスの腹に拳を入れる。

アクスは攻撃を食らいつつも、リーナの拳を受け止めた。リーナの腕をしっかりと掴み動けなくなったところに、力いっぱいに拳を振り下ろす。

ほおに当て、よろけたところに回し蹴りを放つ。

腕で防がれるも、その蹴りはリーナをその場から押し出した。

ブレーキをかけるように、足で地面に踏ん張った。

アクスはその様子を見て嬉しそうに口角を上げた。

「どうだ!」

戦いで感じる高揚感のあまり、テンションが上がっていた。

サリアは口から血を吐き捨て、煽るような口調で話す。

「軽い攻撃ね、一人前なのはタフさだけかしら?」

渾身の一撃を受けてなお、ほとんどダメージが無かった。だがアクスは笑っていた。

「へへっ!そうこなくちゃな、今からタフさだけじゃないってとこを見せてやるぜ!」

腰に拳をえ、力を溜め始める。体から魔力が溢れ、白いオーラとなって見える。

「へぇ…おもしろい!」

高まるアクスの力に笑みを浮かべ、リーナも同様に

力を溜める。赤いオーラが目に見え、それはアクスのよりも強い力を感じた。

二人の力は凄まじく、二人の周りから風が吹き荒れ、周りの人達は立っているのも辛かった。

「ちょっと二人共!やりすぎよ!」

サリアの声は二人には届かず、二人はさらに力を高めあった。

その時、町中に警鐘けいしょうの音が響き渡る。

「魔王軍接近!冒険者の方々はただちに町の南門へ向かってください!」

警鐘けいしょうの音と共にギルドの職員が、広場に大声で叫んだ。

「…勝負はお預けね」

「だな…」

リーナは少しがっかりした様子で、三人よりも先に町の南門へ向かった。

アクスはサリア達の元へ駆け寄り、剣を受け取った。

「よし!俺達も行くぞ!」

「ええそうね。でもアクス、後で話があるから」

サリアの目から、静かな怒りを向けられる。

肝心のアクスはきょとんとし、首を曲げる。

「…?わかった、後でな」

三人も他の冒険者達に混じるように、南門へと向かった。


町の南門にはリーナを始め、冒険者達に町の兵士まで集まっていた。

「よおアクス、ずいぶんと活躍しているみたいじゃねえか」

聞き覚えのあるこの声に話しかけられ、アクスが振り返る。

「ジンのおっちゃん!久しぶりだなぁ!」

「あっ、あの時のおじさん」

アクス達が初めてギルドへ来た時に、話しかけてきた冒険者のジンだった。

「話は聞いてるぜ、魔王軍の幹部と互角に戦っただとか」

「まぁな」

アクスの態度は素っ気なかった。

「ははっ!そうかやるじゃねぇか。それよりそっちの細いやつは新しい仲間か?」

ヘルガンに視線を向けた。

「ほっ…細い?」

自身を指差し、ほそぼそとした声を出す。

自分の体格が細いことは自覚しているものの、いざ他人に言われるのは、ヘルガンにとってはショックのようだ。

「こいつはヘルガンって言うんだけど、あともう一人、あそこにいるリーナってやつも同じパーティーなんだ」

人だかりの先頭にいるリーナを指差した。

「ほぉ…あのリーナまで、もしかするとおまえは本当に…」

顎に指を当て、期待の眼差しを向ける。

「アクス、来たわよ!」

サリアの言葉で状況を思い出した。既に魔物達が、アクス達の前まで迫っていた。

ゴブリン、キメラ、見慣れた魔物の他にも、岩の体をもつ、鳥のような羽を持つ人型ひとがたの魔物、などの他にも様々な魔物が立ち並んでいた。

その奥には、黒い龍の紋様が入った旗を掲げる、軍の指揮官らしき魔物が見えた。

数はあちらが上回っている、その上魔物はどれも厄介な能力を持っている。開戦前から不利な状況だ。

あまりの敵の数に、皆が息を呑む。

「…大丈夫ですかね?…勝てますかね?」

早くも怖気おじけついたヘルガンが、サリアに泣きつく。

「落ち着きなさい、大丈夫よなんとかなるわ」

ヘルガンを落ち着かせると、サリアはアクスの方を振り返る。

「アクス、言っとくけどいきなり突撃とか…」

そこには既に、アクスは居なかった。すると、人だかりの方からどよめく声が聞こえてきた。

不安に感じたサリアは、すぐさま人だかりの前まで押し通った。

「そこのおまえー!俺と戦えー!」

案の定、アクスが魔王軍の元へと叫びながら突撃していた。

「ばかアクスー!!」

サリアの叫びが、町中に虚しく響き渡る。

「ふん…」

少し遅れて、リーナも魔王軍の元へ駆け出した。

「ああっ!リーナさんも…!」

二人の動きを見て、ジンがみなの前に出た。

「俺達も行くぞー!!」

ジンの掛け声に合わせ、みなが武器を掲げ、声を合わせる。

「おぉぉ!!」

魔王軍も、アクス達の動きに気付いていた。

「隊長!前方より二名が先んじてこちらに向かっております。それに続き、兵士や冒険者達も一斉に押し寄せて来てます!」

偵察の魔物が、隊長と呼ばれている魔物に目に見える全ての事を伝達した。

「うむ…全軍突撃!特殊部隊はあの二人を迎え撃て!」

「はっ!」

命じられた魔物達が隊をし、アクス達の前に立ちはだかる。ゴブリンの集団が、アクスに飛びかかる。

「邪魔だぁ!」

ただの蹴りで、ゴブリン達を薙ぎ払う。もはやゴブリン達ではアクスには敵わなかった。

「しゃあ!!」

アクスの頭上から鋭い爪を持つ猫の様な魔物が迫る。

寸前のところで受け止める。が、爪が急激に伸び、アクスに再び迫る。

蹴りを放ち魔物を吹き飛ばすも、アクスのほおに切り傷が出来ていた。

魔物は、爪に付いたアクスの血を舌で舐めとる。

「くくくっ!なかなかやるじゃないか!だが、次は確実に切り裂いてやるよ」

アクスは魔物の動きを見て、即座に構えた。

すると背後から、さらに敵が現れた。

一体、二体、三体…合計六体もの魔物がアクスを囲んだ。

絶対絶命のピンチほどではないが、危険な状況におちいっていた。にも関わらず、アクスは小さな笑みを浮かべる。

「一対一の戦いの方が好きなんだが…こういうのも…悪くねぇな」

「ほざけぇ!」

先程の猫の魔物を筆頭に襲いかかってきた。

変幻自在に伸びる爪を使い、アクスを追い詰める。

後ろから、背中が隙だらけのアクスに、一体の魔物が拳を振るう。

咄嗟に猫の魔物の攻撃を振り払い、背後の魔物の拳に拳をぶつける。

その魔物の体は鉄のように硬く、アクスのパンチを受けてもびくともしなかった。

「威勢の割に大した事ないな!」

「なんだとぉ!」

何度も何度も連続で攻撃を打ち込んでくる、硬い上に速い攻撃は中々のものだった。

するとまた背後から、先程の猫の魔物が長い爪でアクスの背中を切り裂いた。

傷はないものの、衝撃で前方に吹き飛ばされ、鉄の魔物のパンチをもろにくらった。

宙に吹き飛ばされるが、体制を立て直し地面に着地した。だが、着地した場所は泥沼だった。

足がくっついているかのように泥が纏わりつき、逃れる事ができなかった。

その側には、この泥沼を作り出しと思われる泥で出来た魔物が、気味の悪い笑みを浮かべていた。

「ふへへへへ…」

足が離れない中、容赦なく魔物達は襲いかかってくる。

「くっ…!」

「もらったぁ!…ぐほっ!!」

魔物達が突然吹き飛ばされた。横を見ると、リーナが立っていた。

「まったく、なにしてるのよあんたは」

口を開いた途端に厳しい言葉を投げかける。

アクスは足元の泥を自身の能力で凍らせ、泥の粘着から逃れた。

「へへっ!サンキュー!」

「ったく…」

呆れているのか、それとも苛立っているのか、リーナの返事はぶっきらぼうな様子だ。

「こいつら案外手強くてなぁ」

「言い訳しない!さっさと倒すわよ」

二人はお互いの背後を守るように、背中を合わせた。

「六体か…ちょうど半分こできるな」

「こういうのは早いもの勝ちよ」

我先に、リーナが飛び出した。

アクスと戦っていた三体の魔物に狙いをつける。

泥の魔物が、リーナに向かって口から泥を吐いた。

「気をつけろ!その泥に捕まると厄介だぞ!」

「わかってる!」

自身の体に魔力で出来たバリヤーを張り、飛びかかる泥を防いだ。

「バリヤーだと!」

リーナは泥の魔物を倒そうと飛びかかるが、鉄の魔物がリーナの前に立ち塞がる。

「邪魔よ!」

リーナがパンチを放つ。しかし、リーナの攻撃を受けても鉄の魔物には傷一つ入らなかった。

背後からは猫の魔物が攻撃を仕掛けてくる。二体の攻撃を同時にさばくも、形勢は不利だった。

「リーナ!」

助けようとアクスが動くも、他の二体の魔物がアクスに襲いかかる。

鋭く尖った針を背中から飛ばしてくる魔物攻撃を後ろに跳びながら針をかわす。すると、もう一体の魔物が口から緑色の粘液を吐いてくる。

ただならぬ予感がしとっさにかわす、外れた粘液は地面を溶かした。

「毒か!」

二体の魔物が不気味に笑いながら、アクスにゆっくりと詰め寄る。

それよりも、アクスは気になっている事があった。

視線の先には、六体の内の最後の一体。なにもせず戦闘を見ているだけだが、油断はできなかった。

その戦闘の様子を、少し離れた所からサリア達が見守っていた。

「アクスさん達、大丈夫ですよね?」

不安そうにサリアの表情を伺い、反応を伺った。

サリアはなんとも言えずに、じっと押し黙った。

「心配しなくても大丈夫だ」

サリア達の後ろにジンが立っていた。

ジンも魔物達と激戦を繰り広げたのか、武器や服には血がべったりと付いてる。

「大丈夫ってどういうことですか?」

ヘルガンが、ジンに振り返り尋ねた。

「まぁ見とけ、勝負はすぐに終わるさ」

ジンの目はアクスとリーナ、二人の行く末を見つめていた。


二人は苦戦を強いられていた。複数の敵による息のあった連携攻撃と特殊な技による攻めは、二人にとっては辛いものだった。

アクスは二体の魔物に、じりじりと追い詰められていた。

リーナも二体の魔物に挟まれていた。

猫の魔物と鉄の魔物が、同時にリーナに襲いかかる。

「「くたばれぇ!!」」

二体の攻撃が重なった瞬間、リーナは勝機を見い出した。攻撃の当たる寸前に、超スピードで攻撃をかわした。

鉄の魔物の重い一撃が猫の魔物の腹を貫いた。

「ぐへぇ!」

「しまった!」

気付いた時には遅かった、リーナは鉄の魔物の背後に現れ、強力なエネルギー弾を放った。

そのエネルギーは、鉄の様な硬さでも難なく砕いた。

アクス達の方にも、その事態は見えていた。

「なっ…!なんだと!」

魔物達が振り返り、仲間の死を嘆き叫ぶ。

アクスはその隙を見逃さなかった。

「今度はこっちの番だ!」

粘液を吐く魔物に一瞬で詰め寄り、そらに高く蹴り飛ばした。それに続き、アクスもそらに跳ぶ。

魔物が吹き飛ばされる速度よりも速く跳び、魔物の頭上を取った。拳を重ね、力任せに叩きつける。

地面に向かって叩き落とされた魔物は、地上にいたもう一体の魔物に直撃した。

さらに追い打ちをかけるように、空中からエネルギー弾を放った。二体の魔物は粉々に吹き飛んだ。

二人の戦いを見ていたサリアの顔に笑みがこぼれる。

いきなりの出来事に、ヘルガンはついていけずに混乱していた。

「どうやったんです?いきなり戦況が逆転しましたけど…」

「一瞬の隙をついたのさ。あの猫の魔物と鉄の魔物が途中で連携を崩しちまった、そこに出来た隙をリーナは見逃さなかった」

さらに話を続けた。

「猫達がやられた時に、アクスの相手をしていた魔物達が慌てて、あろう事か戦闘中に敵から目を離しちまった。連携ってのはぴったり合わないと、ああいう風に狂っちまう、それを見逃さなかったあの二人もさすがだがな…」

「なるほど!さすがあの二人はレベルが違いますよ!」

「まったく…心配かけさせて…」

緊張が解け、サリアが深く息を吐き、胸を撫で下ろした。

だが、勝負はまだ終わっていなかった。

リーナの体に植物のつるの様な物が巻き付けられた。つるの先には、最後の六体目の魔物が居た。

「油断したな!このまま俺のつるで、絞め殺してやる」

「よくやったぞ!」

つるに囚われようとリーナの様子は一切変わらなかった。

「ふんっ…!こんな物で私の動きを封じれるとでも思ったのか!」

強引につるを引きちぎり、大きく腕を広げた。

「私を舐めるなよぉ!」

自身の周りから紅いオーラが溢れ、その異様な姿は恐怖そのものだった。

「ひっ!!」

激昂したリーナの動きは速く、一瞬で魔物達の眼前まで迫っていた。

素早い動きに対応できずなにも出来ないまま、魔物達は体を貫かれた。

倒れた魔物達に、止めのエネルギー弾をくらわせた。

その様子を見ていた魔王軍の隊長が、激怒した様子でリーナの前に現れた。

「貴様ぁ!よくも特殊部隊を潰してくれたなぁ!」

大きな腕を振り回しながら、リーナに迫る。

大振りな攻撃は、実に単調で当たる事などなかった。

隙だらけの頭に飛び蹴りを放つと、地面に仰向けに倒れ込んだ。

「隊長がこのザマとは…まぁ、正面から挑んできた事は褒めてあげる。敬意を払って、とっておきを見せてあげる」

リーナが地面から氷の柱を建て、一気に空へと昇っていった。

氷の塔の上から太陽のように輝く光が、リーナの指から現れる。光は大きな玉と化した。

「見せてやるわ…『グレートノヴァ』!」

大きな光球は魔物にぶつかると、魔物もろとも敵の本隊へ向かって突き進んだ。

地面を削りながら進む光球は、魔物が大勢いる場所で巨大な爆発を起こした。

その威力は、サリアの『スターダストエクスプロージョン』にも引けを取らなかった。

唯一違う点をあげるなら、周りへの被害度であろう。

爆発が収まると、爆発の中心部の地面には巨大な穴が出来ていた。

魔物達は全て消し炭になり、跡形も無くなった。

悲惨な大地を見て、リーナが不満げに舌打ちをする。

「雑魚が…」

「すげぇなリーナ!っていうかそんな技使えるなら最初からやっとけよ!」

子供のように目を輝かせたアクスが氷の柱の下で、大声で叫んでいる。

リーナは氷の柱は飛び降り、アクスに言った。

「悪いけど、連発できる物でもないのよ。それにいつなにがあるか分からない以上、魔力は温存しておきたくてね」

そうは言うものの、あれだけのエネルギー弾を放ったというのに、リーナは平然としていた。

二人の元に、サリア達が走ってやって来た。

「アクス〜!サリア〜!」

サリアに気づいたアクスが大きく腕を振る。

「よぉ、サリア!やっつけたぞー!」

サリアの顔をがやけに明るかった。

「すごいわね二人とも!それでね、話いいかしら?」

途中から声のトーンが下がり、アクスは身構えた。

「アクス?なんでいっつも勝手に飛び出すの?」

サリアの圧力に押され、慌てた様子が見て分かる。

反応を伺う様に、恐る恐る尋ねた。

「いや〜その…おもしろそう…だから?」

アクスの言葉を聞いた途端、サリアの指先がアクスの頬を摘む。

「痛ってぇ!離してくれ!」

「私はこうするとおもしろそうだから、やめないわよ。アクスだって同じことしてんるんだから文句言わないの」

笑顔のまま頬をつねり、鬼畜な言い分を述べるサリアは実に恐ろしかった。

「それとリーナもよ」

関係ないと高を括っていたリーナが、思わず声に出した。

「なんで?」

サリアが、爆発で出来た穴を指差す。

「あれ、誰が直すのかしら?」

途端に目をそらした。

「いや…その…」

サリアは無言でリーナに密着する。

「…私が直します…」

あまりの圧力に耐えきれなくなったのか、リーナが小さく手を上げた。

「よろしい!アクスも罰として手伝いなさい、終わるまでご飯抜きね」

「「はぁぁぁ!?」」

二人の声をが重なり、大きく響き渡る。

鋭い目を向け二人を睨みつける。

「なに?文句あるの?」

「「すぐにやらせていただきます!」」

二人は大急ぎで修復に取り掛かった。

二人が尻に敷かれる光景を見て、ヘルガンがぼそりと呟いた。

「…僕のパーティーで一番強いのって、サリアさんかもしれませんね…」

「…そうかもしれないな」

側に居たジンが小さく答えた。





























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