【07】第1話 : 探偵のコーヒーブレイク〈1〉
「あぁ…ヤマザキ先生。また、
イタズラ顔のルージュが俺をからかう。
軽く否定は、してみたものの気になる…。
「何で、そう思うんだい?」
「だって…。先生いつも考え事する
バレていたかぁ…。
その通りだ。
「先生が豆を、お
昨日の手術からずっと、ローハイド氏の
「それは、すまなかった! これで最後にしておくよ」
もちろん、アルコールがアナフィラキシー・ショックの原因である事は分かっているのだが…。
「なぜ、本人が口にしていない大量のアルコールが、第七牛腑から摘出されたか…だ」
─ミルのハンドルが、ゆっくりと回る。
まるで、深い迷宮階段を降りるかの様に。
午前中の診療が終わり、キッチンで、二人と一緒に、コヒーブレイクと、しゃれ込んだはイイが…。
不意にブリオが、明日までに提出するゼミ・レポートのペンを止め
「なんなら、患者さんは命まで失いかけたんでしょう?
ブリオが、国民的アニメ主人公のマネをして、おどけて見せた。
「コラ! ブリオちゃん。 ローハイドさんは、曲がりなりにもルージュさんの義理の、お父さんなんだぞ。
「あぁ…ブリオ、そう言うつもりじゃ…無くて…ごめんなさい…」
ルージュは、シナモンロールケーキを運びながら言う。
「いいのよ。ブリオちゃん。気にしてないわ」
彼女は、ニコニコしながら
─俺は、この『シルバーナ』
深い香りと上品なコク。
そこに重なる甘~いシナモンの
これほどの太いボディーの豆には、舌に
もはや背徳感さえ
「先生! …先生! …ヤマザキ先生!」
なっ何だよ…。
こっちは、
ほっといてくれよなぁ…。
「先生…たらっ! チタ先生から、お電話です!」
ルージュが、いつの間にか受話器を片手に、俺を
「ああ…すまない…ルージュさん」
『チタ』とは、ブリオが通う医大の助教授である。
ちなみに彼女は、チタ・ゼミの生徒でもあるのだ。
俺は、研究会を通して彼と知り合った。
変わり者ではあるが気さくで、いい男だ。
「ハイ! 代わりました…ヤマザキです」
「おう! ヤマザキ! 昨日、預かってた、病理検査の結果が出たぞ」
さすがに、仕事が早い。
助かる。
「さっそく、残留物の中身だがな…。
一つ目が干し草だ。まぁ半分以上、胃液で溶けてしまっていたけどよ。こいつあぁ収穫した小麦を更に熟成させた
受話器の奥から子供をあやす声が聞こえる。多分、自宅から電話しているのだろう。
「ただの牧草では、なかったんだな!」
「ああ…そうだな!
二つ目は液体状のアルコールだが、ありゃぁ麦酒だ。分かり安く言えば、苦味の成分であるホップさえ入れてやれば、ビールになっちまう
発酵食品と、ビール? ますます分からない。
「これは、
その発酵食品を
「そりゃ珍しい菌だぁ…。聞いた事が無い」
「だろう? そこで俺も気になってな。
えぇと…『R1-35-O
「そんな珍しい菌が、何でローハイド氏の腹から出て来るんだよ」
「そんな事、俺が知った事かよ」
─あぁ…もっともだな。
「わりぃ! わりぃ! こっちも、ローハイド氏の疾患が分からなくて、弱っている所でな…」
─何とか解決の糸口さえ
「それで、そのう、何だ…R1なんちゃらってヤツは、会社での使用目的は何だ?」
「さすがに、特許の内容までは公開されていては無いな…。まぁオレの見解だがなぁ…特許申請するくらいだから会社にとって、よっぽど価値の有る貴重な菌だろうよ」
─同感だ。三日月形の赤色菌か。
糸口になるかもしれないな。
「チタ! 毎度、忙しい所、悪リィなぁ! 次、研究室の近くに寄ったら、
「おぉ! それなら、この間、ヤマザキからもらったウイスキー…
「手に入りにくい、酒だがなぁ…。ヨシ! 当てを探しておくよ。チタ!」
「まあ、万年金欠男のヤマザキ先生だ! 俺は
─相変わらず、減らず口を
「友人なら、少しくらいは、信用してくれよ」
「あいにくだがな! 俺がヤマザキを、唯一信用している所は…。まぁ…不思議に…その覚悟を持った目だ! それだけだ!」
─ヘッ! ありがとよ。恩に着るぜ。チタ。
電話口で『ワッ!』と赤ん坊が泣き出す。
そこで、通話はプツンと切れた。
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