【06】第1話 : 緊急手術〈3〉

 一時間ほどって、ローハイド氏が目覚めた。

「うぅぅん…わ…私は…どうしたんだ…?」

「お目覚めですか? ローハイドさん」

 彼が、周りを見渡す。

「ローハイドさん。あなたは、お酒によるアナフィラキシー・ショックの為に意識を失われて、そのまま救命処置を受けていた所だったんですよ」

 状況を把握ハアクを出来ていない彼に、ゆっくりと説明をする。

 始めは、朦朧モウロウとしていた彼だったが俺を確認出来たらしく、声を張る。

「なんだい。私が君の様な貧乏医師に助けられたとでも言うのかい?」

 ─貧乏は、関係ねぇだろぅ…オッサン!

「まあ…この際、執刀シットウ医師として率直に御聞きします。なぜ、ご自身のアレルギーである酒を、あんな大量に摂取セッシュされていたのですか?」

「アンタは何を言ってるんだぁ? 酒なんて、ここ何十年も口にしていないし、自分の命取りに成る物なんて、近づけもシナイ!!」

 大きな片手を振りながら否定する。

「いいえ。待って下さい。確かに、ローハイドさんの胃袋から、大量のアルコール残留物が確認出来ました」

 彼は語尾を荒げ言った。

「バカを言え! 貧乏医師が、サラ疾病シッペイ原因も分からんとは、加えて無能なヤブ医者って事だな!」

 黙っていたルージュが、見かねて割って入った。

「パ……。…ローハイドさん! いくら何でも命を救って頂いた、ヤマザキ先生に向かって失礼じゃないですか! 先生は確かにですが大変優秀な、お医者様です。ヤブ医者なんかでは決してありませんっ!」

 ─ルージュ…。

 貧乏医師は肯定コウテイするんだ…。

「なんだぁ…? やっ…。 ル…ルージュ…じゃないか。何で、お前が此処ココに!」

 やっと彼も、ルージュに気付く。

「ローハイドさんには、関係の無い事です」

 彼女は視線シセンを外す。

「おぉ! 分かった! 分かった! これ以上、貧乏医師の厄介ヤッカイには成らん! 勘定カンジョウだ! 勘定! 治療費は、いくらだ!」

 彼は、自分の尻のポケットを、まさぐるが…。

「こっこりゃいかん。財布を落としてしまった! あぁ… 」

 動揺ドウヨウする彼に、記憶の確認をウナガす。

「ローハイドさん。ここに来る前に、どちらかに行かれていたのでは?」

 彼は、天井をアオぎながら、ヒタイに手を当てる。

「うぅぅん…どうやら午前中に視察シサツした、ゴブリン…村…か」

「ローハイドさん。治療費は後日で、いっこうに構いません。もし、なんなら、こちら側から『スモーキー&カンパニー』に御請求してもよろしいのですが…」

 俺が、あえて気をツカってみせる。

「あぁ…そうしてくれ! その方が大いにムダがハブけそうだ!」

 ルージュは視線を外したままだ。

「しかし! この私が賢者様ケンジャサマなら、ともかくも、こんな貧乏医師に救われるとは…」

 ─賢者様じゃ無くて、悪かったな!

 まあ…最も、賢者様の賢聖術ケンセイジュツは、臓器疾患、外傷など、物理的な治療だから、ホトンどの病気、疾患に適応し100%完治する。

 しかし、ウィルス感染、アレルギー疾患、精神病などの症状には適応し無い。

 つまり、今回のローハイド氏の症状は、そもそも適応だ。

「緊急手術はルージュさんの適切かつ、迅速ジンソクな補助もありまして、時間短縮、最小限の切開で済みました。あと…30分程で、完全に麻酔薬が切れます。なので、このまま、ゆっくりされていて下さい。自分で歩いて、お帰りになれます」

「フン! ヤブ医者の指示なんぞ、聞く耳もたんわ!」

 ─大魔王! 地獄に、お帰りになればイイのに!

「では私達三人は、これで失礼致します…。どうぞ、お大事なさい」

 と、ER-Bを出かけた時。

「両親の墓に、いつも花をソえてくれているのは、お前か…ルージュ…?」

 ローハイド氏の問いに、ルージュは、足を止め振り向く。

 ─が、何も答えないまま、俺ら二人の後に続いた。



「よーし。よーし!! おとなしく待っていたなぁ。 イイ子だぞう」

 俺が遠くから手を振ると、寝ていた救搬竜エル・ドラゴのシロがムクリと起きる。

 そこから、こちらを確認すると舌を出しながら、シッポを激しく振り出した。

「ヨシヨシ! イイ子だったなぁ。ご褒美ホウビにコレをやろう」

 そう言うと俺は、いつもポケットに忍ばせてある『チンギス・食べっ子モンスター』ビスケットを、シロの大きな口に2、3個放り投げてやる。

 ちなみにシロは、イカの怪物、クラーゲンの形をしたビスケットが大のお気に入りだ。

 ─味は皆同じなのに…。

 また、首元も優しくでてやると『クーン…クーン』と甘えて体を寄せて来る。

 俺は、ルージュ、ブリオ、二人の後を確認してコンテナに入った。

 ─さぁ! ヤマザキ診療所に帰るぞ。

「シロ! ハウス!!」

 俺が叫ぶ。

 一瞬、無重力に成ったかと思うと、そのまま加速し大きな谷を越えて行く。

 ─月明かりに照らされた夜のトバリが、とても綺麗キレイだ。



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