第6話

あたしも殺されるんじゃないだろうか?



そう思うと全身から血の気が引いていった。



「これつけて」



いつの間に準備していたのか、お母さんがあたしに絆創膏を渡してきた。



手鏡で確認しながら数字の上に貼り、周りの髪の毛で絆創膏を隠す。



一見すればわからなくて、ひとまずホッとため息を吐き出した。



この数字が見えなければ攻撃されることはない。



しかし、安心したのもつかの間だった。



街から出る寸前でビーッビーッという警告音が聞こえ始めたのだ。



大きな音にとっさにお父さんは路肩に車を停止させた。



「なんの音だ!?」



「わからないわ!」



大声を出さないと互いの声も聞こえないほどの音。



その音はまるで自分の体の中から聞こえてきている気がして、あたしは座った状態でうずくまった。



「なに? どうなってるの?」



そんな自分の声はかき消されてしまう。



「来た道を少し戻ってみるか」



なにかに感づいたお父さんがそういい、車をUターンさせた。



そして少し走らせると、警告音はピタリと止まったのだ。



「嘘でしょ。今のあたしの体内から聞こえてきてた?」



「そうかもしれない。予想外の行動を起こすと警告されるのか……」



ミラー越しに見たお父さんの顔が青ざめ、今にも倒れてしまいそうだ。



「予想外の行動って? あたしが街を逃げだそうとしたことがバレてるってこと?」



お父さんが力なくうなづく。



そんな……!



「商品はいつも通りの行動をとらなきゃいけないっていうルールがあるわ」



沈黙が降りてきそうになったとき、お母さんが呟いた。



「え?」



「1度だけ、人権剥奪法について調べたことがあるのよ。もし万が一、娘たちがターゲットになったらと思って」



それが現実のものになってしまったようだ。



「商品はいつも通りの日常を送ること。ちゃんと学校へ行って、授業を受けろってことよ」



「そんなの無理だよ!」



あたしは目を見開いて講義する。



いつ、誰に攻撃されるかわからないのに授業なんて受けていられない。



学校内には沢山の生徒や先生がいて、敵だらけだ。



そう考えたとき、一瞬だけエリカの顔が浮かんできて胸が痛んだ。



エリカがあたしを攻撃するはずない。



そう思ってみても、不安がよぎる。



「でも、日常以外のことをしようとしたら、警告音が鳴ったわ。あなたの体にはチップが埋め込まれているから、それが反応したのよ」



そんな……。



それじゃ、そのチップを取り出さないことには街から出ることもできないということだ。



あたしはグッタリと座席の背もたれに身をゆだねた。



どこにも逃げられない。



日常生活も続けなきゃいけない。



そんなのってないよ!



「警告音が鳴り始めて5分経過すると、自動的に心臓は停止する。そうも書かれてた」



お母さんの説明に運転席のお父さんが大きく息をのんだ。



「心臓が停止?」



そしてお母さんに聞き返す。



「そうよ。だから商品はただちにその行為をやめることになるの」



「警告音って、普段と違う行動をしたときにだけ鳴るの?」



聞くと、お母さんは左右に首を振った。



「それはわからないわ。もしかしたら、政府にとって不都合なことが起こる場合にすべてなるのかもしれないし」



「それじゃ、あたしは誰かに狙われてなくても、ずっと命の危険があるってこと?」



その質問には2人とも無言だった。



答えられないけれど、肯定されているのだとすぐにわかった。



「……とにかく、今は帰ろう」



お父さんが力なく言ったのだった。

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