第16話

 ダーシーは昨日聞いたフィンリーの話をルイに伝えた。

 思わず、ルイは部屋の中から外に誰もいないのを確認して戻ると、ダーシーを椅子に座らせる。

「つまり、フィンリー殿下が淹れたお茶が原因でエルフィー殿下は亡くなったというのか?」

 ダーシーは瞳を潤ませ首を振る。

「今は証拠が何もないから、どうにも言えないわ。でも、可能性がゼロじゃない」

「ひどい冗談だ」


 唯一の救いはフィンリーが原因は自分かもしれないことに気が付いていない点だ。

 ルイは自分の髪が乱れるのも気にせず、頭を掻く。

「まてまて、だとすれば、犯人の真の狙いは」

 その視線は、姪に止まる。

 今は目が腫れ荒んだ様子だが、普段は人並みに可愛らしいのだ。


「何処で間違ったの?私が悪かったの?」

 飲まなかったお茶。

 毒が入っていたそれをダーシーは手にも取らなかった。


 ルイは首を振り、ダーシーを抱き寄せる。

「ダーシー、私はお前が生きていてくれて嬉しい」

 その言葉に縋るようにルイに身を委ねる。


「これは私たちに喧嘩を売ったのだ」

 ルイは私たち、と言った。

「ダーシーを狙う不届き者は見つけて始末しなければいけない」



「お茶を飲んだのは恐らく、夕刻。出された後、少し話をして退室して、廊下でエルフィー殿下に会ったわ。その時、異常は感じられなかった」

 ダーシーは当時を思い出す。

 顔色、声色、特に変だとは思わなかった。指の震えもなかった。

「けど、夕食前に侍女が呼びに行った際には倒れていたという話よ」


「即効性の分類なのだろうな。消化が始まって吸収されて心臓が止まる」

「お茶の香りは嗅いだけれど、甘い香りしか記憶にないわ。カップの中に茶葉は入ってなかったし」

 茶葉が山盛りだった頃のお茶からしたら、劇的に進化している。

「無味無臭ということか。エルフィー殿下もある程度、毒の耐性があるはずだ。味にも敏感になっている。気が付いていない点からして、厄介だな」


 ルイは広げられた書物や書きなぐられた紙を眺める。

「遅くなったけど何もわからない頃よりはかなり絞られるわ。早く王都に戻って、フィンリー殿下が埋めた茶器を掘り返したいところよ」

「雨や雪で流失してないことを祈るばかりだな」


 内容は急使を出しても構わないものだが、犯人が分からない以上、危険すぎる。

 春を待つしかないようだ。


「それにしても、狙われたのはその時だけ、か?」

「犯人はエルフィー殿下が亡くなって手出しが出来なくなったのかもしれないわ」

 ダーシーが生きている以上、狙われ続けて良いものであるが、その後、目立ったものはない。


「手口も緻密なのか雑なのか」

「本気で私を狙うつもりなら、フィンリー殿下の淹れるお茶に仕込む必要はないわ」

 警備の厳重な王城で殺すなど、危険極まりない。

 他に手薄になることが山ほど思いつくのに、そこでなければならなかった理由が見つからない。


「春、勝負の時ね」

 ダーシーは強い決意をして窓の外を見る。

 雪はまだ降り続いていた。

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