転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 03

 王妃様がわざわざやってくるなんて、なにかあったのだろうか、とわたしたちは慌てるが、なんてことなく、お茶を淹れに来てくれただけだった。

 いや、なんてこないことあるか!

 知識として、王族もお茶を淹れるし、客人にふるまう、というのは知っていたけれど、いざ自分が淹れてもらう立場になると緊張するものだ。


「どのような茶葉がお好きかしら」


 用意されたカートには、いくつものお茶缶が乗っている。どれもこれも、最高級品である。缶を見れば一目で分かるものばかり。流石王族。

 ここはディルミックが答えるのが先かな、と思っていると……。


「すみません、私(わたくし)、茶葉の種類に明るくなくて……。普段、妻が用意してくれるものはどれも好ましいのですが」


 そう言ってディルミックはちらっとわたしを見た。

 思わずむせそうになった。何も飲んでないのに。

 王妃様なんか、「あらあらまあまあ」と、ほほえましいものを見るような、きらきらとした目でこちらを見ている。

 多分……というか、ほぼ確実に、茶葉が分からないディルミックはわたしに助けを求めたんだろう。普段お茶を淹れていて、なおかつマルルセーヌ出身のわたしなら、この場で最適な回答ができると信じて。


 でもその言い方は駄目である。

 マルルセーヌではこれ以上ないくらいの惚気なのだから。自分の好きなものを伴侶が淹れてくれるという、絶対の信頼と自慢に他ならない。


「普段はどのような茶葉をお使いになっているのかしら」


 にこにこと笑みを深める王妃様に、わたしは普段使っている茶葉の名前を答えた。顔が熱い。今わたしの顔はとんでもなく真っ赤なはずだ。


「そのままかしら? ブレンドは?」


「…………そのままです」


「まあ」


 王妃様は少し驚いたような様子を見せると、「うふふ」と笑った。すごく楽しんでいらっしゃる。

 ブレンドもなにもない、そのままのお茶が好きだなんて、恋は盲目も良いところだ。

 ディルミックはまったく気が付いていないだろうが、わたしたちは今、互いが好きで好きでしょうがない、というアピールを王妃様にしてしまったのである。話の流れとして仕方ないこととはいえ、普通にとても恥ずかしい。

 ここで反論するのも変な話だし、何より、まあ、そこまで事実と反しているわけでもないので……。


 折角王妃様に淹れてもらうという、二度と体験できないチャンスな上に、なかなかお目にかかれない王室御用達の最高級茶葉のお茶だったのに、あまり味の分からないまま、わたしは王妃様のお茶を飲み干す羽目となるのだった。

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