転生守銭奴女と卑屈貴族男の○×事情

ゴルゴンゾーラ三国

転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 01


結婚式後~妊娠発覚の間。本編でカットした部分です。


==========


 ガトゴトと馬車に揺られ数日。数日間ずっと馬車に乗りっぱなし、というわけではなかったが、それでも馬車に乗っている時間は随分と長かったので、それなりに腰と尻が痛い。

 それでも、ようやく見えてきた生まれた国の王都を見れば、わくわくと心が踊りだすものだ。


 ――わたし、ロディナと、ディルミックは今、マルルセーヌ王国に足を運んでいた。

 先日、結婚式を終え、生活が落ち着きを取り戻してきたので、新婚旅行として足を運んでいるのである。

 わたしがディルミックに嫁いで行ったときは、婚姻届以外国に届けは出さなかったのだが、今回、ディルミックが直接足を運んでいるので、話は変わってくる。

 まずは王に謁見して挨拶、その後、わたしの出身の村がある領地の領主にも挨拶して、それでからようやくわたしの村へと足を運ぶことができるのだ。

 ディルミックはまぎれもない貴族だし、先日ディルミックと結婚式を上げて正式にグラベイン貴族の仲間入りを果たしたわたしが、王にも領主にも挨拶をせずに直接村に行ってしまうのは非常に問題らしい。それはそうだ。


 王と領主に挨拶に行く際、王都と領都、それぞれの観光も少しだけしていこう、という話になっているので、今回の旅行は大体一か月と少し、という予定である。

 車や新幹線、飛行機がないこの世界では移動時間が随分と長くなってしまうのだが、それにしても豪華な新婚旅行である。


「――あ、ディルミック。できれば、マルルセーヌにいる間は仮面、外したほうがいいと思いますよ」


 わたしはふと思い出して、正面に座るディルミックの、仮面の付いた顔を見る。

 普段、屋敷で付けている、白い仮面ではなく、公務用なのかデザインの凝った模様が入った仮面を付けている。テルセドリッド王子の婚約発表パーティーでもつけていたやつだ。


「王の謁見や領主に挨拶するときには勿論外すつもりだが……」


 ディルミックはつるり、と仮面のふちをなぞった。


「仮面付けてるとすごく目立ちますよ。注目されると思います」


「……僕の素顔よりもか?」


「ディルミックの素顔よりも」


 マルルセーヌでは仮面なんてする人はいない。たとえどれだけ自分の顔に自信がなくても。

 差別意識のないマルルセーヌ人だったら、たとえディルミックの素顔が気になって見てしまっても、すぐに目線を外し、その後は気にしないでスルーしてしまうだろう。というかそもそも見る人自体、五人に一人くらいだろうか。

 でも、仮面を付けていたら、すれ違う人のほとんどが二度見、三度見するはず。注目度は段違いだ。


「グラベインと違って、わたしみたいのが標準ですよ、マルルセーヌは」


 美醜観自体はグラベインと一緒だが。表に出る態度……いや、醜いものへの考え方そのもの自体が違う。


「……そうか」


 ディルミックは少しだけ迷ったのち、仮面を外した。

 夜か朝――つまりは寝室でしかあまりじっくりと見ることのないディルミックの顔があらわになる。真昼間、馬車の中で見たのは初めてだろうか。

 ちょっとぐっと来たけど、それはディルミックの顔面の美しさに対してであって、別に変な性癖に目覚めたとかではない。断じて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る