サブカルギルド 28

 さて、なんだかんだですぐに授業の日がやってきた。

 実を言うと、光里が楽しみにしてなければ俺は忘れていたかもしれないのだが。

「今日の授業、めっちゃ楽しみだね!」

 と、目を輝かせて言われなければ、憂鬱な気分でいたままだっただろう。

「そうだね、どんなことするんだろうなぁ。」

 なんて、他愛ない話をしながら支度をし、教室へ向かう。

 授業中に執筆するらしく、その媒体は何でも良いという話を聞いたので、パソコンを持ってきた。

 ぽつぽつと人が集まってきて、時間になると教師らしき人物が顔を出す。

「はい、では8回目の授業を始めます。」

 その一声で授業は始まった。

 実際に受けてみて、半分くらいは小説を書きながら実感していることばかりだった。そのため飽きる事こそなかったけれど、新しい発見が多かったかと言われると別の話だ。

 隣を見てみると、小声で「そうなんだ」「知らなかった」「そんな考え方も」と、楽しそうに受けている。

 そんな感じで、割とゆったり授業は進み、

「それじゃ、今週の宿題は、『人』を題材に起承転結を書いてくること。」

 言い終えてから、教授は荷物をまとめて出て行ってしまった。

 あっさりしてんなぁ。なんて思いつつも、大学の授業なんてそういうものなんだろうなぁ。とも思う。

 部屋に戻りながら、「人が題材って、人間失格とかかな?」「人間失格は違うでしょ。」なんて会話もしていた。


「・・・どうしよっか。」

 出された宿題のためにノートパソコンを開いて約三十分。少女は一文字も進んでいなかった。

「・・・これは、難問だね。」

 同様に、少年も進んでいなかった。

「こんな宿題を、毎回書いているなんて・・・。ここの人たちすごすぎない?」

 ※本来はこんなに悩む必要は無く、「人が歩いてて、転んでケガして、通りすがりの美人に助けられて、その人と関わっていたら仲良くなった。」とかでいいのである。

「そうだね・・・。こんなのを毎週・・・。恐ろしい。」

※以下略

(とはいえ、だ。なんだかんだ起承転結はしっかり使ってきていたわけだし、短くする理由もないなら、「人らしい人」を主人公において、欠如していてこその人だという話にするべきか・・・?)

 と、彼は考えている。

(今までも中心的に使って来たんだから、なんだかんだでしっかりできるはず!あ!そうだ!感情を擬人化させてみたら面白いんじゃないかな!)

 と、彼女は考えている。

 二人とも三日三晩かけて書いた作品は、ほぼ同時刻に終わり、送られた。


 翌週の授業日、担当教員は眠そうな顔をしながらプリントの束を全員に配った。内容は、二人の作品だった。

 因みに、すぐ後に学長から「ここまで頑張らなくてもいいって言うか、ここまでされると教員が倒れちゃうから、もっと簡単なので大丈夫だよ。」と、言われてしまった。

 考えてみればその通りなのだけれど。



 少し戻って金曜日。

 自分が選んだ写真学の授業日だが、担当教員からいくつかの資料を先んじてもらっていたので、それらを光里と見ながら、次行く場所が、二人きりならもはやデートなのでは?と思っていた。


 現地に行くと、担当教員らしき人と、もう一人、自分たちと同い年くらいに見える少女が立っていた。

「こんにちは、今日から参加させていただく土浦と」

「松山です。」

 合わせてくれて助かった。別に焦る理由なんかは無いけど、なんだかそこの少女がすっごい居ずらそうにしているのだ。

「あぁ、こんにちは。さっそくで悪いのだが、相談があるんだ。」

 そう言いながら自分にだけ手招きしてきたので近寄ると、少女二人に背を向けて、聞こえないように話し始めた。

「実はだな、今回から試験的にグループ活動を予定していたのだが、彼女と同じ班の人が全員来なくなってしまったんだ。」

「・・・それは、嫌がらせで。ですか?」

「私が見ている限り、彼女たちはそういう人じゃないと思うんだ・・・。だがまぁ、私には予想しかできないから。良ければ彼女と一緒に撮ってきてくれないか?」

「それはもちろんです。」

 話を終えて、光里の隣に戻る。

「何話してたの?」

「班員が増えるっていう話を。」

「なるほどね。」

 同じタイミングで教員と少女が話していて、丁度よくこちらにやってきた。

「あ、あの、今日は、お願いします。」

「うん、よろしくね~。」

 こういう時、男は関わらない方がいいのだろう。

 と思ったらこちらを興味深そうに見ている・・・。なんで?

 あとその「なにしたの?」って怖い顔やめて?光里さん?

「うん・・・よろしくぅ。」

 消えそうな声であいさつを終えてから、ひとまず目的の場所まで歩き出す。

 歩いている道中に本来のグループのことを聞くか悩んでいたら、自分から話してくれた。あと自己紹介も終えた。

 名前は雪雲麗華(ゆきぐも・れいか)というらしい。

「もともと、あぶれてた私を招いてくれたのが三人だったんです。

 みんな優しくて、絶対に悪い人じゃないから・・・。今日はなんでなんだろうって、不安で。」

 そこまで聞いて、自分と光里は、一つ思いついてしまった。

(声優科の三人なら、一緒に風邪引いてても可笑しくないのでは?)

 そう思った自分は、アイコンタクトで光里に連絡を頼む。

 そう思った光里は、アイコンタクトで任せてと告げる。

 光里が連絡している間に、自分が話を聞いて引き付ける。

「普段、どんな写真撮ってるか聞いてもいい?」

「あ、私はこういうのを・・・」

 そう言ってカバンから小さなアルバムを取り出した。

「よければ見てください。」

 促されるままアルバムを開くと、色とりどりの花の写真が、各ページに一枚づつ貼られていた。

 写真の回りに文字が書いてあり、びっしり書いてあったり、スカスカだったり。

 内容はどんなものだろうとみている間に、雪雲さんは話し出した。

「どんなお花にも名前がついてて、特徴があるんです。それをまとめてみたいなって始めたんですけど、よく考えたらまとめるだけじゃもったいなくて、それで、人が見られるようにしたいなって考えるようになって、こんな風に写真もつけたら見やすくてわかりやすいかなって感じで、それでそれで・・・。」

 めっちゃしゃべるじゃん・・・。

 とは思うものの、自分も好きなものの話になればそうなるのだろうし、大体そんなものだろう。

「いいね、そういうの。」

 文字は、それぞれの特徴と思われるものが書いてあり、いつの誕生花なのかとか、どんな花言葉をもつのか、ハーブティーにしたらどんな効果があるのか、湯に浮かべたらどうか、などなど・・・。

 本当に多くの情報が乗っていた。それも、私生活に使えるような内容として。である。

「なぁにそれ?」

 連絡を終えたらしい光里が、俺の後ろから覗いてきた。

 ここ外やぞ、普通に背中から乗ってくるなよ、このまま背負うぞ?

 そんな光里を見て、雪雲さんはなぜか不安そうな顔をしたけれど。

「ふむふむ、これ凄いねぇ、本が売ってたら買いたいくらいかも・・・。」

 さすがだな、俺の恋人は。雪雲さんめっちゃうれしそうにしてる。

「うん、俺も欲しいかもな。」

 そう言いながら光里の頭を撫でる。当人は「なにするのさー」とうれしそうにつぶやいている。

「あ、ありがとう、ございます。」

 自分じゃなければ、恋に堕ちそうな笑顔だった。

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