サブカルギルド 25

 暗い夜道を二人で歩くのは初めてじゃない。

 とはいえ夏場の海辺の町で、街灯に照らされながら夜の海風に吹かれるのは、どうにも風流に感じた。

「なんか、夏って感じだね。」

 物語を作る人の語彙力か疑うようなものだけれど、

「いいよね、なんか。」

 自分も大概だった。

 歩いていると、ドラマのセットのような場所を見つけた。

「あそこ、座ってみない?」

 光里の示す場所は、海辺のベンチで、傍に建っている街灯に直接照らされている。

 いつからだったか、無意識に手をつないでいたので、そのまま座る。

「ドラマならお別れのシーンみたいだね。」

 光里はそういうけれど、少し声が揺れているのは、嫌だと思いつつ想像したからだろうか。

「別れのシーンなら、おっもい雲がかかってるか、大雨が降り出しそうだけどね。」

 情景描写を現実に置き換えるのは少し難しいと、知っているけれど気分が変わるのは人間の性なのだと思う。

「それに、今日はよく晴れてる。波紋の海は無く、星と月の海が広がっている。」

 やっぱり、情景描写が気分に反映されるのが現実なのだろう。

「ねぇ、こんな日。こんな月を見て、何を言おうとしているのか、分かるでしょ?」

 問うまでもなく、光里の頬が火照りながら緩んだ。

「今日もㇺ・・・。」

 言葉は途中で、柔らかい感触に閉ざされた。

 唇から伝わる感覚は、脳と各神経を心地よく痺れさせる。

 離れた後も、正直上手く息が吸えない。

「明日も私を、デートに連れて行ってくれる?」

 それが私たちの印(サイン)だ。と言わんばかりに、ドヤ顔をしている。

 なので少し考えてから

「2000年後でも。」

 と答えた。


 あまり長居して夏風邪をひいてもよくないので、ほどほどに楽しんでからビジネスホテルに入った。

 途中、コンビニで色々買ったので、特に問題は無かったのだけれど、普段から交互に風呂に入っているはずなのに、今日はやけにドキドキする。

 普段と変わらないはずなのになんでだ・・・。なんて感情を忘れるためにスマホで必死にゲームをしていると、ホテルに常設されている寝間着(簡単な浴衣のような)を着て出てきた。

 サイズ自体はチェックイン時に選んだものをもらえたので良かったのだけれど、はだけ方がよろしくない。

 短パンで隣にいたこともあったため、足には問題ない・・・。と思っていたのだけれど、剝げば見えてしまうという状態はやはりよろしくない。

 胸元も鋭く肌が見えているため、少し深めの谷が強調されていて目のやり場に困る。

 そんな初心男子な反応をしていたら、光里がどこか勝ち誇ったような顔をしていたので、あぁ、わざとやってたんだなぁ。と察して、できる限り無心を貫きながら風呂に入った。

 まぁ、無心になれるわけなかったけど。


 ひとまず、風呂に入り、心を清めることができた。

 扉を開くとドライヤーをかけていて、後に入れたほうが良かったかな?なんて思ってしまう。

「お待たせ、洗面台使う?」

 一応聞いてみるが、部屋にも鏡があるので、大丈夫。と答えながら髪を乾かしている。

 若干赤い気がするのは気のせいだろうか?

 特に何をするでもなくテレビをつけると、明日の天気についてやっている。明日も晴れるそうだ。

 明日の予定について調べてみようとスマホを手に取ると、髪を乾かし終えたのか、光里が正面に立っていた。

「そういえば私、広くんがドライヤーしてるところ見たことないなぁ。」

 と言いながら俺の手を取る。あ、はい、諦めます。

 連れて行かれるままになると、さっきまで光里が座っていた椅子に座らされて、ドライヤーをかけてもらう事になった。

 正直に言おう。うれしかったし、心地よかったし、めっちゃ眠くなった。

 なのでその後の記憶が若干薄いのだけれど、

 二つあるのに一つしか使われないベッドの記憶があるような気がする。

 目が覚めたら同じ布団に、しっかり着込んだ姿で寝ていたので何もしていないだろう。してないでくれ。


 しっかり着ていたとはいえ、この服装は否が応でもはだけるものなので、光里の下着を直視してしまった。

 なんだか悪いことをしている気分なので、できる限り物音を立てないままベッドから出て、気付かれないように着替え始める。

 はだけているのは光里だけではないのだ。

 着替え終わって、今日はどこに行くか考えていると、光里がもぞもぞしだした。

「おはよ、広くん。」

「おはよ、光里。」

 特に何かを考えることなく返したのだが、光里の頬は高揚している。

「えへへぇ・・・。」

「ちょっと待て光里、昨晩俺に何かしたか⁉」

 弱気に問いかけると、ひみつ~。と返されてしまった。

 わざわざ隠したわけだし、無理やり聞き出すのもどうかと思ったので思考を切り替える。

「それより早く着替えてきなよ。」

 思うところはあるがそれ以上は言わず、着替えを促す。

「まぁ、私とひろくんとの関係なら、問題は無いと思うけど・・・。」

 着替えをもって後ろを通る際にとてつもない事を言われた。

 光里が洗面所の扉を閉めてから、しばらく頭を抱えていたのだけれど、そんなことは光里の知る由ではないのだろう。

「まったく・・・、サキュバスの方が耐えやすいんじゃないか?」

 なんて、いつかのタイトルになりそうなことをつぶやきながら、平時を保つためにネットで炎上してる情報を眺めていた。


「おまたせ」

 と、着替え終わり洗面所から顔を出したので、今日の予定を話す。

「今日はショッピングモールにでも・・・。」

 言い切れずに動揺したのは、彼女の肩に紐が一つづつしかかけられていなかったからだ。

「お、同じ服って、着てもいいのかな?」

 もちろんダメな理由などないのだけれど、あえて言うなら塩が付いていそう位だろう。

「問題は無いけど・・・気になるなら、その場で買うのもありじゃない?」

 考えていた行き先が良かった。行って、服を見て、選ぶまでできるのであればかなり楽しい。

「そっか、私の事、きれいな着せ替え人形にしてね?」

 にまーっと笑っているのだけれど、タイトルっぽい事言えて喜んでいるのだろう。

「俺のセンスに期待しないでくれ。」

 と予防線を張ると、

「君のこと着せ替え人形にするから。」

 まぁ、覚悟はしていた。

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