サブカルギルド 13話

 しばらく二人で遊んでいると、シロと光里が帰ってきた。

「「おかえりー。」」

「ただいまー」

「た、ただいま・・・。」

 シロに関しては「クートのいるところが自分のいるところだから。」といい、そばに戻るだけでただいまというのだ。光里は普通になれてないから。らしい。

 二人とも手ぶら。というか、ほぼ何も持ってきていない状態である。

「買い物は無事終わった?ナンパされなかった?転んだりしなかった?」

 あぁうん、いつものクートだ。

「さすがに大丈夫だよー。まぁ、光里ちゃんはナンパされてたけどね。」

「なに⁉」

 反応してから気付く。あ、揶揄われるパターンだ。

「へぇ~、気になった?気になっちゃった?」

 嬉しそうにニヤニヤと聞いてくるので、

「そりゃ気になる。一緒に作業してくれてる相手がナンパされて男嫌いになったらたまったもんじゃない。」

 あくまで冷静に返答すると、シロはつまらなさそうに唇を尖らせている。

「ひろくんは・・・ひろくんだし。」

 男として見られてないってことかぁ・・・。悲しいなぁ・・・。

「まぁ、頼りないもんなぁ。」

 光里は不思議そうな顔をしている。

「それより、ナンパはほんとなのか?」

「それが残念ながらほんと。もちろん私が追っ払ったけどね。」

「ほう、何て言ったんだ?」

 興味本位だった。

「[俺が彼氏だ。] って言ったらみんな散ってったよ。」

「なるほど、最近の輩もオタク文化を理解してきたんだな・・・。」

 百合の間に挟まろうとする男は殺されるのである。二次元の常識だ。

「残念ながらそういう感じじゃなかったよ。女装デートだって嘘までつかなきゃいけなくなったし。」

「けっ、野郎は野郎か、虹でも追って絶望してればいい。」

 光里は顔を斜めにしている。二人は「始まった始まった」というような顔で見ている。

「てか、そんなことより手首とか腕とか痛めてないか?無理やり引っ張られたりは?」

「だ、大丈夫だよ。触ろうとする手を全部はじいてくれたから・・・。」

「さすがだな。俺からも感謝するよ。ありがとう。」

「いやぁ、それほどのことはしたかなぁ~。」

 調子に乗ってるけれどすぐ収まるからこのままでも問題ない。

「そうそう、ツッチー。」

「ん?」

 耳元まで近寄ってから二人にしか聞こえない声で囁く。

「たくさん愛されてるんだね。」

 正直、意味が分からなくて。

「・・・?お前は随分と信頼されてるよな。」

 そう返すしかできなかった。

 これをそんなに気にしなかったクートが発言した。

「それより、いい時間だからどっかで夕飯食べようぜ。」

「「さんせーい!」」

「いいね!」

 一人だけ反応が違くても気にしないのはここの良いところだ。

「それじゃどこ食べに行く~。」

 こういう時一番初めに動くのがシロだ。

「このあたりだと・・・、寿司にピザ、焼き肉、しゃぶしゃぶ、中華、ハンバーグ・・・何でもありそうだな。先に食べたいもの決めるか。」

 近場の店の情報を出して、選択肢を定めるのが俺。

「それじゃ、決まったら言って行こうか。」

 最後にまとめるのがクート。

 ただし、今はもう一人いる。

「えっと、その、私はあんまりお金ないから・・・。」

「気にしないで!金ならあるから!」

 そう、こいつ(クート)は金持ちなのである。

「わー、クートかっこいいー!」

「いつも助かってるよ・・・。」

「みんないつもこうなの?」

 そりゃまぁ、年の近い相手に全員分奢らせるのは、最初こそかなりいい気分にはなれなかった。

「そうだよ。あー、じゃぁ、あの話してもいい?」

 クートが了承を求めてくる。

「もちろん。」「かましちゃいなよー!」

 こうして始まったクートの昔話は、ほんとに小さな物語である。


「結局、この資産は遠い親戚まで届けないと崩しきれないわよね・・・。」

 物心つく前だったと思う。家の中を散歩している最中に、近くのドアから漏れた声が届いたのだ。

「あるに越したことはないが、これだけあっても困る。いくつかの連絡先を見つけるか、ボランティアにでも送りつけるか?」

 当時、お金のことを多く理解できたわけではないが、それがあって困っていること自体は聞いて分かってしまった。それだけしかわからなかったのだ。

「それじゃ、僕がもらってもいい?困ってるなら、たくさんもらうよ!」

 優しさと正義感、その両方を持っていた当時の俺は、なんてことなく引き取ると言ってしまったのだ。教育費やらなんやらの分は払っていたけれど、本家から離れた家柄ではそんなこと普通は言えない。しかし彼は子供だ、小さな子供が優しさをもって歩み寄ってくれた。本当は敵対しているような間柄のはずなのに。である。

 そんな彼のやさしさ(可愛さ)に心を打たれた本家は余ったすべてを家に置く。という名目で、実際にはクートにすべて譲り渡したのである。


「で、今はそれが多すぎて困ってるってわけ。」

「ち、ちなみに総額って・・・。」

「知らない。普通に生きてれば10人くらい死ぬまで使っても無くならないとしか言われてないから。」

 何度聞いても桁の違う話だと実感する。光里は絶句している。

「改めてわけわかんない話だよなぁ。」

「そんなことないよ。クートが可愛かったって話なんだから。」

「絶対そこじゃないじゃん・・・。」

 この話をするたびにシロは「クートが可愛かった。」と言う。もはや定型文である。

「まぁそういうわけだから、このくらいは気にしないでくれると嬉しい。」

「そっか・・・わかったよ。じゃぁお夕飯はごちそうになります。」

 あきらめた様子で頼る。ここで引いたりしなくてよかった。

「そっか、てことはシロちゃんは・・・すごいなぁ・・・。」

「そ、それには気づかなくていいから!ほら!早く夕飯決めよう!」

 珍しくシロが照れている。俺でもなかなか照れさせられなかったのに・・・。コイバナでもしてたのかな?

「俺は何でもいいよ、皆に合わせる。」とクート

「私は揚げ物がいいなー。」とシロ

「わ、私は・・・何でもいいです。」と光里

「それじゃ、カツの店にでも行くか。」と俺

「「「おー」」」

 やっと行先が決まった。


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