祟 -シュウ-「鬼門参リ」

 ゆらゆらと炎が揺れ、多くの者がそれを前に瞼を閉じて手を合わせていた。

 恋人達は手を繋ぎ、その手にからとなっているもう一方の手を重ねて二身一体となって四つの手を合わせた。

 悲しみも憎しみも視えない黒闇くらやみに火の粉が舞っていた。

 この日、人々の祈りは火のとなり、真っ暗な天へと運ばれる。

 その村では毎年『鬼門キモンマイリ』が行われていた。



鬼門キモンマイリ】


鬼門キモンマイリニマイリマセウ


赤子アカゴレテマイリマセウ


丑寅ウシトラ屠殺コロサバクサ


ハナイタバケル


黒闇クラヤミマドウシコク


人間ニンゲン魔導マド鬼門オニコク


ミッシテハイツ


ヤッ穿ウガイタアナナカ


赤子アカゴアカレル


アカイロサエ理解ワカラヌオニ


新月ツキナシバンエタ


鬼門キモンマイリトアイリヌレバ


ヒトオニトガ同道ドウドウ


鬼門キモンカエコクマイ


ナミダニジコクマイ






〈〈コラム・『鬼門参リ』〉〉

 とある地域に伝わる『鬼門参リ』の内容は以下の通りである。

『鬼門参リ』が行われる時期は中秋後の最初の新月の晩であり、大きく分けて二つの行程がある。参加者は成人に限られるが、既婚者はそれを満たしていなくても構わない。

『鬼門参リ』はその年によって日付が前後するが、時刻は毎年同じであり、行われる日の前日の日中に特定の場所に社を建てることから始まる。この社の大きさは内部が八畳丁度でなくてはならない。

 それから日が変わったのち、まずは『鬼門キモンマイリノ』と呼ばれる行程が執り行われる。なお、『鬼門参リノ儀』は丑の刻になる午前1時頃から始まり、丑の刻を抜ける午前3時頃までにそれを終える。

『鬼門参リノ儀』は、その年の『鬼門参リ』の行われる日から遡って一年以内にを亡くした八人の女がその社にそれぞれ一体ずつ、計八体の人形ひとかたを納める事で始まる。その後、その八人の女の手で板を打って社を封鎖する。その際、社の戸口だけでなく、壁全体も覆う様に釘で板を固定しなくてはならないが、八人の女以外の者は手を出すことが禁じられている。女達はその社のを少なくとも午前2時半過ぎには終えなくてはならず、封鎖後は未婚の男一人が社に火を放つ。

 ここまでが『鬼門参リノ儀』であり、これにより社の内部は一時的に鬼門をひらかれた状態になるとされ、社を完全に封鎖したのは、開いた鬼門を通じて鬼が現世うつしよへ来られない様にしていると伝えられている。

 この『鬼門参リノ儀』によって灯された社を燃やす炎は『鬼哭オニナキ』と呼ばれ、その炎が燃え尽きるか陽が昇るまでの間が次の行程である『鬼門参リノ』となる。

 この『鬼門参リノ祈』が行われている間、参列者はそれぞれの抱える悩み事や忘れたい記憶を鬼門へ封じ込めるべく炎と向き合って祈りを捧げる。また、『鬼門参リ』から一年以内に子供や恋人や家族などの愛する人を亡くした者は、故人の持ち物や故人を想って用意した物品(後者の場合は新しい物でも構わない)を『鬼哭ノ灯』に投入して燃やす事で弔いになるとされている。

『鬼門参リ』と呼ばれているのは『鬼門参リノ儀』と『鬼門参リノ祈』を両方を合わせた行程であり、前者は人間(特に女)の業を糧にして鬼門を開く儀式とされ、後者は開いた鬼門に人間の業を封じ込める儀式とされているが、『鬼門参リ』には不明な点が多く、これからも研究が必要である。

『鬼門参リ』について現時点でわかっている事は以上である。

 最後に『鬼門参リ』について持論を述べておく。

 現代に於ける『鬼門参リ』は鎮魂や祈祷というに近いが、元々はである可能性が高い。別のコラムにて述べたことがあるが、『鬼門参リ』は『丑の刻参り』と酷似しており、同一視しても間違いではないと言える。だが、前述の通り、現代に於ける『鬼門参リ』は鎮魂や祈祷の意味もあるため、呪術である『丑の刻参り』とはやや異なるという事も認めなくてはならない。

 しかし、一説によると『鬼門参リ』は本来ならば赤子の命を人身御供(生け贄)として鬼に捧げる儀式であったという説もある。その場合は呪術なのか祈祷なのかは人によって意見が分かれるが、少なくとも赤子を人身御供にして鎮魂を行うというのはおかしいため、この説が正しいのであれば『鬼門参リ』の持つ真実ほんとうの意味が変わってくるだろう。

 いずれにしても、『鬼門参リ』には女と子供と男が関わったがあるのは間違いない。


『鬼門参リ』研究家・鈴木武

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鬼門参り 貴音真 @ukas-uyK_noemuY

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