【短編】幼なじみという存在を渇望する俺が一度だけタイムリープする権利を貰えたので、幼なじみ作るために過去へ戻ります。

mty

幼なじみという存在を渇望する俺が一度だけタイムリープする権利を貰えたので、幼なじみ作るために過去へ戻ります。

 過去に一度だけ戻れたとしたら何をしたい?

 俺の勝手な推測に過ぎないが、大体は二つのパターンに分かれると思う。


 一つ目は、過去の失敗や後悔していることを無かったことにするために行動する人だ。

 あの時、ああしていれば。あの選択をしていれば。あげればキリがない過去の損失。それがなければ今頃もっといい人生を過ごしていたはずだ。そう思うことだろう。


 そしてもう一つは、これから来るべく未来に備えて、新しく行動する人。

 例えば、未来の情報でズルをしたりして、お金持ちになったりする方法だ。

 大多数の人はお金を手に入れるために行動するのではないだろうか。



 どちらも過去の自分を変えていることに変わりはない。

 俺だったらどちらの選択を取るか、そう考えた時、すぐに答えが出た。


 答えは後者。

 未来に備えた行動をする。

 だけど、大部分の人が望むようにお金を手に入れようとはしない。俺だったらそんなもののために行動したりはしない。


 過去に戻れるなら、俺は────。






 幼なじみを作ってくるッ!!!!!


 ***


「幼なじみっていいよなぁ」

「また言ってら」


 毎日を退屈に生きる、俺こと、中森理人なかもりりひとは友人である木下楽きのしたがくにそんな愚痴をこぼしていた。

 本日これで三回目。四月に入ってから実に四十八回は同じことを言い続けている。


 俺は幼なじみという存在に憧れを持っていた。

 家が隣同士であったり、昔からの付き合いで一緒にいる異性。

 学校を一緒に登校して、腐れ縁だ、なんだと鬱陶しそうに毎日を過ごしながらもお互いを意識して恋仲へと発展していく。

 人生においてこのような羨ましい関係を持っている人間が日本にどれだけいるだろうか。

 目の前にいたら男を方を殴り倒して女の方を拉致してしまうかもしれないくらい羨ましい。


「幼なじみって響きだけで補正が入ると思うんだよ」

「例えば?」

「きっとあの肉美でも幼なじみの、っていう言葉を付け加えるだけで可愛く見えるもんだよ」


 肉美というのはクラスのゴリゴリの筋肉をつけまくっている男以上に男っぽい女子生徒のことだ。

 性格も豪快。女子からは人気。


「普段の勝気なあの性格も幼なじみ相手への照れ隠しだと思えばかわいいもんだと思わないか」

「お前の中の幼なじみは万能調味料か何かか?」


 楽は小さく舐め息を吐いた後、言葉を続ける。


「今更、幼なじみがどうこう言ったってできるわけでもないんだし、少しは現実を見て恋愛でもしたらどうだ? 例えば、ほら」


 楽は教室の前の方で友人達とお淑やかにそして楽しそうに喋るとっておきの美少女を顎で指し示した。


 八雲美玲やくもみれい。学年、いや学校一の美少女と名高い高嶺の花である。その容姿もさることながら、誰対しても優しく、聡明で男性の理想を全て注ぎ込んだような子だ。

 横を通るだけでいい匂いがするし、その包容力のありそうな体つきを嫌いな男子はいない。

 銀髪の美しい髪を持つ彼女はまるで聖女のようだ。

 微笑まれた日には一日幸せな気分で過ごすことができる。

 きっと、男子生徒の八割は彼女のことを好きになったことがあるだろう。


「……?」

「──ッ!」


彼女のことを見ていたら偶然目があって、微笑まれた。それに思わず、照れてしまう。

 確かに俺も。だけどすぐに諦めてしまった。あまりに差がありすぎる。


「そっちの方が非現実的だろ。俺の幼なじみへの想いの方がいくらか現実的だわ。だから今から俺は幼なじみになってくれそうな人探そ」

「それは幼なじみとは言わないのでは?」

「気にするな」




 放課後。


「ちぇ。結局誰も幼なじみになってくれないのか。世知辛い世の中だぜ」


 クラスの女子(特に可愛い子中心)に声をかけたが、どれも断られた。断られた上に変人を見る目で見られた。

 それは今に始まったことではないのでいい。

 ショックなのは肉美にすら断られてしまったことだった。

「タイプじゃないから」だってさ。ふざけんな! 俺だって筋肉モリモリの女なんぞタイプじゃないわ!!


 俺はうな垂れながら自宅までの帰路へとついた。


 帰ってから俺宛に小さな小包が届いていることに気がついた。

 台所で夕飯を作っている恰幅の良い女性──母さんに聞くと「知らない。アンタが頼んだんじゃないの?」と言われた。


 全くもって身に覚えがない代物だったが、一応名前は俺宛。部屋にそのまま持ち帰って机の上に鞄と一緒に置いた。


「差出人は……(株)未来コーポレーション? 聞いたことない名前だな」


 胡散臭い名前だと思った俺は、スマホを取り出し、検索エンジンからその名前を調べた。

 しかし、検索結果は空振り。なにもそれらしい名前は出て来なかった。


「う〜ん?」


 考えていても仕方ないので俺はその怪しい小包を開けることにした。

 何もいきなり爆発するものが入っていることなどあるまい。

 かなり楽観的に物事を考える俺は、すぐさま行動に移った。


 セロハンテープで閉じられた包装紙をビリビリと破いていく。こういうところに性格が現れるとよく言われるが、そんなもの気にしない。そんなモノで正確を判断できたらこの世は、丁寧に開ける人間か、汚く開ける人間の二種類ということになる。

 俺はもちろん、後者。


「うぉ!?」


 俺は中を開いた瞬間それを放り出してしまった。

 なぜなら、そこにはデジタル時計が入っていたから。


 ゴトリと鈍い音が鳴る。俺は慎重にかつ、注意深くその代物を調べた。


「なんだ。普通の時計かよ。てっきり時限式の爆弾かと思った」


 怪しい小包からデジタル時計。そういうのは爆弾だと相場が決まっている。


「こんな小包にデジタル時計入れてくんなよ……。これ送ったやつ絶対性格悪いよな……」


 そしてその箱をよく見てみると説明書のようなものが入っていた。

 時計の説明書なんて何が書いてるのか、わかり切っていたが念のため。怪しいブツであることには変わりないので読んでみることにした。


『おめでとうございます。

 あなたは抽選の結果、当製品のモニタとして選ばれました。

 当製品は、過去の自分にタイムリープすることを一度だけ可能とする時計でございます。

 戻りたい日付と時刻を合わせた後、アラームをセットしご使用ください』


「……」


 かなり胡散臭い。胡散臭い会社に胡散臭い製品。役満だ。

 こんなガラクタで過去に戻るぅ? 絶対にないな。

 色々ツッコミどころしかなかった。


 俺は、バカバカしくなってその時計を放置し、ベッドにダイブした。


「……」


 ベッドに寝転がり、天井を見上げて考える。

 もし、過去に戻れたらどうするだろうか?

 そんなのは決まっている。


 幼なじみを作るに決まっているッ!!!




 好きな時代に戻れるなら間違いなく、幼児に戻る。

 幼児に戻ったら同い年の女の子にめっちゃ優しくする。そして惚れさせてずっと遊ぶ仲にするね。

 そのまま小学生に上がっても一緒に登校して、中学生になっても朝起こしに来る関係に。

 最ッ高じゃないかッ!!!!


「……」


 俺は再びベッドから起き上がり、その時計を手に取った。

 まぁ、効果なんて絶対にないだろうけど、試すだけならタダだ。

 別に何もなくても俺には損はないわけだし? ……爆弾じゃないよな?


 現在の俺の年齢は十七歳。今から十二年ほど前に戻れたらちょうどいいだろう。

 俺は西暦と日付をちょうど十二年前の今日に設定した。


「結局これでどうすればいいんだ?」


 設定したが何も起こらない。

 期待していたわけじゃないが肩透かしを喰らった気分だ。


「やっぱり、胡散臭い」


 俺は時計を机の上に置いてベッドに寝転がった。


「つまんね〜な〜」


 そう呟いていつの間にか俺は眠りへと落ちて行った。


 ***


「り〜く〜ん、起きる時間よ〜?」

「ん? ん〜?」

「ほら、もうこんな時間。お昼ごはん準備したから起きて食べよっか」

「ん〜?」


 目の前には美人なお姉さんがいた。

 誰ぞ、このイケてる姉ちゃんは。俺の見立てでは二十五歳くらいだろう。幼なじみっていうのもいいが、二十代半ばのお姉さんっていうのもまたいいモノだ。しかし、なぜお姉さんが俺の名前を呼んでいる?

 というか、どこかでこのお姉さん見たことあるような……。

 目の前にはたゆんたゆんの大きなお胸があった。


「ほら、りーくん。寝ぼけてないでママと一緒に顔洗いに行こうか」

「うん、ママァ」


 はっ!?

 しまった。俺はどこぞの知らぬお姉さんにバブみを感じてしまい、抱きついてママと言ってしまった。

 俺としたことが、なんて罪深いことを!!


 ん、あれ? 俺、声高くなかった? それになんで俺持ち上げられてるの?


「おっはよ〜!!! 理人ぉ〜〜!!!」

「わぁ!?」


 変な声が出た。お姉さんが俺を持ち上げたと思ったら頬を擦り寄せてきたからだ。

 う、浮いてる。俺は足元を見た。足は地面についておらず、お姉さんに両脇を抱えられている状態だ。


 あれの体が縮んで……?

 こ、これは……。


 戻ってるんじゃねええええかあああああああああああああああ!!!


 ◆


 どうもみなさんおはようございます。

 中森理人、五歳。年中さんでございます。


 今私は、中森明子こと母上にお着替えをさせていただいております。

 先ほどバブみを感じた年上お姉さんは、自分の母だったということであります。

 なんて罪深い。十七歳がバブみを感じただけでも相当なモノだというのに、俺は実の母に軽く欲情してしまったのです。死にたい。


 一体全体何があれば、これだけ美人なお姉さんだった母があんなでっぷりしたおばさんになるというのだろうか。

 時の流れというのは全くもって恐ろしいものである。


 できればいつまでもこんな美人なママでいて欲しいものだ。

 あ、もしかしてずっとこのままでいてって言い続けたら、努力し続けてくれるのでは?


「ん? どうしたの、りーくん?」


 試してみる価値はあるのかもしれない。


「ねぇ、ママ?」

「──っ!!」


 効いてる効いてる。

 俺はできるだけ目をうるわせて相手の目をしっかり見つめ、少し切なそうな声を出してみせた。


「ママはいつまでも今みたいに美人さんでいてね?」


 コテンと首を傾げてフィニッシュだ!!


「!!! この子ったらっ、もう! 大好き〜〜〜〜〜!!!」

「ぐぇぇ」


 めっちゃ抱きしめられた。あまりの圧力に圧迫死しかけた。乳厚が凄かった。くそっ!! 俺はまた母にッ!!!


「く、苦しいよ、ママ。お外に遊びに行ってくる!!」

「ぁ……」


 俺はマ……こほん。母さんから無理やり離れると玄関に向かって駆け出した。

 名残惜しそうな母さんの声が耳に残った。




 さて。現在の時刻は、昼の十三時を過ぎた頃。

 俺が起きるのがあまりに遅かったので、朝食ではなく昼食になってしまった。


 ここは田舎なのでさほど物騒なことはなく、五歳時でも近くの公園程度になら遊びに行くことができる。


 俺はせっかく過去に戻ってきたので、当初考えていたことを実行しようと画策した。


 幼なじみを作る、ということだ。


 過去に戻る前に言っていたなら、正気の沙汰ではなかったかもしれない。いや、言ってたんだけども。

 しかし、俺は本気だ。今それが実現可能な状況にあるのだ。


 今日ここで幼なじみになるであろう逸材を探し出し、任務を遂行する。それが俺が過去へ戻ってきた一番の目的であり悲願だ。

 まぁ、本当に戻れるとは思ってなかったけど。


「ということで早速行きますか!!」


 俺は公園をぐるりと見渡す。そこには多くの小さな子どもたちがやいやいと遊んでいるのが見えた。

 男の子と女の子が入り混じっており、追いかけっこをしているようだ。

 大変よろしい。

 俺はここから将来の幼なじみ候補を吟味した。


「あの子も悪くない。あの子もいいな。ふむ、なるほど。あの子もありか」


 女の子を中心に見ながらぶつぶつと腕を組む五歳児はさぞ、不審に見えたことだろう。「あれ、中森さん家の子じゃ……」なんてのも井戸端会議をしている母親たちからもひそひそと聞こえてきた。

 すまん、母さん。ママ友との関係、ちょっとややこしくなるかもしれん。


「ん?」


 とここで、みんなの和から外れて一人ポツンと砂遊びをしている銀髪の女の子を見つけた。遠くからでもわかる綺麗な髪だった。

 なんでみんなと遊ばないのか。それが疑問だった俺はその子に近づきを声をかけた。


「みんなと遊ばないのか?」

「ふぇ?」


 振り返ったの少女を見て、ドキリと心臓が跳ねた。どこかで見た覚えのある綺麗な銀髪の少女は、小さき日の八雲美玲だった。昔の八雲美玲も相変わらず美少女感たっぷりでまるでお人形さんだ。幼いながら将来、美人になることが約束されていそうな神の造形。

 しかし、その目には大粒の涙が溜まっていた。


「だ、だってみんな仲間に入れてくれなくて……。この髪気持ち悪いって……うぇぇぇん……」


 泣き出してしまった。

 あの超絶美少女の八雲美玲が昔は仲間外れにされていた? 冗談だろう? 八雲美玲は誰からも好かれる完璧な美少女のはず。

 しかし、目の前の事実がそれを否定した。


 確かに今時、髪色は多彩になったとはいえ、銀髪というのはかなり珍しい方だ。その髪色が圧倒的な美少女感に相乗効果を生み出していたので高校では何も思わなかったが……。昔は違ったんだな。


「つまり一人ぼっちと」

「ふぇぇぇん、そうだよぉ」


 相変わらずエンエンと泣く。

 完璧美少女の八雲の意外な一面を知った。


「ひっぐ、ひぐ……」

「……」


 さぁ、どうしたものか。とりあえず、目の前の銀髪の美幼女を慰めることにしよう。いつまでも目の前で泣いているのは見てられん。

 早くどうにかして、将来の幼なじみ候補を探さなくてはならないのだ。


「じゃあ、俺が一緒に遊んでやろう」

「……いいのぉ?」

「ぐぉ」


 なんだこの可愛い生き物は!?

 涙を溜めて上目遣いをする銀髪の美幼女!! この子持って帰りたい!!!


「あ、遊んであげよう。何して遊ぶ?」

「じゃあ、ここでお城作ろ」

「お城だな。いいぞ。どんなお城作るんだ?」


 まぁ、女の子だから日本のお城とかではないんだろうけど。メルヘンなデ○ズニーとかに出てくるお城かな。

 どっちにしろ難易度高いな。


「アルカサル城作ろ?」

「あ、ある……さる?」


 新種のサルか? お城の名前?


「どうしたのぉ?」

「お、おお。作ろうか」


 それから俺は、八雲と一緒に自己紹介を交えつつ、立派なお城を作り始めた。

 そしてお城作りに没頭すること数時間。気がつけば、日も暮れ始めていた。


「「できたぁ」」


 本来の目的も忘れて、美幼女と一緒によくわからないお城を作るのが思っていた以上に楽しかったのだ。

 すっかり、壮大なお城が砂場を占領していた。


 ちなみに、アルカサル城というのはスペインにある有名なお城らしい。なんでこの美幼女はそんな城知ってんの、って思ったけど、八雲美玲なので納得した。小さい頃から超絶人間であることに違いはなかった。


「やったねぇ!!」


 目をキラキラさせて完成したお城を見つめる銀髪の美幼女は間違いなく絵になる。写真に収めたい。


 しかし、我ながらいい出来だ。ほぼ、美玲の指示で作っていたが。十七歳の大の男が時間も忘れてお城作りに没頭してしまった。


「はっ!?」


 しまったああああああああ。

 周りを見渡せば、小さい子どもたちはもう帰っていた。今公園に残っているのは、俺と美玲の二人だけだった。


 俺の目的がぁ!! 幼なじみ作りがぁ!!!


「うぅぅ……」

「どうしたのぉ?」

「ぅぅ。俺の幼なじみ計画がぁ……」

「おさななじみ? ってなぁに?」


 アルカサル城は知ってるのでなぜ、それを知らない。


「まぁ、あれだ。昔からずっと一緒に遊んでる子だな。そのまま一緒に大きくなって、将来を誓う的な?」

「将来を誓うの?」

「俺の知る幼なじみはそうだ」


 うん、俺の知ってる物語に出ている幼なじみカップルは基本子どもころに将来誓ってるから。うん、間違ってない。


「えへへ。じゃあ私がおさななじみになってあげる」

「ほ?」

「私が理人のおさななじみなってあげるよ! そしたらこれからも一緒に遊べるでしょ??」


 なんだこいつ。


「かわええ」

「ほぇ?」


 可愛すぎる!! なんだ!? なんだか知っている人を幼なじみするのはなんだか、罪悪感に駆られていて避けようと思っていた。しかし、もうそんなこと言ってらんない。周りに人はいないし、何より可愛いわ、この子。


 決定した。はい、決定。あなた、俺の幼なじみね。

 あの八雲美玲が幼なじみ。


「ぐへへ」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない!! じゃあ、今日から俺たちは幼なじみだ!! 明日からもずっと一緒だ!!」

「うん!!」


 この瞬間、俺に幼なじみという存在ができた。

 俺はついにやったのだ。幼なじみを作ることに成功したのだ!!


 ほれみろ、楽!! 幼なじみ作る方がよっぽど現実的じゃねぇか!!


「あ、お母さんが迎えにきた」

「お? じゃあ、ここでお別れだな! 明日もまた遊ぶか?」

「うん!! またね、理人!!」


 そう言って、俺たちは公園でお別れした。



 家に戻ってきてからまた美人ママの元で童心に返り、夜を迎えた。

 美人ママの横で一緒に布団に入った時だった。


「あれ……? これどうやって戻るんだ?」

「どうしたの、りーくん?」

「なんでもないよ、ママ。これからもずっと美人でいてね」


 まさか、このまま大人になるまで……?

 ちょっと嫌な想像が働いたが、子ども体のせいかすぐに眠たくなって目を閉じてしまった。



 ***



 ジリリリリリリリリ、とけたたましく目覚まし時計のアラームがなる。


「んあ!?」


 ガシャンと何かが壊れた音がした。それと同時に音も鳴り止んだ。


「ん……?」


 寝ぼけ眼を擦りながら体を起こす。

 やけに喉が渇いているように感じる。

 カーテンからは朝陽が溢れて俺の顔を明るく照らしていた。


「もう朝か。俺は一体……あっ」


 そういえば過去に戻っていた夢を見ていた気がする。

 夢の中で俺は幼い八雲と楽しく遊んでいた。


 はっはっは。俺も末期だな。

 いくら幼なじみが欲しいからと言って学校一の美少女と小さい頃に一緒に遊ぶ夢を見るなんて。


「……」


 昨日は、晩ごはんも食べずにずっと朝まで眠ってしまったらしい。



 りーくーん? 朝ご飯できてるよー。


 下の階から母さんの声が聞こえた。

 そろそろ降りて、シャワーを浴びてからご飯を食べて学校へ向かおう。


 そう思い、俺は一階に降りた。


「おはよう、母さん」

「あら、りーくん。おはよう。よく寝たね?」

「ああ、寝過ぎた……っ!?」


 振り返った母さんは、でっぷりとした体つきではなく、今でも二十代と言われれば通じそうなスレンダーな体型をしていた。

 しかも顔もかなり若々しい。若かった美人ママがそのまま大人の魅力を引き出したかのような、いい歳の取り方をしていた。所謂、美魔女ってやつだ。

 というか、前と別人すぎない?


「どうしたの、りーくん?」

「あ、えっと。母さん?」

「あ、もう。ママって呼んでくれないの?」


 うわなんだ、この母親。母親のくせに卑怯だぞ! 笑顔が美人すぎるッ!!

 なんでこんなことに……? って、まさか……?


「え!? ウソだろ!? 本当に戻ってたのか!?」

「朝から何大きな声出してるの、りーくん。早くシャワー浴びておいで」

「なんてこったい」




 それからシャワーを浴びて俺は母親が作った朝食を食べていた。


 どうやら俺は本当に過去へ戻っていたらしい。あれは夢じゃなかったのか……。

 俺があの時、美人だったママに、ずっとこのままでいてね、って言ったからか? その後がどうなったか知らないが、もしかして言い続けていたのか、俺は。


 母親の人生をとんでもなく、変えてしまった気がする。

 ……まぁ、美人ママになったしいいか。結果オーライ。


 そして、朝食の目玉焼きを食べているとチャイムが鳴った。


「はーい」


 母さんが訪問者を訪ねに行った。

 こんな朝早くから、誰だ?


「りーくん。美玲ちゃん来てるよー?」

「お邪魔します、お義母さん」

「もう、お義母さんだなんてもう!」

「ど、どうしてここに……?」

「おはよう、りーくん。お寝坊さんだね。幼なじみなんだから一緒にいるのは当然でしょ?」

「Oh……」


 できてしまった。本当に幼なじみを作ってしまった。

 めっちゃ、人生変えてるやん。今更だけど、大丈夫かこれ?


「ほら、早く一緒に登校してきな」

「はい……」


 自分でやったくせになんか受け入れがたい現実に直面している。


「母さん、俺の弁当箱は?」

「何言ってるの! いつも美玲ちゃんに作ってもらってるでしょ? ね、美玲ちゃん」

「うん。りーくんの今日も作ってきてるよ!!」

「Oh……」


 そういうわけで俺と美玲は幼なじみとして登校することになった。



「えへへ、りーくん! 腕組んでもいい?」

「お、おお……」


 なんだこれ。なんだこれえええええええええええ!!!!

 パイが当たってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!

 なんだこれ、なんだこれ。柔らかいし、いい匂いするし、ヤバイ。

 もはやこれは幼なじみという域を超えているのでは?

 もう、恋人じゃん……。


「な、なあ。み、美玲」

「なぁに? りーくん」

「俺たちの関係って……?」

「ん、幼なじみだよ? それがどうかしたの?」

「そ、そうだよな! はは、なんでもない」


 幼なじみらしい。ここまでして恋人じゃないのか……。

 これが幼なじみ。憧れていたあの幼なじみとのスクールライフ。


「ぐへへ」


 そのまま俺は慣れない腕組みしながら登校している。それによって校生徒の視線を浴びていた。

 正直言ってもいい?

 気持ちいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!

 嫉妬の視線が気持ちいよ。最高だわ。


 隣には幼なじみで学校一の美少女、美玲。

 最ッ高だ!!


「えへへ、りーくん」


 やばー。本当に幸せすぎて死ぬかも。この子めっちゃいい子だし、ヤバイわ。語彙力もヤバイわ。


 そんな感じで登校した俺は登校してからも休み時間もずっと一緒だった。

 そしてお昼休みを迎える前の最後の十分。もうすぐお昼休みだ。

 美玲と二人で食べるんだろうな。楽しみだ。


「あっ……」


 そんなことを考えているとコロリと隣の席の女子の消しゴムが机から落ちてこちらに転がってきた。

 俺はそれを拾って、隣の女子へと手渡した。


「あ、ありがとう……」

「どういたしまして」


 なんか、妙な反応だったな。なんでだ? ああ、昨日幼なじみになってくれって騒ぎまくってたからか?


 んん?


 その後、チャイムが鳴り、お昼休みを迎えた。


「りーくん! お昼一緒に行こ!!」

「おお! 行こう!」


 そういえば、楽のやつ、一日話しかけてきてないな。どうしたんだろうか?


「屋上行こっか!」

「屋上!!」


 あの屋上ってあの屋上か!? リア充しか立ち入ることの許されない屋上!?

 楽のやつが話しかけてこないのは気になったが、それより目の前の幼なじみライフに釣られ、すぐに忘れてしまった。



 屋上の塔奥にもたれかかり、日陰でお弁当を広げ、食べる。

 全て美玲の手作り。そのどれもが一級品で最高に美味しい。


「どう美味しい?」

「最高」

「やった!!」


 美玲はガッツポーズした。

 かわええのぉ。あの完璧超絶美少女の八雲美玲が幼なじみ。まじで最高だ。

 お弁当も美味しい、優しいし。かわいいし、スタイルいいし! こんなにいいことはない!! 幼なじみ作ってよかったぁー!!


「ねぇ、そういえば」

「どうかしたのか?」

「お昼前、話していた雌豚は誰?」

「め、雌豚?」


 不穏な単語が聞こえた。表情は笑っているようで目が笑っていない気がした。


「ううん、なんでもないよ。なんでりーくんは、私という幼なじみがいるのに、他の子と話してるのって思って!」

「あ、ああ。悪い悪い」


 素敵な笑顔に戻った。

 なんだ、気のせいか。きっとおかずの「酢豚おいしい?」って聞いたんだな。よかった。酢豚入ってなかったけど。


「次、別の女の子と喋ったら、その舌引っこ抜いて抜いて、そのアマ吊し上げてあげるから覚悟しててねっ!!」

「ん?」

「ん??」

「え?」

「えへへ。りーくん、大好き」


 またもや幻聴が。そして俺にいい香りと柔らかい感触。

 やっぱり幼なじみって最高だね!!


 ただ……本当に過去を変えてよかったのかなぁ。

 一抹の不安が残った。


 「えへへ」


 幼なじみサイコー! ……なんだよな?



                ──了。



 ─────────


 後書き


 短編第三段でございました。

 ここまでお読みいただきありがとうございました。

 一万字くらい行っちゃった。


 今度はタイムリープもの。ただし、一回限りという制約ありのもの。

 割と気に入っているので長編化も可能な題材ですが実は、公募用のものを短編にまとめたものです。

 まだ書いてませんけど。


 過去に戻って何かを変えたけど、結局それがいい未来につながるかどうかなんてわからないんですよね。

 主人公は目的を達成しましたが、その後のことまでは考えておりませんでした。

 過去を変えて、学校一の美少女を幼なじみにしましたが、彼女が実は……ヤンデレだったというオチ。

 果たして、そんな幼なじみができて幸せだったのか。そこはご想像にお任せします。


 後、タイムパラドックス的な要素は全て無視しておりますので悪しからず。



 感想があればぜひ、お願いします!


 また、少しでも作品に興味を持っていただけた方は、評価や作者のフォローをして頂ければ幸いです。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編】幼なじみという存在を渇望する俺が一度だけタイムリープする権利を貰えたので、幼なじみ作るために過去へ戻ります。 mty @light1534

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ