第2話 洗礼

呪われた土地イベニア。誰が呼んだのか自然豊かな平和な村はいつしか呪われた土地としてその土地に暮らす人々を蝕んでいた。

人間は異端を好まない。人と同じであろうとする。しかし、70億人以上も人間がいれば個性も70億以上あるのだ。故に超能力や恩恵を授かったような人間がいても何らおかしい事ではない。

現に世の中にはそのような力に目覚めた人間は9割は犯罪者に残りの1割はそれを阻止するヒーローになると一般常識と知られている。

そんな中なぜイベニアの人達は呪われているだの悪魔だと言われるのか。それはイベニアで生まれた人はもれなく何かしら身体能力に異常性能が備わっているからだった。


メア、ミカ、ノノ、ルエ。この四人は数少ないイベニア出身の人間であり、例に漏れず常人以上の身体能力を身につけていた。

ルエは耳が異常に良く、音から対象の距離など細かな情報まで聞き取ることが出来たり、ノノは記憶力が凄まじいので一度見た物は何であろうと忘れない。ミカは目が良すぎる為に意識して遠くを見たり、動体視力を駆使するとスローモーションの様に世の中を捉えたりすることが出来る。

そしてメアだが…。彼女は恐ろしく勘が鋭かった。それは最早予知に近い程に。


イベニア出身の人間は世間では忌み嫌われているが、その実、世界中の組織が喉から手が出る程欲しい存在だったりする。

ただでさえ超能力を手にした人材は引き込みにくいのにイベニア出身であれば必ず超能力を持っているのだから当然だ。

その為四人の出身はシュルツの中でもアベルやオーガストを含む数人しか知らず、その本部ですら認知していない機密事項である。


世の中から嫌われたはずのイベニア人。

彼女らの歯車が噛み合わさったことで何が起こるのだろうか。それはまだ誰にも分からない。



「おー、大丈夫かー?災難だったみたいだなぁ」

「ただいまぁ〜。もう身体中が痛いよぉ」


メア達4人が基地へと帰ると先に無事任務を片付けて帰ってきていたマヤ達に迎えられる。

メアは意識は戻ったが満身創痍には変わりなく、ミカに肩を貸してもらっていた。


「ほんと大丈夫?なんでも超強い人にボコボコにされたって聞いたけど」

「うーん、それほんとは所長だったのよ」

「所長!?なんでボスが私達に攻撃するの!?」


ユキはミカの口から告げられた情報が信じられないといった顔をしている。


「なんでも、新人に対しての通過儀礼みたいなものなんだってね…」


ノノはメアが非常に心配のようで、メアの額の汗をタオルで拭いながら話す。


「……次はそっちかもしれない。うちはメアとミカの二人がかりでこれだから。……気合い入れないとやばい…かも?」

「脅すのはやめろよなぁ?俺もお前もスナイパーなら近接戦に参加出来ない苦しみ分かるだろ」


マヤは同じスナイパー仲間のルエの脅しに苦言を呈す。


「ほら、お前たちー。もう夕飯の時間だぞ!さっさと食堂に向かえー」


たまたま通りかかった先輩の隊員がたむろしているメア達に声を掛けて、ボチボチと食堂へと足を進めるのだった。



ミカはメアと同室である為、メアを部屋まで送る役を買ってでてくれたので、二人は先に部屋にもどって来ていた。


「ごめんミカ。ご飯食べる前に送って貰っちゃって」

「良いのよそんな事。ほら、体拭いたげるから服脱ぎなさい?」

「はーい」


メアはホコリで汚れた軍服を脱ぐとパンツ一枚でベッドに腰掛ける。ミカはお湯で濡らしたタオルで優しく労る様に体を拭いてあげる。


「ほんと、筋肉は付いてるとは言え細い身体なのにねぇあんた」

「もー、くすぐったいよぉ」


メアは努力で身につけた常人以上のパワーとスピードを発揮できるが、その身体はムキムキとは言いがたく、体つきは女の子そのものだ。

そんな体を見つめるミカは少し悲しそうな表情を見せる。


「なんか、ミカ…落ち込んでる?」


背中を向けているにも関わらず、メアは持ち前の鋭い感覚で感じ取ったのか、ミカの気持ちを言い当てた。


「相変わらずよく分かるわね」

「私じゃなくても分かるよー?ミカってよく見ると結構分かりやすいもん」

「もう、なにそれ」


ミカは笑うとメアを軽く擽って反撃する。

メアが笑って悶えているとミカは後ろからメアをギュッと抱きしめた。


「あんた、今日はごめんね?あたし、ほとんど役に立たなかったでしょ」


ミカの心に引っかかってた言葉。メアの身体能力が高い事も理由なのだが、メアに対しての罪悪感を感じていたのだった。


「ミカ!もー何言ってるの?」

「ちょっ、めあ?」


メアは振り返ってミカと向き合うと、両手でミカの頬をむにっと挟み込んだ。


「わたしはミカがいなかったらもっと早くやられてたよ?ミカの銃技は完璧だしあのおじさんも警戒してくれてたからわたしも隙を突いたり出来てたんだもん。それに、わたしの攻撃ひとつも効いてなかったもん。だから」


メアは一度言葉を飲み込むと、涙が浮かぶ目を隠すように笑ってみせる。


「わたしが怪我したのはわたしが弱いからだし…、お礼を言わなくちゃいけないのはわたしの方なんだよ?」

「もう…ほんとにあんたって子は…不器用なんだから…」


ミカも笑いながらメアをもう一度抱きしめる。

世の中の怖さや強さを身をもって味わった二人はこれで初めてスタートラインに立てたのだった。



翌朝、まだ日が顔を出した程度の早朝に目が覚めたメアはランニングの為に外に出ていた。

少し行った所に湖のある大きな公園があり、そこに行って体を動かすのが彼女の日課だった。


「ん〜〜いい朝だなぁ〜」


朝のひんやりとした空気はとても心地が良い。なので朝の公園にはチラホラと人が集まっているのが見える。


「ん?」


そんな中でも、12~13歳くらいの少女がベンチに座って何かをしているのが見えた。

こんな朝早くに女の子が1人で何をやっているのか気になったメアは興味本位で近寄っていく。


「ねぇねぇ、何してるのー?」

「きゃあ!」


女の子はビックリして肩をビクッと震わせる。そしてビクビクと震わせながら緑色の水晶のような目をメアに向ける。


「お、おお。お姉さん…だ…れ?」

「わたしはメア!そこのシュルツの新人ヒーローなんだ〜。こんな朝早くに何してるの?」

「え…いや…その…」


女の子は言葉に詰まりながら手元に抱えたドローンに目線を落とす。


「ドローンじゃん!凄いかっこいいね!どこに売ってるのー?こんなの見たことないや」

「売ってない……ったから」

「え?」


少女はメアを見ると、小さな声だが少し嬉しそうに答えた。


「わたしが…作ったの」

「ええええ!?嘘でしょ!?ほんとに!?」

「う、うん」

「凄い凄い!天才だよ〜!わぁ〜凄いな〜、凄い子と知り合っちゃった〜」

「お、お姉さん少し落ち着いてっ」

「あ、ごめんごめん、わたし舞い上がっちゃった」


メアは横の自販機でジュースを2本買うと1本を少女に差し出し、自分も隣に腰を下ろした。


「これ、いいの?」

「うん!こないだ初めてお給金出たんだ〜。だからお近付きの印にね♪」

「ありがとう…お姉さん」


少女はこくこくと喉を鳴らすと美味しそうにジュース飲む。

メアは改めて少女が持っていたドローンを見ると、本当に出来が良くて驚いていた。どう見ても既製品以上のクオリティがあり、年齢に反してとてつもない天才であることが見て取れた。


「ねぇ、あなた名前はなんて言うの?」

「わ、わたし!?」


少女は少し言葉に詰まるが、覚悟を決めたのか口を開いた。


「サラって言うの。サラ・グランギルド…」

「え、グランギルドってあの?」


少女はやはり名前を…というより苗字を明かしたのを後悔しているのか、苦虫を噛み潰したような渋い表情をしている。


「へ〜すごいねぇ!そりゃあサラも天才な訳だ〜」

「え?」


メアが脳天気な返事をしたからかサラは目を丸くしてメアを見つめる。


「わ、わたし何か不味い事言っちゃった?」

「い、いや…お姉さん、わたしの事怖いと思わないの?」

「なんで?」

「え、だって。グランギルドって兵器産業の最王手なんだよ?その…『ひとごろし』の会社なんだよ?」


サラの目には希望と絶望が織り交ざった複雑な光が灯っている。

サラの父親が経営するグランギルドは所謂兵器産業で財を成した大企業だ。数年前までは優良企業という印象が強かったのだが、ライバル相手のライオット社が積極的に兵器をヴィランに流していた事が発覚し、なし崩し的に同じ兵器産業であるグランギルド側も反感を買ってしまったのだ。

本当は積極的にヴィランと対立していた優良企業だったのだが…。

それもあってサラは日頃から人殺しの娘としてバッシングを受けていた様で、外で遊ぶにしても早朝のような人がいないタイミングじゃないとおちおち外も歩けない様だ。


「んーそうだなぁ。じゃあわたしも一つ秘密を教えてあげる!」

「秘密?」

「うん!誰にも言っちゃいけないことだからサラも黙っといてね?」

「う…うん」

「わたしね、イベニア出身なんだ」

「イベニアって呪われた土地の?」

「そ、わたしもそんな土地の出身だから分かるんだ。根も葉もない噂で罵倒される気持ち」


サラはメアが自分を信頼して大事な秘密を告白してくれた事が嬉しくてたまらなかった。


「お姉さん……。あり、あ…ありがとう!」

「えへへ、サラも勇気出して話してくれてありがとね!」


メアはギュッと泣きそうなサラを抱き寄せると頭を撫でる。


「お、お姉さん…苦しいよ」

「あっごめん急に…。あはは、わたし人に抱きついちゃう癖があって…」

「ううん、大丈夫…だよ?それに、少し温かかったから」


嬉しそうにはにかみ、綺麗なブロンズの髪を朝の涼しい風になびかせるサラをメアは愛おしそうに目を細めて見つめる。


「ねぇサラ。良かったら友達になろうよ!」

「うん!!」


胸の前で両手をギュッと握りしめるサラは今日一の笑顔を見せるのだった。



「お嬢、あの御仁はお知り合いですか?」


メアと別れた後、サラは近くで身を潜めて護衛していたスーツを着た男性にメアの事を尋ねられていた。


「うん、その…はじめての…友達っ」


友達という言葉に思わず破顔してしまうサラを見て護衛の男も口元が緩む。


「良かったですねお嬢…!今日は御馳走にしましょうか!」

「もう、アーロンってば大袈裟。…あ、あのさあのさ」


サラは目をキラキラして従者の男アーロンに尋ねる。


「シュルツってどんなところなの?」

「お嬢シュルツに興味が?」

「シュルツ自体に興味はあんまりだけど…。メアお姉ちゃんが居るところってどんなところなのかなって」

「うちの者にシュルツに所属してるのがいるので後で呼んでおきますね!」

「あ、アーロンも一緒に居てね?」

「勿論ですよお嬢。自分はグランギルドには属してますけど、お嬢の為に所属してる様なものなので」

「えへへ、ありがと、アーロン」


サラはいつもより軽い足取りでアーロンと公園を後にするのだった。



アベルはいつも通り集まったメア達四人に何をさせるか考えていた。


「お前達、特にメアとミカだが…今何が一番必要だと思った?」

「えっと、技能のレベルあっ…」

「対人訓練っ!!」


ミカの提案を遮るようにメアが元気よく答える。


「わたしあのおじさんに手も足も出なかったし、もっと強くならないと」

「おじさんじゃなくて所長な…?まぁ自分の足りない所が分かってるなら上等だ」


「そこで、基礎訓練も終えたお前達は晴れて通常のシュルツ隊員と同じ訓練を受けれるようになる」

「今までとは何が違うの?」

「私達今までは同じ訓練をみんなでやってきたけど、シュルツ本隊じゃ自分それぞれの長所をより伸ばす訓練を個別に受けれるんだよ」

「その通りだ。故に教わるのは何も俺だけじゃない。他の教官だったり先輩ヒーローだったりだ」

「…でも私達まだコネも何も無いんだけど?」

「その点は俺がお前たちに必要な事が得意な奴らに声掛けといたから。今から伝える場所に各自行ってこい」

「「「「はい!」」」」



「メアちゃんはどこに行かされるの?」


ノノが隣を歩くメアが渡されたメモの中を覗き見る。ちなみにミカとルエは射撃場に呼び出されたようでここには居ない。


「えっとぬぇ…ラミーナさん!ノノ聞いた事ある?」

「うーんとねぇ、割と今波に乗ってる実力派のヒーローって感じかなぁ。うちの支部でもトップクラスに強くて、本部含めたランキングでも上位に位置してるはずだよ?」

「えぇ!?そんなに凄い人なの!?うーん、怖い人じゃなかったらいいなぁ」

「上官も流石にメアちゃんの性格わかりきってるから、そんなに相性悪い人だとは思わないけど…。」

「ノノは誰なのー?」

「私はミランダさんっていう資料室の司書さんだよ」

「司書さん?戦闘系じゃないんだねー」

「私そもそもメアちゃんやミカちゃんみたいに戦える武器があるわけじゃないから…。その司書さんも前線からは離れてるけど昔は凄い人だったみたいだから。何か掴めるかもっ」

「そっか!一緒に頑張ろうね!!」

「メアちゃんもまた無理して体壊さないようにね?何かあったら後で私に言うんだよ?」

「分かってる〜!」


お互いの分かれ道に到着するとメアは笑顔で手を振りながらラミーナの元へと走って行ってしまった。


「もう…メアちゃんってば元気だなぁ。…よしっ!私も負けないように頑張らないと!」


少女四人の本格的なヒーローとしての訓練が始まった。



シュルツでは後輩の育成の為に下級隊員1人に対して1人の上級隊員が付きっきりで面倒見ることによって戦闘能力を引き上げるという制度を導入している。

そしてその下級隊員との結び付きは基本的に上級隊員が選ぶことになっているので、運が悪いと誰にもついて貰えないという事も有り得る。そういう場合は上官が引き続き教師として訓練を続けるのだが…。

何にせよメア達4人はアベルの人脈もあって少し目を引く存在であり、こないだの所長の洗礼を受けたメアとミカには結構なオファーがあった。

どうやら所長自ら「あの二人は中々見どころがあるぞ〜」と言い回っていたらしい。

その中からアベルが本人達との相性を考えた上で選んだというわけだ。


そしてメアの義姉になるラミーナはなんと言うか、メアによく似てとても明るい人だった。

メアが指定された待ち合わせ場所に着くとそこはシュルツの敷地内にある広場の噴水の目の前だった。時間も時間なので人の姿はまばらでラミーナらしき人影は見えなかった。


(あれ…?時間通り来たはずなんだけどなぁ)


メアは渡されたメモをもう一度開いて場所が間違っていないか確認しようとしたその時だった。

突如メアに向かって石ころが飛来してきたのだった。持ち前の察知力で弾かれたように左に避けるとぽすっと何かに包まれるように捕まった。


「あー…分かってたのにぃ」

「えへへ、君が察知して避ける事も折り込み済みなのだ〜♪」


メアはしてやられたと言った表情で自分を抱きしめている人物を見上げる。

その人物こそシュルツのイタリア第3支部主力ヒーローのラミーナである。ラミーナは151cmのメアより頭ひとつ分くらい大きく、メアのオレンジとは対照的に白髪に空色のアンダーカラーの煌めく髪を太い一本の三つ編みに編み込んでいる。瞳は髪の色と同じく白色に輝き、拳銃などの最低限の武装はしているが、一般兵士に比べると圧倒的に軽装である。


「あーもうほんと可愛いね〜、メアちゃんだっけ?私の事はミー先輩とでも呼んでね!」

「むぅ…」

「どうしたのー?ほっぺたなんて膨らましちゃってー。可愛い顔がさらに可愛くなってるよ?」


ラミーナは完全に自分のペースにメアを巻き込んでおり、メアも少し甘えているのかぷくっと頬をふくらませて構われている。


「だってーギュッとされるの分かってたのに避けれなかったんだもん」

「だから言ったでしょー?メアちゃんが分かってても捕まえられるって」


ラミーナはメアを解放すると一歩後ろに下がって拳を握って構える。


「お近づきの印に一回手合わせしてみようよ!君もその方が私の事分かるでしょ?」

「本気で行きますからねー?」

「もちろん!そうじゃないと面白くないし」


メアも構えると、早速ラミーナに仕掛ける。

メアの攻撃スタイルの強みは圧倒的な勘の良さによる先読みができる事だ。故に所長の様にそもそもパワーで圧倒され、攻撃を無力化されない限りは相手の攻撃の隙を突く事が出来る。

今回も右ストレートをラミーナが右に避けて左手で攻撃を仕掛けてくるのが分かっていた。


「分かるなら防げるもん!」


メアはラミーナからの攻撃を的確にガードして反撃を混ぜていくが、ラミーナには一向に攻撃が当たらなかった。

スピードの圧倒的な差。ラミーナの姿は常人なら残像に映るのではないかと言うくらい素早く、先読みしていなければ到底防げるものでは無かった。


(あっ、これやばいっ)


「やるねぇメアちゃん!やっぱ私が見込んだだけの事はあるよ!」


人の数歩先を感じ取れるメアは自身の敗北を一瞬で悟る。

右手のパンチを避けると同時に左足の蹴りが飛んできて、為す術もなく叩きのめされる。


「ぐぅーー…。やっぱ強いなぁ」

「いやいや、メアちゃんも十分強いって。そんなメアちゃんにはご褒美に私のとっておきを見せてあげるね!」

「…へ?」


よろよろと立ち上がったメアは次にくる攻撃を察知すると目を見開いて、慌てて両手でガードを固める。


「しっかりガードしときなね!ちょっと痛いからっ!」


引き絞ったラミーナの拳から淡い光が漏れだし、その輝きを増しながら亜音速の拳が繰り出される。

ドゴンッと言う鈍さを通り越した音と共に衝撃波が空気を伝わって周囲の木々や噴水の水を揺らした。


「いっつぅー」

「よく受け止めたね〜偉い偉いっ!」


メアが涙を目に浮かべながら耐えきったのを見てラミーナはメアを抱き寄せると、よしよしと頭を撫でながら体力の回復を促進させる丸薬を飲ませる。最近になって発明された新薬である程度の怪我ならこれを服用するだけでたちまち治ってしまうという優れものだ。しかしそれ故に値段もべらぼうに高く、エリートであるラミーナレベルにならないと中々手に入らない代物だった。


「はっきの、どうやったの?」


メアはまだ少し頭をくらくらとさせながら呂律の回らない舌でラミーナに尋ねる。


「私の特殊能力その1!聞いたことあるかもしれないけど、私は自分の体で亜音速まで出せるんだ〜」

「はえ〜」


ラミーナの特殊技能の一つであるこの亜音速パンチは彼女の特異な体質が由来であり、関節を徐々に連動させることによって加速度を高めているらしい。詳しい事も本人には分かっておらず、感覚派のラミーナ故に全て勘でそれらを行っている。

ある意味メアと似た性格なのだ。


その事をいきなり告げられたメアはぽかんと口を開けている。


「あはは、可愛いねぇほんとにもう。ほらチョコレートあげる〜」

「むぐっ!あ、ありあと…」

「所長から君の生い立ちはある程度聞いててね、イベニア出身である事も」

「やっぱり知ってたんですね…」

「うん、でも大丈夫、私は大切な妹分の事を危険に晒したりなんてしないからっ」

「妹…?」

「そうっ、私達シュルツでは専属パートナー契約をシュベスターって言ってね?姉や兄にあたる人は下の子を育て守るっていう習わしなんだよ?」

「それでわたしが妹…?」

「そうっ!メアちゃんさえ良ければ私とシュベスター契約、結んで欲しいな!」


メアは少し歳の上のラミーナなにグイグイと圧されて珍しく顔をほんのりと赤く染めていた。それに、ラミーナには今のメアが持っていない素晴らしい技術を沢山持っているのは先の手合わせで身をもって実感していた。となればメアとしても答えは一つしかなく…。


「わたしで良いならこちらこそよろしくお願いします」


ぺこりと礼儀良く頭を下げるメアにラミーナは思わず感極まってしまう。


「やった〜!ありがとう〜!敬語なんて良いから本当の姉妹みたいに仲良くなろうね!私兄弟居ないから妹って憧れだったんだよぉ」

「えへへ、ミー先輩」


メアも照れくさそうにはにかみながらラミーナの名前を呼ぶのだった。



「あー疲れたわー。大丈夫?ルエ、生きてる?」

「………限界。眠い」

「まぁ仕方ないわね…後で起こしてあげるから少し寝てなさい?」

「……ありがと」


一足先に寮のラウンジに戻ってきていたミカとルエの元にメアとノノが帰ってきた。


「お疲れ様~、ルエちゃん寝ちゃったの?」

「うん、相当疲れてた見たいでね」


ミカに膝枕されながら小動物の様に丸くなってすぅすぅと寝息をたてるルエ。

案の定ヘトヘトになっているメア達に座るように促した。


「あんた達はどうだったの?やっぱキツかった?」

「もうやばかったぁ、ミー先輩強すぎるんだもん」

「ラミーナさんだっけ?あの人相当強いらしいわね。あたしの所のエルさんもミーナには手を焼かされるって嘆いてたわ」

「確かラミーナさんとエルさんって同じチームだったよね」

「らしいわね、ノノの司書さんといい、ルエのところと言いあたし達人選の運が良かったわね」

「感謝感謝だよ〜」



メア達四人のシュベスター契約を結んだラミーナ、エルマ、サラーサ、そして司書のナターシャのうちナターシャ以外がアベルと共に所長室に呼ばれていた。


「お前達―、シュベスターはどうだったかー?」


所長のオーガストが尋ねるとラミーナはいつものようにテンション高めに話し始め、エルマとサラーサがラミーナを慌てて押さえつける。

ちなみにシュベスターは極力同性で組まれることになっているのでメア達の姉分は皆女性だ。


「いや〜もうほんと可愛かったっ!」

「お前は…メアに何もしてないだろうな?」

「なになに〜?アベルは大事な娘が私に取られて心配なのかな〜?お父さんか!」

「あんたは少しお黙んなさいな!」

「にしてもイベニアの子達ってのは本当に凄いですねー。ルエちゃんの能力も相当なものでしたし」

「それは思いましたわ。私はミカさんしか見てませんけど、あの子まだ何か秘めてる気がするんですよね」

「秘めてる…とは?我々に何か隠してるということか?」

「そこまでは分かりませんけど、本人も知らない潜在的な何か…かも知れません。あくまで感覚的に感じただけですので」

「アベルから見てあの子達はどう思う?」

「俺も一年あの子たちを見てきましたけど、まだ殻にヒビも入っていない状態って感じですね。基本的には他の子と同じですがイベニア出身故に育てかた次第ではかなりの驚異になりかねない可能性もあります」


アベルは客観的な見解を述べる。つまるところ、メア達の待遇が比較的良いのはその懸念点を確実に潰しておくこと、そして何かあった時のための護衛、そして抑止力の為にラミーナ達を付けているのだ。

とは言ってもラミーナ達がその事を知らされるずっと前からメア達にオファーを出していたのは確かなのだが。


「まぁ、現状はこれで良しとしよう。お前たちも気を引き締めて育成に当たってくれ」

「「「はい!」」」


オーガストはにっと笑うと本題に入ると言った様にアベルに顔を向ける。


「それで、アベル。昨日久々に会敵したウロボロスについてわかったことを教えて貰えるか?」

「はい」


アベルは今日一日、昨日の戦闘で捕まえたウロボロスの下っ端や武器などを調べあげていた。


「正直に申し上げますと、シュルツとウロボロスの間に凄まじい技術格差が生まれています」


それは能力を持っていない一般兵士にとっては生死を分ける重要な問題であった。

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