02 国際交流における留意点



 霞ヶ関にて。

「で、どうでしょう?」

 公平は改めて冬杜に尋ねる。

「さて……さて、どうしたものか」

 珍しくなにかを言いづらそうにする冬杜。

「やはり……なにか問題が?」

 公平はアビーとのやりとりを報告書にまとめ冬杜に提出していた。

「そういうわけでもないんだが……」

 報告書に目線を落とし、なにやら顔を渋くする冬杜。

「……他国の異世界公務員と協業する、というのはやはり……まずかったでしょうか?」

 異世界の中で、普通に日本語でコミュニケーションをとっていた、ということであまり意識はできなかったけれど……霞ヶ関に戻った公平が我に返って冷静に考えてみたところ、アビーは他国の官僚だ。現場の判断だけで協業体制をとっていると、後々面倒くさい問題に発展しそうな気がする。アビーが言うには問題ないそうだけれど、今回の件にあたって正式に上司、冬杜から、問題ないとお墨付きをもらっておきたかったのだ。

「……なんだ、わかってるんじゃないか」

 冬杜はどこか拍子抜けしたような顔。

「やめておいたほうがいいですか? それとも……別部署のゴーサイン待ちとかに……?」

「…………そうだな、こうして報告書があれば、まあ表向きは問題ない。だが……」

 ふう、と大きく息をつく。その後、大きくのびをして、公平の目を見据える。

「我々は日本国の官僚だ。よって最優先されるのは日本の国益である、と、それはわかるな」

 一段低いトーンに、公平の身が引き締まる。上司がこういう原則的なことを口にする場合、たいてい、いいことは待っていない。

「……はい」

「だが同時に、異世界公務員同士は国際協調が基本姿勢だ。そして異世界でのもめ事を、地球に持ち込まない、これは異世界公務員の不文律となっている……要するに、だ」

 冬杜はそこで少し力を抜いて、肩をすくめた。

「異世界で争った異世界公務員の落とし前をつけるために、地球の国家間で帳尻を合わせた、ということは、我々異世界公務員が絶対に避けなければならない事態だ」

「…………つまり……」

 公平は腕を組み、難しい顔になってしまう。

「先方に粗相のないように……?」

 だがひねり出せた言葉はそれだけで、なんとも自分が情けなくなる。だが一ヶ月前までは単なる地方公務員だった公平に、国際関係に留意して行動しろ、と言っても無理な要求だろう。冬杜もそう思ったのか、少し笑って肩の力を抜いた。

「ま、言ってしまえば、な。貸し借りを作らないように、とも言える。それに吉沢の件でもわかっただろう……異世界はやはり異世界なんだ。地球でおとなしかった転生者だって、なにをしてくるかわかったものじゃない。それを念頭に入れて、な」

「はい、了解です」

 公平は吉沢の顔を思い出し、少しため息をついた。冬杜はそんな彼を、昔を懐かしむような目つきで見ていた。


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