第一部 いじめ対応の問題点

第一章 事実認定の困難

 いじめによる自殺などの事案が発生すると、学校が会見を開く。

 そこで校長か誰かが、記者たちに向けて厳かに宣言する。「いじめはありませんでした。ありませんでした」(イエモン風に)。

 その後、メディアやネットで批判が巻き起こり、どこからともなく生徒に対するアンケートの存在が明るみに出て隠蔽が発覚。結局いじめの存在を認め、謝罪に追い込まれる。

 こうしたことを、もう三十年以上も繰り返している訳だ。

 確かに、学校側の隠蔽は問題だ。

 しかし、実際のところ、学校側の立場に立って考えてみると、こうした場合どうすりゃいいのか、誰も具体的な対処方法を教えてくれない。

 生徒が自殺するレベルのいじめに遭遇するなど、教員にとっても一生に一度あるかないかの機会だろうし、これで上手く対応しろという方が無理がある。


 何でもそうだが、まず、いじめに対処するには、いじめの実態を把握することが第一歩となるはずである。

 ところが、教員や学校には何の権限も技術もない。

 警察が被疑者を拘束して、厳しい取り調べを行えるのは、法による身分と権限が与えられているからで、学校に出来るのは、せいぜいアンケートくらいなのだ。


 教員が加害生徒から話を聞き出そうとしても、『遊びでした』『プロレスごっこでした』とでも言われれば、それで終わりだ。生徒を前にしながら、教員の頭の中には声が響く。『証拠は何もない』『生徒を疑うのか』。かくして調査は終了となり、いじめの事実はうやむやとなる。下手をすれば被害生徒の方に罪をなすりつけて終わり。

 大体、教員が加害者を問い質して簡単に認めるくらいなら、最初からいじめなんてやらないだろうし、そもそも、いじめとプロレスごっこの境界線はどこにあるのか、四の字固めはオーケーで、パイルドライバーはアウトなのか、基準も明確ではない。


 まずは、いじめの実態を正確に把握する方策を考える必要がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る