不幸という名の理想へ

一色 サラ

不幸の扉

 道を歩いていくと、すれ違う人たちが、誰もが幸せに見えてくる。その度、不安がよぎる。自分に何もないことが、浮き彫りにされたようで、生きている価値さえ、見えてこない。

 俯きように道を歩いていく。銀行でお金をおろして、コンビニによって、すぐに家に帰りたい。残高を見ると、また親から30万の仕送りのお金が入金されている。  頭によぎる「面倒くさいよね」の言葉。そんな言葉が、頭から離れない。そんな気持ちでいると、誰とも話したくなって、いつも1人の世界に浸ってしまう。

 仕事をすぐに辞めてしまい、何をするのも憂鬱になっていく。「やめます」と何も迷うこともなく、言葉が走っていく。そうやって、仕事が続かない。感情的で、何事も嫌になったら、我慢をすることもできず、すぐに吐いてしまう。わかってくれないと自暴自棄になって、どうやって生きていくのかさえ、考えることもない。計画性のない行動が、不幸の扉を開いて、だれも止めてくれるわけもない。物欲のない自分の心が、お金を使わない引きこもり生活へと導いていく。

 親から、一緒に住めないと、アパートを用意されて、お金だけ口座に振り込まれるようになった。

 引きこもった生活に、幸せなど、存在しない。自分が不幸でないことを正当化するように、SNSで、芸能人の悪口をつぶやく。ただの憂さ晴らしのように、誹謗中傷の言葉が水のように溢れ出てきて、止まらない。他人の悪口で、支配されて、自分を正当化して生きていく生活に終わりなど見つからない。

『いつ消えるんですか』『生きている価値なんてないんじゃない』

テレビで、面白くないタレントの悪口を書いていることが快感になっていく。

そんな時、SNSで、気分の悪いアカウントの顔が出てきた。大島祐樹という人間だ。前に、仕事で一緒だった人物だ。アカウント名は『勇気をあげる』と訳の分からない名前だったが、写真はあいつだった。忘れていた記憶が蘇ってくる。仕事で大島が上司に伝え忘れていたのに、責任を負わされたことがあった。大島は、何でも人に責任を負わせて、まるで何も悪くないという態度をとって、周りをだましていく。それがとてもうまい人物だった。

 会社を辞めたきっかけも、大島だった。あいつのミスだったのに、全責任を負わされて、辞めさせられた。

そんな気持ちがこみ上げてきて、どうにかこの気持ちをぶちまけたい。どうしたら、この気持ちが収まるのだろう。相手に直接は関わりたくない。それに反応を待ってしまう。それはダメだ。もう少し、間接的にしたい。だったら、動画サイトに、大島祐樹の悪口を吐けばいいやと思い始めた。大島の悪口を言って、動画に撮影するたびに、気持ちが楽になっていく。それを毎日のように、アップするようになった。それでも、気持ちが収まらない。大島の自宅を調べたり、会社のことを調べたりして、場所の写真などアップすることとで、なんだか気持ちが落ち着いていくようになった。


ある日、アパートのインターフォンが鳴った。出ると警察と名乗る人物だった。大島祐樹への名誉棄損で、逮捕された。

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