第24話 vsリカ②
5ターン目。
カンイチの手札は六枚とかなり潤沢だ。
お互いにほとんどダメージを受けてはおらず、決着まではまだまだ遠い。
しかし、カンイチはリカからの揺さぶりを受け、焦っていた。
「でも、これで合っているはず……」
揺らぐ自分を説得するように独り言が漏れる。
カンイチは前のターンに自分が見出した攻略法に従い、カードをセットすることなく、準備フェイズを終了した。
『オープン』
『デュエル!』
「あなたがそういう作戦で来るのなら、私にも考えがございます」
リカがこのターンにセットしていたカードの数は、なんと五枚。限界までカードをセットしていた。
手を出せないカンイチの目の前で、リカは悠々と鎌を振り回し、大量の道具を生成していく。
ここで、カンイチは自分の失策を知った。
前のターン、これからの自分の行動をベラベラとしゃべってしまったことが間違いだったのだ。そうでなくとも、何ターンか経過すれば、リカはこちらの戦略を見抜いただろう。彼女はベテランのプレイヤーだ。同じ攻略法で挑んだ相手もたくさん居たことだろう。
「終了フェイズ! このターン私が使用したカード全て、道具となって場に残ります」
行動がバレてしまえば、それは即ち隙となる。
動くことが分かればガードできるし、動かなければ安全に道具カードを展開できる。
その読み合い、“選択”を相手に迫るデッキだったのだ。
覆水盆に返らず。結果は変えられない。
ほくそ笑むリカに対し、カンイチは冷や汗を垂らしていた。
6ターン目。
ここから取り返すしかない。
カンイチは3枚のカードをセット。
攻撃してこないと油断しているリカに、キツい連撃をたたき込む。
決意を込めたカードセット。
しかし……。
『オープン』
『デュエル!』
今度は、5ターン目とうって変わって、リカの場にはセットカードは一枚も存在しなかった。リカの手札はまだまだある。カードを使えなかったわけではない。つまり、リカは意図してカードを使わなかった。
「それはもう拝見いたしました。十回、いえ、何十回も」
リカは、焦ったカンイチが反撃に出ることも予想済みだった。
カードのセットを撤回することはできない。万全の態勢で待ち構えるリカに向かって、カンイチは突っ込んでいくしかない。
二人が交錯する瞬間、キン、と甲高い音が鳴る。と、同時にリカはカンイチの耳元で囁いた。
「……負けるのは、怖いでしょう?」
脇腹を狙った攻撃は鎌でガードをされてしまう。その後も、カンイチの攻撃は全て最小限のダメージに抑えられてしまった。
そして、また、あの宣言の時間がやってくる。
「終了フェイズ! 踊りましょう! 場の道具カードたち!」
大量にセットされた道具カードの効果が次々と誘発し、カンイチの手札は削られ、さらにリカの手札の補充までされてしまう。
手札補充も合わせて少しダメージを与えたとはいえ、手札量の差は歴然。しかも、リカには次の矢がある。このまま手札が0になってしまえば、デッキに直接ダメージを受けるしかなくなってしまう。
7ターン目。
もはや、カンイチに取れる選択肢二つに一つ。
この先そう遠くない内に本当に詰んでしまうことを承知で“待つ”か、寿命を縮めてしまうことを承知で“殴る”か。そのどちらかしかない。
『オープン』
『デュエル!』
カンイチの選択は……。
……リカのセットしたカードは0枚。カンイチは……三枚。
「……そうなさる他に道はございませんよね」
カンイチは打って出ることを選び、そして、リカはそれすらも対応して見せた。
先のターンの焼き直し。わずかにダメージは通るものの、リカを打ち倒すには至らない。
ついにカンイチの手札は尽きた。
「終了フェイズ。誘発でございます。お選びください。……もう選択肢は一つしかございませんが」
【落日】の誘発効果によって、カンイチのデッキが削られていく。ライフだけは常にリードしていたはずが、その差さえもほとんどなくなってしまった。
もはや、カンイチに勝ち目は残されていなかった。
満身創痍の状態で、8ターン目がやってくる。
『オープン』
『デュエル!』
「終わらせてさしあげましょう」
これまで自分から動くことがなかったリカが、地面を蹴った。
それを目視したのと、背中から曲線の刃が生えたのはほとんど同時だった。
カンイチがセットしていたカードは0枚。そしてリカは一枚。
「この≪影無≫は、ワイルドカードを除いて、このデッキ唯一の攻撃技でございます。威力は絶大。ただし、使用に少しばかり条件がございます」
「かはッ!!!」
押し寄せる異物感にたまらず膝をつき、リカは背中に刺した円い刃を器用に引き抜いた。
「条件は“相手がカードを一枚もセットしていないこと”でございます」
リカの言葉が耳に届く。
決闘はリカの勝利で決着した。
カンイチは地面に膝立ちになったままで、決闘領域が解除される。
「これであなたもおわかりになったでしょう」
決闘開始前に二人が向かい合っていたホーム前の路地裏。
薄暗い路地の奥手から、リカはカンイチを見下ろしている。
「……勝てないことを理解してなお戦うことの苦しみを」
リカは目の前の建物、自身のホームへと歩いていく。
その後を追いかけることはできなかった。
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