双子の聖剣を拾ったけど、ヒーローには興味ありません!

七菜 奈々那

第一話 妹

 五月某日の日曜日。


「……午前だけ、って話だったんだけどなぁ」


 僕は天を仰ぎながらそう、呟いた。

 空は暗くなっており、飛行機の明かりらしき赤い点と欠けた月が見える。


 街の街灯を頼りに、重い足取りで帰路へとついていた僕は、何で貴重な日曜日を使ってサービス出勤をしてしまったのかと頭を抱えていた。

 教師と言う職業柄、休日の出勤もあり得る話ではあるがそれはあくまでも何かしらの用事がある場合の話である。

 例えば行事ごとの準備のお願いをされたり、溜まった残務の処理であったり、部活動の顧問などで生徒に付き添わなくてはならない状況であったり等々……。


 しかしながら僕は基本的には出勤しない人間であった。


 部活の顧問を受け持ってはいるが土日は活動していないし、溜まってしまった残務も家でのんびりしながら片付ける。

 給料が出ないのによくするもんだと思うが、職業柄割り切っている人も多いのだろう。僕は絶対嫌だけど。しかし、本日そんな僕が出勤したのには理由があった。


『あの、お願いしたいことがあるのですが……』

『大丈夫です!』

『え!(*´ω`*)

 明日のことでお話がありまして。。。

 予定が入っちゃって。。。本当に突然で申し訳ないんですけど、部活の生徒の見守りをお願いしたいんです。。。』

『任せてください! 丁度暇してるんで、大丈夫です!!』

『本当ですか! ありがとうございます! 部活は9時~12時までの予定です。この時間、お手数おかけしますがよろしくお願いいたします。また今度、何かご馳走しますので』


 つい昨日の夜のこと、僕が少し気になっている同僚の女性……夢乃ゆめの さきさんから連絡があったのだ。

 改めて昨日のやり取りを確認した時、自分のアピールする気満々な態度の気持ち悪さに若干引いたけど、少しでもイイ人アピールできればと思い、了承した。のだが……。


「まさかこんな時間までやるとはね……」


 時刻は午後10時、運動部だとは聞いていたが、最近の子供たちの情熱って本当にすごいと感心させられることになるとは思いもしなかったのである。

 何でも来週にライバル校と練習試合があるので練習時間を延ばしたいのだとか。

 そう情熱的に言われてしまえば断り切れない。青春を邪魔する権利など僕には無いのだ。

 僕は生徒たちの要望に従い、この時間まで練習を見守っていた。まぁ、勿論残務をしつつ、だけれどそれだって限度があるだろう。


 疲れた。生徒のように運動はしていないが想像以上に疲れた。


 そんな疲れを解消するかのように、スマホを確認。

 メッセージアプリに映る【夢乃ゆめの さき】という名前を見ながらつい表情を緩ませた。

 特に、ご馳走しますというメッセージには少し期待もしていた。

 26歳、彼女歴イコール年齢の男にはこんな言葉で惑わされる生き物なのである。仕方ない。


 歩みを進めながら携帯をポケットに仕舞おうとして、ふと何か言い争っているような声が聞こえて立ち止まった。


 声の先は大きな建物と建物の間の薄暗い路地で、起こっているようだった。

 目を凝らすと、そこには何度もすれ違ったことがある隣町の高校の学生服を着た男たちが三人、何かを取り囲むようにしてたむろしている。

 いかにも不良、とでも言うような金色に染まっている髪、しかもそのうちの一人が異様に筋肉質で、鍛えているのが薄暗いながらにも目視で判明できる。


「カツアゲ……か?」


 幸いながら不良たちは相手に集中しているからか、僕の存在に気付いていないらしい。

 スマホの通話画面を開き、『警察110』を入力しつつ、音を立てずに近寄りながら様子を伺う。


「可愛いね~、俺たちと遊ぼうよ」

「な? いいだろ? 楽しいよ」

「ついでに気持ちよくさせちゃうかもね~」


 なんて、如何にも下品な誘い言葉の常用句のようなレパートリー。ナンパに誘っているのだと判断した。

 彼らの隙間から見えた白を基調とした制服のような服装の……て、あれ、うちの学校の制服じゃねえか!!

 しかも中等部の制服!! 何と、中学生の女生徒が絡まれているらしい。


「おい、お前ら!! こんな時間に何してるんだ!!」


 何かあってからでは遅い。そう判断しながらも焦っていた僕は思わず声を荒げながら彼らに言ってしまった。

 僕の声に、存在に気付いた不良たちは驚いた様子でこちらに目を向ける。

 だが、その驚きも少し、ひょろっとした僕を見て、喧嘩に持ち込めば勝てると踏んだのかは分からないが口元がにやけた。異様な緊張感に襲われる。


「お、大人しく帰った方がいい。まだ警察には通報していない。けど、このダイアルボタンを押したら分かるよな?」


 物語の主人公のように喧嘩が強くないのは自分でもわかっている。

 だから僕は自分よりも強い味方である『警察』に繋がる番号が表示されたスマホの画面を彼らに見せながら言った。


「お、おい、まずいよ……」

「変な奴に絡まれちまった、行こうぜ……」


 国家権力警察を示した僕に恐れおののいたのか、彼らの内の二人は逃げるよう言う。


「いや、今通報しても警察が来るまでには時間がかかるだろ? なら、大人しくそこから立ち去るように言えばいいんじゃねえか? あとは場所を移動しお持ち帰りすれば問題ねえ」


 しかし、筋肉質な一人は動じる様子が無いようだった。あ、あれ? おかしいな。


「確かに! 流石兄貴!」

「さっさとそいつ黙らせて、かわいこちゃんをお持ち帰りでもしますか」


 リーダー格の彼の言葉に納得したのか二人も逃げる考えをやめたようだ。

 指を鳴らしながらじりじりと近づいてくる。このままじゃ骨の1、2本は折れるかも知れない。


 ―――そう考えた時だった。


「あれ? お兄ちゃんじゃん」


 と、聞き覚えのある声を聞いたのは。


「え―――」


 不良たちの間から見えた、女生徒……。

 トレードマークのツインテールに、僕とは正反対の整った顔立ち……。

 それは我が妹、御剣みつるぎ 蓮華れんかの声だった。何と、絡まれているのは妹だったらしい。


「な、何でこんなところに……!」


 そうなれば話は変わった。


「お、おい、お前たち、逃げた方がいい! 早く!!」


 妹の姿を確認した僕は不良たちに逃げるよう警告する。

 だが、彼らは僕の言葉なんて聞きやしない、焦る僕に近づいて、胸倉をつかみ壁に押し付けた。


「がぁ……!!」

「何言ってんだかおっさん。おい、スマホを取り上げろ!!」

「おい、僕は26歳だ……!!」


 少しばかりの反論も空しく、リーダー格の指示に従い、不良の内の一人が僕の手からスマホを奪取しようと近づいてきたようだ。

 しかし、僕の元へと来ることは無かった。


「ねぇ、お兄ちゃんに何してるの?」


 僕の元に来たのは不良では無く、妹だった。

 いつの間にか僕の横に居た妹に、リーダー格の男は困惑。その直後妹が僕の胸倉をつかむ手首を握った。


「え、あ、いたたたたた、な、なんだ、この力!?」


 手首を覆いきれていない女の子の小さな手指にも関わらず、掴まれた不良はそのように叫んでいた。

 離れようともがいているようであるが、妹はびくともしていない様子である。

 不良は仲間らしき名前を叫んだが、仲間が助けに来ることは無かった。何故なら、既に気絶しているのか後ろで白目を剥いたまま地面に倒れていたからだ。


「え、な、なんだ! た、助けてくれ!!」


 何が起こったのか理解出来ていない彼は俺と視線が一瞬あった。それは本当に一瞬で、突如としてその姿は消えた。

 パンパンと手を叩いて汚れを落としている妹は一息入れると僕に近づいて優しくハグしてきた。

 僕はその場に尻をつきながら彼女の抱擁を優しく受け止める。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「あ、あぁ。大丈夫だ。それより蓮華……、アイツは何処行ったんだ?」

「え? 飛ばしたよ? 空に」


 と何事も無かったかのように笑顔で言う妹。

 僕は空に目を向けるが空は先ほど見た風景と変わっている様子は無かった。


「大丈夫、殺してないよ! でも、連絡を入れといた方がいいかな~」


 そう言って、妹は僕から離れると何処かに連絡するするためにスマホを取り出し、耳に当てた。

 僕は白目で倒れている不良二人の様子を伺うが、完全に伸びているようだ。ズボンは何だか湿っているようである。


「だから逃げろと言ったのに……」


 そういう僕は腰が抜けたのか、その場で立つことが出来なかった。


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筆が遅いため不定期更新です。

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