第11話 第3章 再会 1.難破船

大気圏突入まであと3分。当船進入コースに中型トルネード。反重力場で凌げるのでコースを維持します。」

「どの道コースを変えたところで、トルネードだらけだ。変わりはしないだろ?」

実際“希望”の大気圏は大小様々なトルネードがひしめき合っている暴風雨地獄の様相を呈していた。ヒコノが言ったようにこの荒れ狂った地に降り立とうとするならば、大型トルネードのど真ん中に突っ込む勇気が必要だった。

「この星は余所者を拒んでいるとしか思えないよ。来るんじゃない!って怒鳴り散らしているようだ。」

「SOSを出し続けて報われず、そして絶望し、泣き散らしているようにも見えるわ。でも諦めず僅かな希望で遺言送信はまだ続いているのよ。」

「でも相変わらずこっちからの送信には何の反応もないんだろ?アーニー?」

呼びかけられたアーニーの反応が一瞬遅れた。

「ああ、ありませんね。申しわけありませんが、本船のメインアーニーからはこちらからの問いかけを控えるよう連絡がありました。計測データの送信が最優先で、私もメインアーニーの指示で本船カッターを操船する事が最優先です。」

「チェッツ。操船優先で乗客の相手は出来ないってか!」

「何を言っているの!? まずは着地優先で呑気な思い付きの質問の相手をしている暇は無いってことよ。それだけ事態は厳しいのよ。アーニーは私達の上陸したいって我儘を聞いてくれて、努力してくれているっていうのに!」

またもやってしまった。浮かれている場合ではないのだ…

今や恒星X80950001はいつ爆発してもおかしくない。咸臨丸のバリアーも耐えられないし、上陸艇であるカッターなどは一溜まりもないだろう。今全長50m程のカッター船内にはヒコノ、ジル、アーニーの3名が乗船していた。アーニーは咸臨丸にいるメインアーニーとハイパー通信でつながっているアンドロイドである。ヒコノとジルは体こそ人造ボディーだが、その脳は生身のオリジナルそのものであった。この星系に留まる限り、爆発したら生身の脳も体も失われるのだ。ジルは今回の探査にオリジナルの脳で行くと主張した。ヒコノは思いもよらぬジルの決断に驚いたが、恥じ入りながらも自身も同意することとした。

「私はこんな機会をじかに体験したいの。」ジルは言い切った。

“その通りだ。どの道爆発したら同じだ…何を怖気づいているのだ…”

仮に咸臨丸が生き残った場合は、クローンが作成されヒコノとジルは2級市民としてホームタウンに強制送還されるが、その可能性も低い。そしてオリジナルの脳を搭載したヒコノとジルの人造ボディー2体はカッターの乗員となった。最悪の場合、二人のクローン脳は咸臨丸と共にマザータウンに帰還して報告後、2級市民として永遠に留まることになるだろう。

結果として咸臨丸は恒星X80950001から影になる “希望”の月の裏に待機し、小型探査船であるカッターに3名を乗せ“希望”を目指しているのだ。少しでも生き残る可能性を高めるために。

「大気圏に入ります。」

探査船カッターに振動が走った。強力なバリアと重力制御装置に守られているとはいえ、“希望”の怒りは完全には吸収できなかったようだ。

「突入したトルネードは風速50m/s。船外温度30℃。大気成分酸素15%、二酸化炭素3%、窒素70%。事前分析値と合致します。風速が強すぎるので多少の揺れは我慢してくださいね。本来なら初回は探査ロボットだけなので、乗り心地に配慮したことはなかったものですから。」

サブアーニーが当たり前であるが、何の表情も見せずに現状報告した。

「目的の発信地への到着は問題ない?」とジル

「今のところ問題はありません。送信強度にも変化がないので、突発事故でもない限り地点は明確ですから」

その途端にカッターにドン!と大きな衝撃が走った。

「その突発?」

「はい。下降中のトルネードの内部で上層と下層の風速に著しい差があり、吸収できない衝撃波を受けました。どうやら地表近くは超高速トルネードが多数発生してひしめき合っています。その為、本船はコースから東へ10㎞程外れた窪みに着陸予定です。」

「なんだって?10㎞!? 修正できないのか?」

「修正中ですが、上空から観察した大型トルネードの下に遥かに強力な多数のトルネードが検出されました。想定外です。現在咸臨丸のメインアーニーが分析していますが、カッターの安全な帰還を考えると他に選択肢は無い模様です。」

ヒコノとジルはお互いを見つめた。10㎞も離れた地点に着陸して、この嵐の中どうやって発信地に行くというのだろう。

ジル「今メインとサブアーニーは操船作業にその能力を目いっぱい使っているようだから、着陸したらどうするのかアーニーの意見を聞きましょう。」

「それしかなさそうだな。まずは着陸するまで待とう。」

カッターのモニターには白い荒れ狂った雪嵐しか映っていなかったが、計器は地表からの距離を示していた。数値が0になったと同時に軽い振動を感じた。着陸したようだ。

「フー・・・何とか着陸できました。現在地は目標から東北東5度方向で9.75㎞の位置です。メインアーニーからは安全を見て最大後8時間で“希望”から離脱するよう指示が来ました。」

「9.75㎞だって!? 最大8時間しかいられないだって!? 一体それで何ができるっていうんだ!この荒れ地の観光でも船窓からしてろって言うのか?」

「ヒコノ。黙っていて!アーニー。メインアーニーの分析とこれからできる選択肢は言えるわね?」

「ジル。ありがとう。今回はたくさんの安全規約を破った上で、君たちの生身の脳を無事に咸臨丸まで帰還させるための最大限の選択だった。とにかく地表近くのトルネードの強さときたら、カッターの重力制御装置がオーバーロード寸前だったのだから。当初の見込みから事態は変ったんだ。この状態でカッターが咸臨丸へ帰還することを考えると、8時間というのもかなりの譲歩だよ。」

「アーニー。それで、その8時間で私たちが出来る事は何?当初の計画は発信元に到着して1日程探索する予定だったわよね。」

「メインアーニーに現状報告したところ、帰還条件が予想外に厳しくなったんだ。何せ僕らはこの星系に3日前に着いたばかりだ。“希望”の地表の天候までは分析できなかった。

選択肢は3つ。1つはすぐさま帰還。はは・・・これはなさそうだね。2つ目はここに留まって、カッターに積んでいる5台の探査ロボットを調査に向かわせる。アーニーとしては一番お勧めの選択肢。そして最期に危険度がグンと上昇する、探索車で発信地に向かう案だよ。」

「それだ!」「それよ!」2人は人造皮膚の顔に強い表情を浮かべ、サブアーニーに同時に叫んだ。サブアーニーは頭を振った。予想してはいたけれど、主人を守る事(お守役)が使命のアーニーとしては最悪の選択だ。

「3番目の選択の危険性、困難さに関して理解してからでも遅くはない。まずは聞いて欲しい。このカッターに搭載している探索車は全長10mで重力制御装置が搭載されていて、何とかこの嵐の中でも最大時速50㎞は出せると思う。ただしバリアーへのエネルギーを犠牲にしなければ制御できない場合が出てくると思う。運転に関しては僕がカッター内から遠隔操作を行うよ。危険な場合、戻る判断を下すからね。最大優先順位は君たちの生身の脳の維持だ。発信地に着いたら、今の人造ボディーに更に強化スーツを装着してもらったら船外作業もできるだろうけど、長居は許可しない。」

「判ったわ。早速出発準備よ!時間が無いわ!」

そう言うとジルは座席から立ち上がって、強化スーツ装着に向かった。ヒコノも慌てて後に続く。

人造ボディーに強化スーツを装着した2人と護衛用に積み込んだ探査ロボット2体を乗せた探索車が、カッターの後部からユックリと“希望”の大地に乗り出した。

全長10mの探索車の小さな核融合エンジンが出力を上げている。四方八方から迫りくる強烈な風に翻弄されないように重力制御装置にエネルギーを供給しているからだ。

「さあ。出発するよ」

サブアーニーの声が強化スーツのヘルメットから流れてきた。メインアーニーの分身体であるアンドロイドのサブアーニーはカッターに残って、遠隔で探索車をコントロールする。近距離でありハイパー通信であれば時間差はほぼゼロだ。探索車の重量を少しでも減らし、重力制御装置に余力を持たせるためだった。モニターに映る“希望”の地表画像は足元の茶色い地表以外、雨風で不明だったが、探査レーザーでの地形をスキャンした表示モニターにはカッターから発信地へ向かう前方が見えた。なだらかな斜面を登っているところだ。カッターは以前は大きな山脈に囲まれた盆地であった箇所に着陸し、盆地から山肌を上っているところだ。絶え間ない風に浸食され以前はもっと急勾配であったろうが、探索車は順調に進んでいる。時折、トルネードが車体を揺らすが重力制御装置が姿勢を保させてくれていた。

ヒコノとジルはサブアーニーに話しかけることを控えていた。今この探索車はカッターにいるサブアーニーが遠隔運転していた。メインアーニーとは比べるべくもない処理容量なので、余計な負荷はかけたくなかった。

「この状態で何が残っているんだろうな…」

「何もかも吹き飛ばされてるって感じね。この辺は赤道近くで恒星X80950001の活性化で雪が解けてかけているから、泥濘も凄そうだわ。」

吹き飛ばされないように重力制御装置が探索車を地面に張り付け、ふらつきながらも探索車は発信地へと到着した。暴風雨でぼやけていたが、モニターに発信地の姿が映し出されてきた。

「直径800m程の半球構造物を確認。構成物質はチタニウム合金。周辺スキャンから球体の下半分が地表に埋まっています。球体中心から核反応確認。制御された核反応炉のようです。しかし、放射能検知。核反応炉から漏れ出ているようです。周囲に熱を拡散中。外壁温度は80℃。上部からハイパー通信と、恒星X80950001に向かって高出力レーザーを発射中。内部からは生命反応は感知できません。」 

ジルとヒコノはモニターに釘付けだ。半球状の構造物は所々めくれ上がっていてだいぶ損傷が激しい。

「宇宙船?」ジルは呟いた。

「99%以上の確率で遭難した宇宙船の残骸です。それも私たちの宇宙船設計思想に酷似しています。」

「やっぱり未知の生命体じゃなくて、同族の残滓だったのか…」

「この大気成分で、チタニウム合金ここまで腐食が進んでいるなんて数万年単位で前のものかもね。」

「そんな昔からSOSを出し続けてたって訳だ。もしかしたら大航海以前に出発した俺たち種族の難破船かもしれないな。」

「アーニー。我々の種族の記録で今船と合致するものはあるか?」

「記録をさらったけど、完全に一致するものはゼロだよ。君たちの発生記録は初期の戦争で残っていないけど、あえて言えば伝説の箱舟に近いかもね。」

「そうなの?だとしたら私達の祖先の箱舟と同時期のものかもしれないじゃない!伝説では私達の箱舟は数百人の乗員だったわよね。ホームタウンに残っていない失われた記録もあるかもしれない。有史以来失われていた私達のルーツを私達が解明するのよ!」

ジルは興奮していた。ヒコノも同様に昂ぶっていた。

「すごいぞ!俺たちが最大のテーマを解くんだ!マザータウンの連中ぶったまげるぞ!」

ヒコノ達の歴史は突然始まっていた。進化の過程などの過去は無いと言って良い。5万5231年前に彼ら種族は銀河中央部からマザータウンに辿り着き、安息の地を得たという。

箱舟と呼ばれる宇宙船で住環境が適している惑星を探して、銀河外心部を旅していた移民であったとの記録が残っている。そうして辿り着いたマザータウンで彼らは発展した。が愚かにも移住後千年を過ぎた頃、紛争が起こった。惑星マザータウンが崩壊寸前までいった紛争は多くの記録を消し去ったのだ。その後2万年をかけて文明を修復・発展させ、現在の状態になってから更に2万年が経過していたが、自分達の祖先が旅してきた、銀河中心部にあったという源流という名称が伝説として残っているだけだった。

ヒコノ達の生誕を示す伝説の最初の一節は、

“長い争いと厄災の末、われらは新天地を求め旅立った。苦難の末、ここマザータウンに辿り着いた。安住の地とし、ここから全てを創める。過去の愚行を恥じ、決してわが種族を危険に晒す事無きよう。”

正確なデータや記録は失われていたのだ。紛争後、彼らは文明を修復する過程で厳格な規定を作った。継続性を持たせるためだ。何よりも優先するのは敵対・破壊行為の禁止だ。それを破るものは厳密に排除された。それでもいくつかの危機的状況が訪れた為、マザータウンにある大コンピューターにあらゆる倫理規定を管理させ、違反するものは例外なく排除粛清できる権限を与えた。ただしそれ以外のあらゆる欲求や希望を叶える事が大コンピューターの使命であった。社会が安定し、住民が満足しだすと当然ルーツを探りたい欲求が湧き上がってきた。ヒコノ達の文明が頂点を極め、生死のサイクルも超越したと認識して暫く経つと、発祥の謎を解きたいという願望が巻き上がってきた。大航海時代の到来である。ヒコノ達種族でもまだ活性化している精神の持ち主達が、銀河の中心部にあるという発祥の地を探す旅に出る事になったのだ。何処にあるかも判らない発祥の地。今まで数100のペアが条件をクリアしてホームタウンを旅立ったが、目立った成果を上げられずに終わっていた。

旅の途中での諍い、事故、発見した生態系の破壊などで探索戦のメインコンピューターに強制送還された事例がほとんどだった。彼らの絶対に破れない規律は継続性だった。大コンピューターによって管理されるこの規律は、創造主であるヒコノ達でさえ問答無用で処罰することが許されていた。今回のヒコノ達のアーニーへの

指令は絶対律に安全面で確実に抵触していたが、自己責任による冒険と源流情報獲得確度の高さから、最悪2名の損失であれば種族全体の継続性に大きな影響を与えるものではないと、メインアーニーは判断した。

「これで私達が内部で会話ができる人達と合える可能性がウンと下がったけど、とにかく内部を調査しましょう。アーニー内部に入れそうな場所を探して。」

アーニーは地表近くに10m程亀裂が入っている箇所に探索車を乗り入れた。

「もうこの状態では事前確認行程全てキャンセルしたよ。100を超える安全規約違反だけれども、お二人の絶対命令という事でいいね?」

「ああ!」「もちろん!」

構造物内部はトルネードが運び込んだ土砂で占められていた。強力なサーチライトで20m四方程の内部を照らすと、どうやら室内の壁が20度ほど傾いている事が判った。

「やっぱり宇宙船の様ね。かなり手荒な着陸で傾いたままになっていたのかもしれない。アーニー内部に入れるような通路は無い?なければ土砂をどけるなりして確保して。」

「了解。今内部をスキャンしたところだよ。よし見つけた。この下に土砂が入っていない階層がある。レーザーで穴をあけるからそこから侵入できる。20度傾いているから強化スーツの重力制御装置で滑り落ちないように注意してね。危ないときは探査ロボットがサポートするから離れないようにね。」

そう言うとアーニーは探索車を移動させ、前方からレーザーブラスターを起動させ、早速穴を開けにかかった。探索車には爆破も含めた各種機能が備わっている。それと同時に探査用ロボット2体が起動し、収納ポッドから起き上がった。探査ロボットは各種センサーの他、4本の腕を持ち、掘削、粉砕機能のほかに武装もしている。

「終わった。土砂を除けて下層の天井に穴を開けたよ。外壁と違ってチタニウム合金じゃないから造作もなかったよ。」

強化スーツを纏ったジルは出口前で「開けて」というと探索車のドアが上に開き、ステップが地表に着いた。それと同時に強烈な風が探索車内部に押し寄せた。亀裂部内部なので外よりはましな筈だが、それでも体を持っていかれそうな勢いだ。まずは探査ロボット2体が大地に立った。ジルはタラップにしがみつきながらゆっくりと降りていった。それにヒコノが続く。

二人はそれぞれ探査ロボットにしがみつきながら、サブアーニーが開けた直径3m程の穴を覗き込んだ。

「まず1号に降りてもらうわ!行きなさい。」ジルは自身の護衛用探査ロボットに1号と名付け、命令を発した。重力制御装置を起動し、1号は真っ暗な穴をライトで照らしながら下降していった。

1号の視覚情報他は全てジル達に共有されている。

「どうやら危険はないようだね。スキャンした通り、ちょうど通路の真下にでている。生体反応は無いし、障害物も検知されない。」

サブアーニーは咸臨丸のメインアーニーと情報を共有した上で、ヒコノ達に伝えた。

ヒコノはジルと視線を合わせると2号に抱きかかえられるように穴に入り、下降していった。

下では1号がサーチライトを当ててくれていて、反射した光で2人は辺りを見渡した。

「この空間は本当に私達の船と作りが近いわね。幅といい、天井の高さといい私たちの体格の生物が使うのに合っているわ。」

ヒコノ達は着地すると重力制御装置で20度の勾配を補正して、通路に対して直立できるようになった。辺りを見渡してみると床や壁は長い年月が経過した為か、コーティング材が劣化して所々に自在の金属が剥き出しになっていた。劣化材が床に堆積しており、ヒコノ達の着地で視界を遮るように舞い上がっていた。

「その通路を100m程進んでくれないか?内部スキャン結果から右側のドアを開けると非常用階段と思われるところに出られると思う。9階層上がったらこの難破船の上層階だ。そこの中心が目的地だよ。おそらくコントロールルームだ。本来だったら時間をかけて、全ての部屋を調べるところだけどそんな余裕は無いからね。君達が僕を納得しようとしまいと制限時間は最大あと5時間だよ。」

もうここに来るまでに1時間が経過していた。5時間の期限を通告したアーニーはこれ以上の譲歩はしないと言い切ったのだ。

「はぁ…今までずいぶんと長い間急かされることなんてなかったから気分が悪いな。」

「ヒコノ。ぼやいている暇は無いわ。1号が先頭で検索しながら進んで。2号は後方を警戒してね」

ジルもヒコノと同様に感じてはいたが、どうにもならないと呑み込む事とした。

2人と2体はサブアーニーの指示に従って、漆黒の通路を進んだ。

「止まって。ここだよ。1号にレーザーで壁を開けさせるから離れて。」

1号はアーニーから指示を受けて4本あるうちの1本の腕を前に伸ばすと、右側の壁と切り取り始めた。まもなく階段通路が照らし出された。

「なんてこった。本当に階段高さは我々と変わりないぞ。歩幅も大差ないってことだ。」

「メインアーニーも君達種族との身体的相似性が99%と分析しているよ。」

「さっさと階段を上がりましょう。」

ヒコノ達は9階層上がると、1号がまたレーザーで壁を焼き切った。

「左に曲がって、20m先がコントロールルームのようだね。中心軸に円形の部屋がある。そこから生体反応は無いけど、電子機器の稼働波形が出ている。核反応炉制御やハイパー通信、高出力レーザーの発信などを行っているようだよ。もう3時間経過したよ。帰りも考えて調査は1時間と考えてくれ。」

「アーニー…もう既に安全規約違反だらけなんでしょ!一か所くらい寄り道させてよ!例えばコントロールルーム手前の居住部屋なんかないの?私達2人がここで事故にあったってマザータウン全体には大きな影響は無いでしょ?自己責任よ。ヒコノどう思う?」

急かされ続けてジルは癇癪を起していた。ヒコノも興奮してはいたが、アーニーの指示に従うつもりでいた。難破船は中心部からゴウン・ゴウンと低音の唸りを発し続けていた。早く切り上げて探索車に戻りたいと思っていた。

「どうだろう。僕と2号でコントロールルームに向かうよ。君は1号とこの回廊にある部屋を調べるんだ。少しでも持ち帰れる情報が増えるだろう。」

「もうここまで来れば、仕方がないね。船内にこれといった危険は検出されていない。自由にするといいよ。ただし時間は譲れない。」とアーニー。

「判ったわ。1号、右側の一番近くにある空間をスキャンして危険がなければ扉を開けなさい。」

ジルは1号に命令を下すと後に続いた。すぐさま1号は命令に従い、数m進むとレーザーで壁を焼き切りにかかった。すぐに壁は開き、ジルは飛び込んでいった。

後ろからついてきた1号が室内を照らす。10m四方の部屋の右側に家具と思しき残骸が層をなしていた。難破船は20度傾いているのだ。中央部には椅子の様な固定脚が残っていたが、大きな衝撃を受けたのか上部は破損して残骸の塊の中に入っているようだ。それでも壁には照明器具があり、モニターと思われるスクリーンがかろうじて掛っていた。ジルは固まっている残骸に近づいた。

「机ね。こっちはベッドかしら?滅茶苦茶だわ。」

「そうだね。難破船が20度傾いた時の衝撃かもしれないね。備え付けの備品は全部支持部材が折れるなどしてすっ飛んだみたいだね。」

一つ一つ残骸をはがしながら、目新しいものがないかジルは目を凝らした。数万年は経っている残骸は触れると埃を立てて崩壊した。

「本来なら一つ一つ時間をかけて調べたいんだけど、無理そうね。許されるなら、何年も何十年もここに留まりたいのに!」

数分粘ったジルは手を止め言った。

「この部屋の概略調査だけで数時間は必要だよ。」

「いいわ。あきらめた。あらこれは?」

ジルは足元にあった5cmほどの楕円形の物体を取り上げた。それにはチェーンがついていた。

表面には何か絵のようなものが描かれているようだが、表面を覆う汚れではっきりとは判別できなかった。

「1号解析して。」

「表層構成物質は金。内部にメモリー機能を含んだ電子機器。表面の装飾は人物像と推定。爆発物検知無し。」

1号はあくまで探査ロボットなので、簡易な報告しかできなかったがジルには十分だった。

「アーニーいいわね?」「了解だよ。」

ジルはそれを強化スーツにある保管ボックスに入れるとヒコノ達を追う事とした。

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