第5話 お姫様/フラッシュバン/アクシデント

誠とリーナは、しばらく見つめ合っていた。

すると、急にガチャ…っと部屋の扉が開く音が聞こえる。2人は慌てて目を逸らした。


部屋に入って来たのは…


「おぉ、坊主。やっと目が覚めたようだな。」


部屋に入って来た男が誠に声をかける。

聞き覚えのある声だ。


「あなたは、あの時に助けてくれた…えーっと、名前は…どなたでしょうか??」


「あぁ、わりぃわりぃ。自己紹介をしていなかったな。俺はジェイド。この姫様と同じアカルシアの王国に使える兵士だ。」


ジェイドと名乗るこの男は、筋骨隆々で暗い赤色の鎧を身に纏っていた。

年齢は、30代後半ぐらいだろうか。


リーナのふわっとした巫女服と同じ赤色…

どうやら、国によって基調とする色が決まっているようだ。


「ジェイドか…覚えておくよ。

俺は、誠。先日は危機を助けてくれてありがとう。」


誠は、ジェイドへ頭を下げた。


「いやいや、礼には及ばない。それに姫様の命令ときちゃあ、背くわけにはいかないからな。」


「え、姫様??」


誠はその言葉に首を傾げ、リーナの方へ視線を移す。

するとリーナがギクっとした表情で、誠から顔を逸らす。


「あぁ、そうだ……って、あれ?坊主、知らなかったのか?」


ジェイドが誠へ問いかける。


「リーナに初めて出会った時に、城下町に住む貴族とは聞いていたけど…」


誠は、初めて出会った時のことを思い出しながら返答した。


「いや、それは違う。リーナ姫は、貴族ではなく王族の血筋だ。」


ジェイドは、理路整然と言う。

嘘や冗談を言っているようには見えない。


「へ???」


誠は、段々と頭が真っ白になっていく。


「だから、王族さ。姫は王位継承権を持っている。いまの国王様と王妃様の実の娘、2人兄妹の末っ子。リーナ姫より3つ上の兄、フェザー王子が以前はいらっしゃったのだが、いまは行方不明で不在なんだ。だから実質、次期王となるのはこのリーナ姫ってわけさ。」


ジェイドは、懇切丁寧にリーナについて説明をしてくれた。


「・・・そうなのか?リーナ。」


誠の動きがフリーズする。


「・・・・・。」


リーナは視線を誠へ戻し、無言で首を縦に振る。


それを聞いた誠は、顔から血の気が引き段々と顔が真っ青になる。


(いままで無礼にあたること結構してたぞ俺……これはヤバイか……ヤバイよな。出会ってから、ここに来るまで王女を呼び捨てで呼び、寝ている時にその頭を撫で、あげくキスまでしたって……

これは最悪、処刑される事案なんじゃないか…)


誠はいままでの人生で一番の大きな声で、リーナの前にベッドから飛び起き、ジャンプすると共に空中で正座し、頭を深く下げた状態でそのまま床に落下する。


「申し訳ありませんでした!!リーナ様!!!」


そして、床へ衝突しゴンッという物凄く鈍い音を部屋に響かせた。


スライディング土下座ならぬ、ジャンピング土下座だ。


目の前の出来事に、唖然としているリーナ…

そして、ようやく事態を理解し口を開いた。


「え、ちょっと誠…大丈夫??」


誠は、無言で床に額をつけたままだった。


(痛い、これむっちゃ痛い。膝と額が床へクリティカルヒットして、ジンジン痛むわ…でも、処刑台へ送られるよりは断然マシだ。)


リーナは、誠に駆け寄り肩へ触れ身体を起こそうとしながら言う。


「ちょっと顔を上げてよ、誠。最初に貴族って身分を偽ってた私が悪いんだし…それに、呼び方もいままで通りでいいんだよ?〔姫〕やら〔様〕やら、みんな呼ぶからもう聞き飽きたし。それにさっきのことを気にしてるなら、気にしないで?私からしたわけだし…」


リーナは再び赤い顔になり、誠から目を逸らす。


「さっきのこと?俺が来る前になんかあったのか??」


ジェイドが不思議そうな顔をする。


(ヤバイ…さっきのキスのことをジェイドに知られてはダメだ…急いで話題を逸らさなければ。)


誠は、ジェイドの反応に焦った。


「い、いや、別に何でもないよ、ジェイド。ところで…リ、リーナ。なぜ最初に出会った時、身分を偽っていたんだ?」


「あぁ、それはですね……」


リーナは目を逸らしてやや下へ俯き、少し困ったような顔をした。


「私は…王族の人間なので、誘拐や暗殺などの身の危険がないように常に護衛が2〜3人付くのが決まりなんです。ですが…ひとりになれる時間が全くないのが嫌で、あの時はこっそりスキルを使って護衛を巻いてから自分ひとりで城を抜け出して来てたんです。」


「なるほど…」


(『透過』のスキルを持つ彼女は、スキルを発動させれば、いわば光学迷彩(ステルス迷彩)を装着したようなものか。暗殺や潜入、逃亡に特化したスキル…自身の護衛を巻くなど、いとも容易くできたんだろうな…)


誠はリーナのスキルの汎用性に感心していた。

しかし、1つ疑問が残る。


「だけどそれは…王国の方は大丈夫なのか??王国の方では、王女が急に居なくなって大騒ぎしてるんじゃないのか?」


「あぁ、それは大丈夫です。今回が初めてという訳ではありません。何度か勝手に城を1人で抜け出したことはありますし、今回も前回同様に置き手紙をしたので、きっと大丈夫でしょう。」


リーナは自信満々に言った。

それが彼女なりの配慮だったのだろう。


「な、なるほど…」


(それなら、王国の警備体制を見直して強化すべきだろう)と誠は内心ツッコミかけたが、口に出して言うのは蛇足であろう。

だってリーナは、自分の意思で城を抜け出してきたのだから。


リーナは言葉を続ける。


「ただ、王国の外では自分が王族の血筋であることがバレると、悪い奴らに誘拐されて身代金を要求されたり、他国から自国に不利な条約を結ばせるための交渉材料として使われたりする恐れがあるので、外でひとりの時は身分を偽るようにしてるんです。

私のスキルは、自身の姿を視覚的に消すことはできますが、身分自体は消せないので。」


リーナは王女とて、それはまだ17歳の少女。

親の手を離れて1人で考え、1人で行動したい年頃なのはよくわかる。誠自身もそうだったからだ。


「なるほどな…だが、なぜ若木が1本だけ立っているあの丘へ来て居たんだ??」


「えぇ、それは…私のお父上、アーサー国王のためです。」


「アーサー国王??国王に何かあるのか?」


「姫が言うのは辛いでしょうから、それは俺から説明しましょう。」


ジェイドが話に割って入り、リーナの言葉の続きを説明する。


「アーサー国王は、度重なる戦で疲弊され、いまは床に伏しておられるのだ。」


「戦だって?戦争をしているのか??」


「あぁ…近頃、オークの軍勢が我が国、アカルシア王国の近くまで侵攻して来ているんだ。国王様は我が国へ近づけまいと、国より3km手前に防衛線を敷いて侵攻を食い止めている。

アーサー国王はな、とても勇敢な指揮官であり、采配も優秀であられたため、オーク達の猛攻を凌げてこれたが、今日に至るまでの度重なる戦から心労を患い、いまは王室に寝込まれておられるのだ。

現在はオーク達に目立った動きはなく、休戦状態だがいつ侵攻を再開し始めるかはわからない。ひょっとしたら、今のうちに防衛線を突破するための策を考えているのかもしれないんだ。」


「なるほど。だが、それとリーナが1本の若木がたつ丘へ来たのといったい何の繋がりがあるんだ?」


すると、今度はリーナが答えた。


「実はですね…〔かなり昔、あの場所へ異界の者が空から舞い降りて来た。その者はある人に拾われ、我が国…アカルシア王国へ仕えることとなる。そして、彼は自分の身に宿る力に目覚め、どんな病いでもたちまち治した。〕との言い伝えを父上から小さな頃に聞かされたことがあったんです。私は、その伝説のような話を信じて、お父上の病を治して頂こうとあの場所で祈祷をしていたのです。」


「あ、その話…聞いたことがある。」


誠は、この話に聞き覚えがあった。


「あれ?誠も知っていたのですか??」


リーナは、意外そうな顔をする。


「いや、俺は知っていたと言うか…騎士兵達に囲まれる直前に、ニアと名乗る女性が俺の前に居て、ほとんど同じ内容のことを言っていたんだ。詳しく聞こうとしたんだが、『また会うことがあれば教えてやる』と行ってその場からゆらゆらと消え去ってしまった。それと同時に、虚空から突然、騎士兵達が現れてさ。俺は気付かぬうちに包囲されちまったのさ。あとは、リーナ達が知ってる通りだよ。」


「なるほど。そうだったんですか…」


「ニアか…」


ジェイドが呟いた。その言葉は、何かを知っているような雰囲気だった。


「ん?ジェイドは、ニアのことを知っているのか??」


誠は、ジェイドに尋ねる。


「あぁ、確かそいつはどの国にも所属しない傭兵だ。まぁ、傭兵とは言っても請け負うのは護衛や諜報の依頼のみで、人の生死が関わる暗殺や戦闘などの仕事はしないと聞いたことがある。」


「確かにニアとは、戦闘しなかったな…」


「スキルは不明だが、凄腕であることだけは確かだ。護衛や諜報など、受けた依頼は完璧にこなし、任務に失敗したことは一度もないとの噂もある…戦闘力はなさそうだが、敵に回すと何かと厄介なやつだな。」


「なるほど、覚えておくよ。いづれ、また会うかもしれないし。」


「あぁ、そうだな。いまの状況を見るに、いまは敵側に付いているようだし…もしかしたら、この辺を彷徨いてるかもしれない。誠も注意しときな。」


「あぁ、わかった。話がだいぶ逸れてしまったが、リーナの事情もわかったよ。」


(元の世界で、あの時に御神木から聞こえていた『助けて!』という声のようなものの正体は、つまりリーナの心の声だったのか…?)


誠は座り込んでいた床から立ち上がり、言葉を続けた。


「ちなみになんだが、その言い伝えにあった人物ってどんな人だったか、詳しく知らないか?」


「私も父上より幼い頃にその話を聞いただけだったので、詳細は分かりませんね…もしかしたら、父上なら何か知っているかもしれません。」


「そうか…」


「えぇ、それに言い伝え通り、誠さんが異世界からやって来てくれました。もしかしたら、誠さんの力で父上が治せるかもしれません。ぜひ、父上に会ってください!」


「あぁ、そうだな。自分がまだどんなスキルを持っているかはわからないが…後で『千里眼』のRスキルを持つ村の長老に調べてもらわないとな。」


「村の長老??残念だが、そのお方は5日前に亡くなったぞ…」


「え、そんな…」


「高齢だったからな、仕方がないさ。人間、老いには勝てない。だが、まだ希望はあるぞ。

隣のリゼッタという町に、いま『鑑定』のSRスキルを持つアーシャという女性が来ているらしい。分析の精度が非常に高く、その人が持つスキルをまるで全て知っているかのように話すそうだ。この方なら、とても頼りになると高評だよ。調べてもらうなら彼女を尋ねるといい。」


「わかった、ありがとう。ジェイド。ちなみになんだけど、先日、10人近くいた敵を一気に倒してたけど、君のスキルって何なんだい??」


誠がジェイドに尋ねた。


「あぁ、俺のスキルか? まぁ、お前さんと敵対することはないだろうし、いっちょ教えてやるか。

俺のスキルは『言霊』、発言した通りに相手をコントロールできる。だが、Rレアスキルだから、効果範囲が狭く発動の条件がややこしい。発動条件は…」


「発動の直前に、敵の意識を自分に向けさせ、敵が自分を見ていること…かな?」


誠が、ジェイドの発言に口を挟んだ。


「おぉ、よくわかったな。」


ジェイドは、関心した様子で言った。


「事態を論理的に考えれば、わかるよ。あの時、ジェイドはわざと敵を挑発していた。さらに花火のような物を使い、光と音で意識を自分の方へ向けさせていた。俺は、リーナから見てはいけないと言われ、視界を塞がれたから、ジェイドのスキル発動直後に敵と同様に眠らなかった…となると、相違点はジェイドの方を見ていたか、見ていないかだからさ。」


「なるほどな…というか、花火ってなんだ??」


「固めた火薬を燃やして、色の付いた光を出したり、爆発させて音がなるだけの物なんかもあるんだけど…この世界にはないのか??」


「何じゃそりゃ?爆弾のような武器か??」


「いや、違うよ。まぁ、構造はだいたい同じだから、使い方次第では爆弾にもなりかねないけど…鑑賞用の物かな。俺が居た世界では、夏の風物詩なんだ。」


「風物詩??」


ジェイドが不思議そうに尋ねる。


「あぁ、暑い夏の真っ暗な夜空に花火を打ち上げる。

そして空中で爆発させ、赤や青、緑、黄色など光り輝く鮮やかな色合いやその形、音を楽しむんだ。」


誠は懐かし気に遠くを見ながら言葉を続けた。


「一瞬だけ大きな光の花が咲いたかと思うと、それはまたすぐに夜空の闇へ消えてしまう。その姿は、咲き枯れる花のようで、儚くも美しい。あぁ、また見たいな…」


「誠さんの世界では、そんな綺麗な物があるんですね。私も見てみたいです。」


リーナが目を輝かせている。


「俺が居た世界に来れば普通に見れるんだがな。戻りようにも戻り方がわからない…」


「いつか行きましょうね!」


リーナがニッコリとした笑顔で言った。


「あぁ、そうだな。」


誠も笑顔で言葉を返した。


「へぇ〜、お前さんがいた世界ではそんな爆弾があるんだな。」


ジェイドが感心したように言う。


「だから、爆弾じゃないって!」


「あはは、すまない、すまない。傭兵をやってる俺にとっちゃあ、武器に見えちまうんだよ。」


「そういえば、この世界の武器って他にどんな物があるんだ??」


誠が思い出したように尋ねた。


「ん〜、近接武器なら剣や斧、槍などの刃物類、棍棒やメイス、ハンマーなんかの打撃武器を使う奴もいるな。遠距離武器なら弓や投げナイフ、投球武器なら爆弾や火炎瓶と言ったところかな。」


「ふむ、なるほど…」


誠は腕を組み、考え込む様子で言った。


(俺がいた世界より、明らかに武器の発達が遅れてる…)


ジェイドは、言葉を続ける。


「まぁ、この世界じゃ、スキルや魔術、特異体質なんてあるから、武器なんて戦力のほんのちょっとした足しみたいなもんさ。強力な力を持っている者達にとっては、武器なんてあってもなくてもどうでもいい。

むしろ、重い武器なんかは所持するだけでも邪魔だからって、何も武器を装備しないやつもたくさんいるのさ。」


「そうか!この世界には不思議な力があるんだったな。」


(武器が発達していないのは、このためか…)


「ちなみに俺がお前を助けたとき使ったのも、威力を弱めに調合した爆弾だぜ?俺の場合、爆弾で敵を吹っ飛ばすのが目的じゃねぇし、味方に被害が及ぶと困るんでな。それこそ、お前さんが言う花火とやらに近いかもな。」


「ジェイドには、フラッシュバンがちょうどいいかもね。」


「フラッシュバン??」


「俺がいた世界にある武器だよ。強い音と光で敵の動きを一時的に鈍くさせる投球武器…近くにいる敵は、目と耳がやられてダウンするし、遠くにいる敵には注意を引くのにちょうどいい。」


「ほぉ、それは便利でいいな!誠の手で作れないのか??」


ジェイドは、興味津々に言った。


「うーん…それは無理かな。元の世界では触ったこともないし、そもそもこの世界には【存在しない】しな…」


(以前、FPSゲームの武器を調べていた時に、実物がどんなものか画像で見たことはある。だが製作に必要な材料なんて知らないし、ましてや自作するなんてほぼ無理ゲーだぞ…)


誠は、あの時に見たフラッシュバンの形状を思いだしながらふと考えていた。

すると、腕を組んでいた誠の手から、ゴトッと地面に『何か』が落ちた。


「ん?何か落ちたぞ?なんだ、その黒っぽい棒状の物体は??」


「え!??」


誠はあまりの出来事に驚いた。


「おいおい、急に大きな声を出してどうしたんだ??元々お前さんが持っていた物を床に落としただけだろ?」


そういうとジェイドは黒い棒状の物体を拾った。


「そうじゃないんだ。こんな物を俺が持ってるはずがない。」


誠は目の前の出来事に呆然とする。


「ん?なんか輪っかがついてるぞ?」


「あ、それに触ったらダメだ!」


誠は静止するあまり、大きな声で叫んでしまった。


「えっ!?」


ジェイドは何気なく輪っかを触っていたところ、誠の急な大声に反射的にビクッとしてしまう。

その直後、ピンッという何かが外れる音…そしてカタンっとカバーのような物が落ちるがした。


「バカ!いますぐ窓の外に投げろ!遠くにだ!!」


急いでジェイドに対処を指示する。


「え??あ、了解だ!!」


ジェイドが窓の外へ黒い棒状の物体を投げる。

それは豪速球で空高く飛んでいった。

筋骨隆々な体格は、伊達じゃない。


「リーナ伏せるぞ!目と耳を塞げ!!」


そう言いながら、リーナを庇うようにして床へ押し倒し、自身の身体でリーナの頭を守る。


「ジェイドもだ!さっさと伏せて目と耳を塞げ、早く!!」


そう言い、誠自身も目を瞑り耳を塞ぐ。


すると、窓の外…遠くの方から爆発音がし、それと共に目をつぶっていてもわかるほど、強い光が窓から差し込む。

まるで太陽が落下してきたようだった。

しばらくして、光が収まったことを確認し、誠が顔を上げる。


「はぁ…危なかった。」


なんとか事態が収まりひと段落した。


「みんな大丈夫か??」


伏せたままの姿勢で誠がみんなへ問いかける。


「あー、目がまだチカチカする…いまのは何だったんだ??」


「フガフガ…」


「お前が言ってたフラッシュバンだよ。」


「あれがか!かなり危険な物だな…」


「近くで爆発しても、手足が吹き飛んだりはしないが、一時的に耳が聞こえなくなったり、目が見えにくくなる。敵を傷つけず、無力化させるために作られたもんさ。その様子だと大丈夫そうだな。」


「フガフガ…フガガ!」


バシバシと誠が背中を叩かれる。


「あ、そうだった。とっさだったから、ニーナを押し倒したんだった。」


誠が上半身を起こす。


「ぶはー…ちょっと誠さん、押し潰し過ぎですよ!全く!!鼻血が出たじゃないですか!!」


顔を真っ赤にし、鼻血を垂らしながらリーナが言う。


「姫!大丈夫ですか!!というか、鼻血???あれにはそんな効果もあるのか?」


「いや、ないない。放射線じゃないんだから…それより、ごめんな、リーナ。とっさの出来事で仕方なかったんだ。鼻を打っちまったか?」


「べ、別に大丈夫です…ちょっと鼻血が出ただけ…」


そう言って、頬を紅く染めたまま、そっぽを向くリーナ。


「誠のバカ……いい匂いだった…」


と最後に小さな声で呟いた。


「え?何だって??」


誠が聞き返した。


「何でもない!それより、何であんなことが出来たの??」


リーナが自身の鼻を両手で押さえながら誠に尋ねる。


「さぁ、俺にもわからない。ただこの世界に存在しないと思いつつ、どんな物だったかを思い出してたら、急に手から出てきたんだ。」


「お前、魔法でも使えるのか??」

とジェイドが聞いた。


「俺、まだこの世界に来たばっかりで、右も左も分からないような状況だぜ?そんなの無意識に出来るわけないだろ。」


「無意識…てことは、それが誠のスキルなんじゃないのかな??」


リーナが思い付いたように言った。


「そうなのか?」


「この世界では、スキルは持って生まれるものだから、無意識に使えるようになるんだよ。だから、きっとそれが誠のスキルなんだと思う。もう一度、やってみて?」


「あぁ、わかった…ジェイド、くれぐれもさっきと同じようにフラッシュバンには触るなよ。」


「あぁ、恐ろしい目に会うのはうんざりだ。」


そう言って、ジェイドはやれやれと両手を振る。


誠は、目をつぶって右の手のひらを上に向け、全神経を集中した。


(フラッシュバンは、この世界に存在しない。だが、俺の手にはある。)


頭の中で欲しい物をイメージし、心の中で念じる。

すると、小さな雷のような光と共に、右の手の平にズッシリとした感覚がしたかと思いきや、フラッシュバンが姿を現す。


「な!? なんてこった…」


ジェイドは、驚愕している。


「わぉ…ようやくスキルの使い方を会得したようですね!!」


リーナはとても喜んでいた。


「なるほど、なんとなくスキルの使い方がわかった。他にも試してみるか…」


(1個ずつ出すのは、面倒だ…10個まとめて出せないかな…)


「・・・。」


全神経を両手に集中させ、頭の中でイメージをして、強く念じる。すると両手にフラッシュバンが出現する。手に持ち切れず、たちまち床にゴトゴトッと落とす。


「なるほど。イメージ次第では、複数個を一気に出すことも可能か…」


「お前さん、すげーじゃねぇーか。その力があれば、1人でも大丈夫そうだな。」


ジェイドは誠のスキルに関心している。


「わぁ…さっきの危険物がいっぱい…」


リーナが珍しそうに、落ちたフラッシュバンを見ている。


「その輪っかのピンを抜かない限りは、爆発しないから安全だよ。」


「へぇ〜、そうなんだ。」


「フラッシュバンが11個…こんなにたくさんあると、入れるための袋がいるな…」


(袋か…リュックだと使いたい時にすぐに取り出せない…腰あたりに来るように、ショルダーバックがいいか?イメージするんだ、イメージ。軍で使ってるような迷彩柄のショルダーバック…この世界にはないが、我が手にはある。)


すると、中サイズの迷彩柄のショルダーバックが手から出現する。


「よし、これに入れとこう。あ!ジェイドも、何個かいるか? お前のスキルに合いそうな武器だが…」


「いや、威力が高すぎるから結構だ。いままで使ってたやつで十分だよ。」


「そうか…」


誠は、床に落ちたフラッシュバンを全てショルダーバックにつめる。


「これで、もし先日のような襲撃があっても大丈夫ですね!」


「あぁ、そうだな。よし、身支度をして隣町にいるアーシャを尋ねよう。スキルの使い方はわかったが、不明な点が多い。もしものためにちゃんと自分のスキルを知っておきたい。ジェイド、案内してくれるか?」


「いゃあ、わりぃ。俺はここまでだ。一昨日から、この村の警備リーダーを任されててな。いまは持ち場を離れられないんだ。俺はついて行けないが、代わりの警備を付けようか?」


「んーん、必要ないよ。隣町なら、私も行ったことあるから。それに誠が居れば大丈夫だよ。」


「まぁ、お前さんが居れば、姫は大丈夫そうだな。」


ジェイドもリーナの言葉に賛同する。


「本当に警備の人が付かなくて大丈夫か、リーナ?また、人狩りに追われるかもしれないぞ??」


警備がいるなら、警備がつくに越したことはないと誠は思っていた。


「んーん、要らない。だって、誠がさっきみたいに守ってくれるでしょ?」


そう言って、リーナは誠の左腕を抱きしめる。


「え、ちょ、リーナ?」


誠は、恥ずかしくなり、赤面しながら尋ねる。


「姫?ちょっと近過ぎるのでは??」


流石にジェイドも、国王の娘の大胆な行動に焦る。


「いいの。誠とは、そういう関係だから。」


「え?」


誠は目が点になる。

どうやら、完全に魅入られたたらしい。


「なんと、いつの間に…姫、申し上げ難いのですが、王族は他の王家や貴族とのお見合いでお相手を決めるのが仕来りです。その…彼のことはお父上には伝えているのですか?」


ジェイドは、驚きつつも王家の仕来りを述べる。


「んーん、まだ伝えていない。だいたい、何で王家や貴族っていう単なる肩書きだけの人達と婚約しないといけないの?」


リーナが不服そうに言う。


「ですので、それは仕来りですから…」


ジェイドが食い下がりつつ言う。


リーナが、誠から離れて1歩前に出た。


「肩書きがどうしても必要って言うなら、誠にも十分あるじゃない!誠は、私を2回も守ってくれた。そんな立派で確実な肩書き他に誰か持ってる?身分の肩書きなんて、ただの紙切れに過ぎない。そんなんじゃ、私は惚れない。私は絶対に認めない。」


リーナが小さな手を力強く握り締めて、噛み付くように言った。


「それに…父上が認めないというのであれば、認めさせるだけのこと。私は、いつまでも子供じゃない。自分のことは、自分で決める!」


その言葉はとても力強く、それはまるで少女ではなく、大人のようだった。


「そうですか…では、私からはあえて黙っておくとしましょう…国王様へはご本人から、伝えていただく方がよろしいでしょうし……」


そう言うと、ジェイドが急に何かを察知したのか、窓の外や部屋の入り口など、周囲を確認し始めた…

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