星の群れ

瑞原チヒロ

星の群れ

 いつもの通りイゴニアの葉でお茶を淹れる。ほわほわと立ち昇る湯気の温かさに満足して、僕はひとつうなずいた。


「レーテ、できたよ」


 ティーカップを手に、奥の部屋の戸をノックする。


 飲み物を載せたコースターを片手で持ち、空いた手で他の作業をすることにはとっくに慣れた。僕の特技と言ってもいいくらいだ。何と言っても僕の雇い主は、魔術の才能と同じくらい、次々と助手に用を申し付ける才能にあふれている。


「レーテ。先生」


 僕はのんびりと二度目のノックをした。


 レーテ・フィステが親から受け継いだこの家は大層年季が入っていて、基本的にどこも古色がついている。その中で、唯一若々しい茶色をしているのがこの戸だった。最近僕が新しく造り直したのだ。物言わぬこの部屋が、主の“実験”の一番の被害者だということは疑いようもない。


 もっとも村の人たちから見れば、レーテ女史の一番の被害者は僕であるらしい。


 まあそれはさておき。


 部屋の中から返事はない。僕はノックするのを止めて、軽く首をかしげた。ドアノブに手をかけ、


「入るよー」


 かちゃり。遠慮なく戸を開ける。


 僕が主の許可なくこの部屋に入ることは、特別珍しいことじゃなかった。一応普段は「勝手に入るな!」と言いつけられているものの、時にはそれを無視しなくては、他ならぬレーテ女史が危ない。研究熱心すぎる魔術師は寝食を忘れたあげく、部屋で倒れていることがしばしばあるのだ。


 部屋は相変わらず、凄惨な有様だった。


 今にも燃えつきそうなランプの炎が、ちらちらと最後の気力を振り絞って揺れている。そのたびに、ぼんやりと浮かび上がる部屋が奇妙に表情を変える。

 昼間見たなら無かったことにせずにいられないこの部屋の惨状も、夜にこうしてわずかな灯りの下で見ると、何やら意味のある厳かな空間に思えてくるのが不思議だ。


 やれやれ。僕は足元に散乱しているものを拾っては近くの山の上に載せながら、無理やり道を作り奥に進んだ。


「レーテー。せんせー」


 呼んではみるものの、部屋の中に女史がいないことは明らかだ。


 この部屋は、奥にバルコニーに続く戸がある。


 先々代の主が、空を愛した奥方のために設えたバルコニー。そして現在の主も、どうやら先祖の血を受け継いだらしい。研究室兼寝室をここにしたのも、バルコニーに一番近い部屋だからだということを、僕は知っている。本人は決して認めたがらないけれど。

 僕はティーカップを手にしたままバルコニーへ出た。


 ふわり、と夜気が僕を出迎えた。

 気候の温暖な僕たちの住む土地。時期によっては、夜であってもふわふわと暖かい。目を閉じてその空気に浸ると、まるで真綿にくるまれているような気分になる。


 真綿の夜。開け放しのバルコニー。僕が作ったテーブルの上にはランプが置かれ、その橙の灯火が、椅子に腰かけた女史の長いくせっ毛にほのかな陰影をかけていた。

 僕はその後ろ姿に声をかけた。


「レーテ。お茶いらないの?」

「――いるに決まってるでしょ」


 でなきゃ頼まないわよ――と、気まぐれな先生は不機嫌に鼻を鳴らす。

 おやおや。僕はひそかに片方の眉を上げた。レーテ女史、どうやら不機嫌。原因はなんだろう?


 この女史の表情は大半が機嫌が悪そうなことくらい、僕はよく知っている。だが、そう“見える”だけで実際には機嫌が悪くないことも多い。

 そしてほんの数十分前、僕にお茶を淹れるよう命じたときには、少なくともこんなに機嫌が悪くはなかったのだけれど。


 僕は女史の傍らのテーブルにティーカップを置き、問いかけた。


「どうかしたの? 今回の実験は九分九厘いい結果が出ないだろうって、最初から分かってたんじゃなかったっけ」

「そうよ、案の定失敗したわよ。いいのよ“失敗する”ってことを確かめるための実験だったんだから」


 女史はイライラと、そんなことはどうでもいいのよ――とささくれ立った声で唸った。ぞんざいな手つきでティーカップを取り、一息に飲み干す。


「ゆっくり飲まないともったいないよ、レーテ」

「なくなったらアンタに淹れ直させればいいだけでしょ」

「そりゃ何杯でも淹れるけどね僕は。でもそれを繰り返してたら太るよ? イゴニアは甘いからね――服着られなくなってもいいのかな。その服、仕立て屋のアンナちゃんが初めて作った記念の服でしょ」


 うぐ、と女史は喉を引きつらせた。


 ランプが照らし出す魔術師先生の衣装。炎と同じ色の衣装は、激しい気性の女史によく似合う。女史に懐いている村の小さな女の子が、初めて一人で仕立てた服。実験中はもっと汚していい服を着ていたはずなんだけれど、いつの間にか着替えたらしい。多分、実験が終わったから気分を変えたかったのだ。


「……細かいことをいちいち覚えてるんじゃないわよ」


 ぼそぼそと女史は言った。まるで恨み言でも言いたそうな声だが、僕は気にしない。


 改めて、夜空の下の魔術師先生を見つめる――柔らかい飴色のくせっ毛、白い肌。顔立ちはとてもいいのに、目つきが怖い。何かひとつに注目すると徹底的に観察せずにいられないその視線の迫力は、日々を流れるように生きている村人たちにはすこぶる評判が悪かった。唯一仕立て屋の一人娘だけが、女史に悪意などないことを理解している。きっとアンナ嬢は気づいているに違いない――魔術師先生の瞳がよく見ると、とても深い輝きを湛えた緑柱石色だということを。


 体つきは痩せていた。普段は、細いその輪郭を誤魔化すかのように、大振りなローブを好んで着ている。「それではもったいないですよう」と、アンナ嬢はわざと体の線が出る服を仕立てたのだった。

 表向き「余計なお世話よ」と礼さえ言わなかった女史のこと、きっとこの服を着るのは夜の間だけだろう。僕以外の誰にも見られることのない――この世の支配者たる太陽さえも寝入るこの一時だけ。


 僕は明日アンナ嬢に報告しようと、ひそかに心に決めた。


 本当はアンナ嬢をこの屋敷に連れてこられればいいのだけれど、魔術師先生は常日頃からあのお嬢さんには「邪魔だから来るな。むしろ家から出るな。ちまちま服でも作ってろ」とつれない。僕があの子を連れだしたりしたらカンカンになって怒るだろう。アンナ嬢に手を出すことはないが、代わりに僕には容赦ない“罰”が与えられる。僕はしばらく逃げ惑うことになって、でも逃げきれずにそれなりにそれなりな目に遭って――ただしやられっぱなしの僕じゃない。女史の食事から好物を抜いたりなんなり報復をして、女史火山再び噴火――


 そしてアンナ嬢は、そんな僕たちを見て、きっと幸せそうに笑うのだ。


 バルコニーを、旅人のように鷹揚な風が吹き渡った。

 レーテは流されて顔にかかった前髪を、邪魔そうに払いのけた。

 その仕種で、僕は気づいた。今の今までずっと、魔術師先生は空を見上げていたのだ。僕の方を一度も見ないほど熱心に。


 今度は何を見ているのだろう?


 僕はようやく空を見上げる。

 そして、「ああ」と思わず声を漏らした。

 今日は一日天気が良かった。明日も晴れるだろうと、村人の誰もが信じている――そんな日の夜、天は星々のための舞台へと変わる。

 散りばめられた光は、ステージを一斉に瞬かせていた。

 優雅な貴婦人たる月さえも、今宵は星に気おされているようだ。


「星を見てたんだ」


 僕がそう言うと、レーテ女史はなぜかため息をついた。細い顎を片手に載せて支え、憂鬱そうに視線を揺らす。それでも、やっぱり空ばかりを見ながら。


「……星ってねえ……どうしても手が届かないものかしら」


 吐息と共に零れた言葉に、僕は軽く驚いた。


「どうしたの、超現実主義のキミらしくもない。実は実験の失敗がショックすぎて人格が破壊されたとか? キミにそんなロマンチシズムがあるなんてちょっと僕の中でのキミという人物を一から再構築しなきゃならないんだけど」

「うっさいわよアンタあたしを一体なんだと思ってんのよ」


 険悪な声で唸った女史は、肩に載った髪を豪快に後ろに跳ね除け、ふんと顎をそらした。


「あたしが星に興味を持つなんて、星の秘めるエネルギーが目当てに決まってるでしょう」

「――僕の中の女史はそのままでよさそうだね」


 全くもってレーテらしい言葉だ。僕は女史から見えないようにひそかに苦笑した。


 レーテは昔からそうだった。可憐な花を見れば「このか弱そうな風情が子孫繁栄のためにどんな風に作用しているのかしら」とか呟き、雄々しい樹を見れば「この生命エネルギーを魔力に変換したらどれくらいの量かしら」とか呟く。十に満たないような子供の時分から、そうだったのだ。

 そして僕はそんな女史の後ろを、延々とついて回っていた。物心つく頃からずっと。

 可愛げのない言動のために、段々味方をなくしていく少女の後ろを。


「もしも星を手に掴めるならキミはどうするの?」


 僕は尋ねた。

 魔術師先生は、ぴんと細い眉を跳ね上げた。「そうねえ」と顎に指をかける。

 緑柱石の瞳に光が灯った。情熱的な、好奇心の灯火。


「まずは質量をどうにかしないとね。星を手繰り寄せたらとんでもないサイズになるだろうから……そうでなくてはエネルギーの抽出のし甲斐がないけど。それから、そうねえ。どういった種類のエネルギーかを調査して……どういった力に変換可能かも……問題は現在でもエネルギーを保っている星がどれだけ空に残っているかなのよねえ。光の伝達速度を考えれば、今見えている星が何年前に生きていたものかもちょっと分からないし……」


 途中からは、もはや独り言でしかない。

 それをずっと聞いていてもよかったけれど、僕はあえて遮った。


「そうじゃなくてさ。もし可能なら、そのエネルギーを何に使いたいの?」


 レーテが初めて僕を見た。

 ぽかんとしている。虚を突かれて、言葉を失っているようだ。僕はゆっくり繰り返した。


「――何か、大きなエネルギーを手にして、やりたいことがあるんじゃないの?」


 一拍の間の後。


 村では山姥とも評される魔術師先生の頬が、熟れた果実のように赤く染まった。眉と目つきがみるみる吊り上り、今にも噴火しそうに紅唇が開く――が、何かが直前で激情を堰き止めたようだ。

 すとん、と音がしそうな風情で、女史は顔から力を抜いた。

 そして睨みつける場所を探して視線をさまよわせながら、前髪を掻き上げた。


「馬鹿ね。あたしはただ星のエネルギーの正体を見極めたいだけよ。使い道なんかまだ考えちゃいないわ」

「そっか」


 僕は微笑んで頷いた。


 ――発見したのは五日前。一週間の不眠不休の挙句、ばったり眠りこんだ彼女の介抱のために勝手に部屋に入った僕は、足元の本に躓いて転んだ。本の一山を崩しながら倒れた僕の目に飛びこんできたのは、魔術師先生の秘密ノート。


 ミミズののたくったような悪筆で綴られているのは、勿論魔術に関するあれやこれやだ。「絶対見るな見たらコロス」と厳命されていたことを思い出し、慌てて目をそらした僕は――直後、思わず視線を戻してそれを凝視していた。

 世界で本人以外なら、おそらく僕にしか解読できない字。しかしそのほとんどは女史にしか分からない専門用語だから、ノートの内容は結局僕にも理解できない。

 それなのに一節だけ、僕にさえはっきりと分かる文章があった。


 ――“アンナの足を”。


 ただ、それだけ。


 僕はノートを手に取り、その一文字一文字をとっくり眺めた。存在を確かめるように、その字画を目でなぞった。具体的なことは何も書かれていない。同じページの他の言葉は何一つ読み取れない。けれど。

 僕にだって分かった。

 そのノートが色褪せ、擦り切れ、何度もめくられ、何度も何かを書き足しては消してを繰り返している痕跡に満ちていることは。


 ――元は農家に生まれた一人の少女がいた。少女は大病を患った挙句、一命は取り留めたものの歩く方法を奪われた。そうなるともはや農家では用無しだ。両親は即座に娘を売った。

 引き取ったのは、隣村の仕立て屋だった。以来少女はただの一度も、実の家族とは顔を合わせていない。


 一言も故郷への思いを口にしたことがないかの少女は、その代わりよく空を見た。思えばレーテがよく空を見上げて熟考するようになったのも彼女と知り合ってからかもしれない。


「―――」


 僕は空を見上げる。

 無邪気な子供が、星色絵の具を撒き散らしたような空。隣の村から見ても同じ景色が見えるのだろうか。そんなことを思う。


「……流れ星に願いごとをすると、叶うらしいね」


 呟くと、鼻で笑うような声が聞こえた。


「何を馬鹿なことを」

「そうでもないよ? 大体昔からの言い伝えって何気に根拠があったりするデショ。実は本当に、流れ星にはそんな力があるかもしれない」

「あらそう。いいわ、その説を考えに入れても。そのほうが願ったり叶ったりだわよ、星が抱える力の問題としては――」


 うふふふふ、とレーテ女史は笑った。獲物を捕らえようとする山姥だな、と僕は思った。そんなことを口にすれば、山姥の包丁の餌食になるのは僕だけども。


「――あの星の数! 全部集めたらどれくらいの力量になるのかしらね?」


 とうとう魔術師は、勢いよく立ち上がった。バルコニーの手すりに手を置き、相変わらずの鷹揚な風に身を任せる。アンナ嬢の仕立てた赤い服のスカートがひらひらと戯れている。女史の後ろ姿はいつも、一枚の絵画のようだ。

 ――だけれど僕は、絵画を鑑賞したくてその背中を追ってきたわけじゃない。


「あの星全部ねえ」


 僕は女史の隣に立って、一緒に空を見上げた。


「――キミの手には負えないと思うよ」


 ごすっ。


 間髪を容れず、僕の脇腹に拳が突き刺さる。痛い。


「助手風情が、随分あたしを侮ってくれるじゃない。何を根拠にそんなことを言うのかしら?」


 『返答如何によってはただじゃおかん」のオーラを立ち昇らせながら、レーテ女史はにっこり笑う。いやいやいやお待ちくださいお姉さん。むしろお姐さん。僕は慌てて片手を突き出し、「そういう意味じゃないよレーテ!」と声を上げた。


「僕が言いたいのはさ、あんな無数の星は誰の手にも負えないっていうか、むしろ一人で操れるようになっちゃったらそいつはバケモノだしろくなことにはならないよっていうことだよ。これ以上村の人たちを怯えさせて山姥以上の称号を得なくてもいいんじゃないかと思うんだ力一杯心から」

「アンタの言い回しっていつも微妙にムカつくのよね……」


 女史の薄くて整った唇の端が、ひくひくと引きつった。しかしそれも一瞬。


「……周りにどう思われようと構わないわよ」


 その目から心が抜け落ちる。半眼になり、彼女はそう呟いた。


 ――あたしの願いが叶うなら。


 聞こえない言葉が続いたような気がした。


 緑柱石の瞳に翳りが落ちた。それを見つめて、僕は言いようもなく哀しくなる。

 僕がいつもレーテの、幼馴染の後ろを追っていたのは、彼女が他人に背を向けようとばかりするからだ。そう、顔を見られまいと。

 いつも怒ったように不機嫌顔なのは、本心からの表情を隠すため。

 彼女の、本当の顔を隠すため。


 レーテ。


 僕は視線を空へと移す。

 無邪気に瞬いていたはずの星が、ふいに泣きそうな光に見えた。


「……あんなにたくさんの星を、相手にする必要ないんじゃないかな」


 空気にのって、レーテの呼吸が聞こえる。

 静かに、ひそやかに、魔術師は生命活動を繰り返す。

 僕はその孤独な魂を思う。この世の片隅で、誰にも認められることのない研究に打ち込む人。人を遠ざけながら、一方で人に依存せずにはいられない人。とてもとても臆病で、そして愛情深い人。


 僕は満天の星に顔を向けながら目を閉じる。


 一晩経てば、空の舞台は暁闇に姿を消すだろう。そして最後の最後に星がひとつ、寂しくも健気な輝きを灯しながら残るのだ。やがて空の支配者がもたらす明けに呑みこまれる運命を知っていながら。


「ひとつで十分だよ。星は、ひとつで十分な力を持ってるだろうさ。そして一つにしぼってアプローチしたら、ひょっとしたら手が届くかもしれない。……僕は、そう思うよ」


 ゆっくりと息を吐く。それから、魔術師先生に向き直った。

 レーテはとても変な顔をしていた。


「……何言ってるのかよく分からないわ」


 当惑に翠黛を寄せる。そのことが不満なのだろう、僕を睨むような気配もあった。

 僕は微笑んだ。


 ――それでいい、キミの顔から暗い翳りが消えるなら、他のどんな顔をしてくれてもいい。


「つまりさ、満天の星を従えたキミにはついて行ける気がしないけど、ひとつの星を従えたキミにならまだついて行けるかな、と。あとはその力の実験台には僕を使わないでほしいかな」

「……ふん。アンタみたいな頑丈な人間なかなかいないんだから、実験台が必要なら分からないわよ」

「まあキミの命令ならやるけどさ。うっかり死んじゃったらもうお茶淹れてあげられないしね?」


 にっこりとそう言ってやると、魔術師先生はうっとうろたえた。


「――い、一考の余地はあるわね」

「是非ともそうしてください。ところでそろそろ部屋に戻ったらどうかな。いい加減眠らないと体壊すよ」

「いちいちうるさいわね母親かアンタはっ。今戻ろうと思ってたところよ!」

「それは失礼」


 魔術師は憤然と肩を怒らせ、ひらひらのスカートの裾を持ち上げながら部屋に戻っていく。

 と思ったら部屋に入る直前にカッと振り向き、


「それ片づけておきなさいよ!」


 テーブルの上のカップを示して怒鳴ってから部屋に引っ込んだ。

 完全にその姿が見えなくなったところで――僕はぷっと噴き出した。


 少しばかり意地悪がしたくなっただけだ。彼女の意識から、彼女に力をもたらす星の群れを弾き出したかっただけ。


 ほんの一瞬で構わなかった。


 彼女が見ている星は僕じゃない。彼女が星に力を求める理由も僕じゃない。僕がずっと見つめている星は、決して僕の方を向かない。僕の手に落ちてきたりしない。


 “それでいい”と自分に嘘をつく代わりに、せめて。


 僕は夜空の星を振り返ることなく、のんびり部屋に入った。

 魔術師先生はランプ片手に、ごみごみした何かをごそごそと漁っている。その後ろ姿に、僕は声をかけた。


「寝る前にもう一杯イゴニア、いる?」


 ――もらうわ、の一言にかけがえのない日常が滲む。


「了解」


 いつもの通りそう答えて、僕は幸せの形に、笑った。

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星の群れ 瑞原チヒロ @chihiro_mizuxx

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