第5話 第3王子の場合

『…じ、起きて下さい。お客様が、お見えです。』

身体が揺すられている。

まだ起きたくない。

『第3王子、お客様お入れしますよ』

『ん…』

何か夢をみてた様な…。客って?

『それでは、伯爵令嬢を…』

『!ちょっと待った!』

伯爵令嬢って、白薔薇だよな?

白薔薇が来てるの?

俺は飛び起きて、従兄弟でもある俺の筆頭侍従の黒に

『ちょっと待ってもらって!シャワーしてくる!』

と、駆け出しながら声をかける。

奴は、

『幼馴染みで婚約者の伯爵令嬢相手に、何気取ってるんだか…』と聞こえよがしに言いつつも扉の方へ。

気取るとかじゃないし。


今日は朝から忙しかった。

学園に入学してから初めての連休で、たまってた雑務に学園の予習復習…。

ついさっきまで剣術の師範と稽古をしていて汗だくでそのまま疲れて昼寝しちゃってたし。

さすがにこんな姿じゃ会えないだろう?

俺のかわいい婚約者に。


彼女との婚約は10年近く前。

その頃から、彼女の父である宰相が、大切な娘を1人で邸においておけないと、毎日のように仕事場である王宮に連れて来ていた。

彼女は肌は白く、ふわふわの長い髪は淡い金髪で、瞳は見るたびに紫にもピンクにも見える不思議な色。

はっきり言って、かなりの美少女だ。

こんな綺麗な子、見たことなかった。

いや、未だに見たことない。

中身は、ちょっと…。正義感が強く…男らしい子だったけど、それもいい。


第一王妃である俺の母と、彼女の母が親友だった縁で同じ年の俺と彼女は王宮に滞在中のほとんどの時間を一緒に過ごした。

俺はその頃から彼女のことが大好きで、離れたくなくて、彼女が自宅に帰る時は毎回ギャン泣きしていた。

それを彼女が冷静に

『また明日くるからね?そんなに泣かないでね?』

と、俺の頭をなでながら言う。

その場は一度泣き止むが、彼女が帰った後にまたギャン泣きする…というパターンがずっと続いていた。

それを見かねた俺の従者が、

『結婚したらずっと一緒にいられますよ』

と言うので、幼かった俺は母に泣きつき、泣きわめき

やっとの事で婚約…という経緯がある。

はっきり言って俺のワガママ。

完全な片想い。


白薔薇は、未だにイマイチ俺の事をどう思っているのかわからない。

弟の様に思っているんじゃないかな。

俺の方が生まれたのは先だけど。

そんなこんなで、彼女に相応しい男になるために、勉強も運動もあまり得意ではないけど、日夜修行中だ。

努力しないと何でもそつなくこなす彼女に追い付けない。

特に剣術。

彼女は親の遺伝なのか、天性のものがあり、それについていく為に秘密特訓をしている。

あんなに小さくてほわっとしている可憐な見た目とは裏腹に、かなり強いのだ。

白薔薇伯爵は、代々騎士の家系で、多くの優秀な騎士を排出している。

俺も婿入りするのに恥ずかしくないように頑張らねば。


それにしても、2人でゆっくり会うのは久しぶりだ。入学してから初じゃないか?

いつもは一方的に俺が見ているけど。


入学してみたら、

周りの視線が生暖かった…。

俺が白薔薇にベタ惚れなのを、教授陣、生徒、多くの者が知っていて。

そんな視線に耐えられず、彼女とは意識的に距離をとるようになっていた。

だから最近、白薔薇が足りてない。

彼女の可愛い笑顔に、鈴を鳴らしたような声。

俺に対してちょっと意地悪なところ、見た目に反してちょっと凶暴なところ。

たまの休みの今日だって、もちろん彼女に会いたかったけれど自分からは言い出せなかった。

そんな時に彼女から会いに来てくれて、どうしようもなくテンションが上がってくる。

会う前から、ドキドキしている。


『王子まだですか?レディをあまりお待たせするものじゃありませんよ。』

言いながら、部屋に備え付けのバスルームに従者の黒がはいってくる。

うわ!

『ノックも無しにはいってくるなよ!』

『まったく、長風呂が過ぎますよ。お着替え出しておきました。白薔薇様は庭園でお待ちになるそうです。姫とのお茶はどちらにご用意しますか?』

…黒は口うるさいが、仕事が早い。

白薔薇の事はなぜかあまりよく思っていないようだが、やることはきちんとやってくれる。


『天気がいいから、東のパティオに。白薔薇の好きな揚げ肉まんも用意しておいて。』

『姫は食い意地がはってらっしゃいますもんね。』

ほら、一言余計だ。

軽く睨むと、肩をすくめて

『銀茶をアイスとホットでご用意しておきます。』

大袈裟にうやうやしく言い、バスルームから出ていく。

銀茶は白薔薇が好きなお茶だ。

俺が言わなくても、ちゃんと甘い菓子も用意してくれてるんだろう。

黒の言う通り、あまり待たせるのも…ていうか、あー、ぶっちゃけ早く会いたい。ここ最近の話がしたい。俺は急いで服を着た。


















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