第3話

 高梨さんを駅まで送り、自分の家路でついさっきのことを俺は思い返していた。

「高梨さんのことを守らせて欲しい。だから、俺と付き合って欲しい。」

 これを唐突に言って期間限定とは言えよく俺は、付き合って貰えるようになったんだなって思う。明日あったらお礼を言おうと思った。そして、ちょっと見た目は古いが割と大家さんも周りの人も中々いい人が住んでいるアパートに俺は帰った。

「ただいま。っても誰もいないんだよな。」

 少し悲しくなった。

 俺が、幼い頃に仲良くしていた、あの女の子が亡くなってから両親は、俺を不憫に思い前に住んでた所から今のアパートに引っ越してきた。だが、数年後、父さんは、海外に単身赴任になってしまったのだ。しかしまだ、心の傷が治りきっていない俺を残していけないと母さんは、父さんに言い俺と2人で日本に残った。でも父さんが海外に行き、母さんは、女手1つで俺を中学3年生まで育ててくれた。この時俺は父さんが最低な人だと気づいてしまったのだ。父さんは、海外の単身赴任先で不倫をしていて、母さんと俺を捨てたのだ。そしてもっと最悪なのは、母さんのお腹の中に、父さんの子供。すなわち、俺の妹か弟が宿っていたのだ。そんな母さんを父さんは捨てた。母さんは、父さんが不倫しているのを知り、俺が独り立ちできるぐらいの生活能力をつけると母さんは、俺の前から姿を消した。

 それから約1年。母さんは、戻ることはなかった。父さんは、決して戻らないとわかっていた。結局俺は一年以上1人でこの家族用の少し一人暮らしでは大きいアパートに、住んでいた。そして、大家さんは、俺の事を自分の息子のように気にかけてくれたおかげで俺は変にグレずに、引きこもりでもなく、普通に過ごせるようになった。

 しかし、俺は幼い頃のことを度々思い出してしまうのだ。両親の事もそうだが、1番はこの能力を話した女の子を思い出す。あまりにも忘れたくて、顔や名前は、もうほとんどわすてしまっていたが、それでもあの子は、最後まで俺の事を信じてくれていた。だからこそあの子のことを覚え続けてしまうのだ。それでもあの子が亡くなる所を間近で見てしまった俺は、思い出すことを途中でやめてしまうがこの際、高梨さんに話すことを覚悟しといた方がいいかも知れないと俺は心の奥でそう思った。俺のルーツをいずれ話さなければ行けなくなる気がした。そう考えていると、大きなため息が込み上げてきた。夜ご飯を、軽く食べ、風呂に入り布団に入ると、すぐ寝てしまった。

 この日の夢は、珍しく予知夢ではなかった。

 この日の夢は、あの忘れてしまいたいあの幼い頃の日々を見た。 それは、もう戻ることの無いあの子との日々を見ていた。

 少し日が落ち始めた夕方頃、俺とあの子は公園の帰りだった。2人で、汗をかき、日焼けして少し黒くなっていた。

「澮くん、もう大丈夫?」と心配そうにあの子は俺を見つめた。

「僕は大丈夫だよ。それよりそっちこそ大丈夫なのか?帰りがだいぶ遅くなったけど…」

 俺が言い終わるのを待たずに、あの子は胸を張って、

「大丈夫!!確かに帰る時間も心配してるけど、私が心配してるのはそっちじゃないというか…」

 あの子は苦笑いしながら歯切れが悪そうにしていた。そして俺は察した。きっとこの日は、夕方まで俺の見た予知夢で何か悪いことがあって、それを話した結果あの子と予知夢を阻止しようと夕方まで試行錯誤していたのだろう。

「あぁ、大丈夫だよ。家まで送るよ、結彩奈ちゃん」

 俺はハッとした。そうだあの子の名前は、岬結彩奈だ。忘れないようにしなければじゃないと夢から覚めてもしうろ覚えだったら、色々考えても所詮は夢だと俺は諦めた。

 すると結彩奈は、また心配そうな顔をしながら少し頬を膨らませていた。

「私の名前を呼ぶなり、あれって顔しないでよ。失礼しちゃうな!」

 考え込んでいたら、怒らせてしまった。

「ごめんごめん。ちょっと考え事してた。」

 俺がこう言うと、結彩奈は、しょうがないなてっ言わんばかりな顔をした。そいや結彩奈は、言いたいことがよく顔に出てたな。

「じゃあさ、気分転換に今度の日曜日さ、私の双子の妹に合わせてあげよう!」

 俺は思わず、変な声が出たこの頃は、まだ声変わりも終わってなくただでさえ変な声にしか聞こえないのにより変に聞こえた。それよりも俺は妹がいた事さえ忘れていたのか、それは詳しく聞かなければと思った。

「妹!?えっ、双子?!えっと待ってよ。つまり、結彩奈には双子の妹がいたの?」

 すると、結彩奈は大きく息をついた。

「そうだよ、アレ?前にも話したじゃん。まぁいいや。ほら私の家さ、パパとママがあまり仲良くなくて今は、私がパパの元で暮らしてるんだけどね、私達双子は、どっちかについて行くしか無かったんだ。だから、妹はママの方へついて行ったの。けど、私達双子は、仲が悪かったわけじゃないからって、パパとママが1ヶ月に1回だけ私と妹を合わせてくれるの。もちろんパパもママもいないから公園とかになっちゃうんだけどね。」

「なんか色々あったんだな。」

 だいぶ過酷な目にあってたんだと俺は心配になった。だがもう1つ気になった。

「妹の名前はなんて言うの?」

「妹の名前はね、……だよ」

 おかしい、名前のところだけ聞こえなかった。もう一度聞いてみた。

「ごめん!もう1回言って!」

 また結彩奈は、仕方ないなっていう顔をした。

「だから、……だってば!」

 これはダメだ無理だ。全く肝心なところが聞き取れない。でも、顔を見たら思い出すかも知れないと思った俺は、結彩奈の双子の妹会うことにした。しかし、俺たちがそれぞれの家に帰って、カレンダーを見た。そう、今度の日曜日というのは、結彩奈の命日になる日だった。俺は思わず叫んでいた。

 するとそこで夢から覚めた。あの子の名前は、

「岬結彩奈だ。大丈夫覚えてる。そうだ、紙に書いとこ。」

 1人しかいない家で独り言を言った、結構寂しいもんだなと思いながら結彩奈の名前を書いた。だが名前を書いた紙は寝ぼけていたために、生徒手帳に書いてしまっていたが寝起きで忘れてしまっていた。

 そして今日から、3ヶ月間の期間限定で付き合ってもらえるようになる。小声で俺は、

「頑張らないとな」とまた独り言を言った。寂しいもんだなとまた思っていた。

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