十二月十日 つのしま最後の一般公開

 自分の耐用年数を初めて気にしたのはいつだっただろうか。少なくとも相方で弟である【なおしま】よりは先に意識したはずだ。朝起きて珍しく考えたのはそんなセンチメンタルなことだった。原因は海に浮かんだ機雷の角よりも明確だ。

「さて、最後の一般公開。 気合い入れて行くぞ!」


 一般公開が始まってすぐにばらばらと人がやって来て、艇の中を見て回ったり写真を撮ったりしている。

「赤穂って結構人多いな?」

そして思ったよりも多くの人が見学に来ている。先週の阪神基地のウィンターフェスほどではないが、今日も見た目だけなら立派な難民船だ。

「まあ、見てもらえるっていうのは良い事だからな」

俺を含めた木造の機雷艦艇は最盛期の半分以下の数しかいない。できるだけ多くの人に見て触って覚えて欲しい、掃海という仕事と掃海艇とそこで働く人のことを。それが俺の最後の任務だ。

「掃海広報艇【つのしま】でーす……なんてな」

何年か前に見た二本マストの艇の真似をしてみる。さすがに管制艇ほどは公開していないとは思うが、俺もやれるならまだまだやりたいとは思うのだ。


 見学の人がみんな降り一般公開終了の放送が入れば、今日はもう阪神基地に向けて出航するだけだ。冬の日はあっという間に傾き徐々にオレンジ色に染まっていく中、処分艇を先行させるように采配される乗員を見守る。

「終わってしもたなあ」

艦橋からの号令でバウスラスターが起動する。艇が岸壁からゆっくり離れ、ぶら下がった防舷物が手持ちぶさたに揺れる。少しテンポの速い出航ラッパが鳴らされ出航用意が発せられれば、罐がやる気に満ちたうなりを上げ艇は夕日に向かってゆっくりと後進し始めた。俺は赤穂の港と見送ってくれる人をできるだけ長く見つめることにした。

「ほな、またどっかで」

帽を振れば応えてくれる人がいる。当たり前だが、それがなによりも嬉しかった。


 いつまでも絶えることなく

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