十月二十四日 のうみ進水

秋の風が水面を撫で船台の上のまだ艦橋すら載っていない真新しい艦を彩る紅白幕をほんのりと揺らす。気温も湿度も随分と過ごしやすいものになってはいるが、日差しだけはまだ夏の面影を残していた。

「さあ、時間だ」

【座敷童ツルミ】がぼんやりと艦を見つめていた幼い【艦霊】の背を押す。幼い【艦霊】が一歩前に出ると、プツリとマイクの電源が入る音がした。

「本艦を『のうみ』と命名する」

艦を繋ぎ留めていた支綱が切られゆっくりと滑り出す。そしてあっという間に進水、艦は海の冷たさを知ったのだ。

「おめでとう【のうみ】、まだ出航までには時がある。 舫を放すその時までしっかりと力を蓄えるんだぞ」

驚いているのか目をシパシパさせる幼い【艦霊】改め【のうみ】に【ツルミ】は言祝ぎ一緒に海に浮いた艦を見る。この艦は水平線の向こうに行く為にこれから一年以上の時間をかけて成長していく、今日はそのための区切りの一つだ。

「がんばる、ます」

【のうみ】が【ツルミ】を見てそう言えば、【ツルミ】は満足そうに頷いた。

「うん、その意気だ」


 冬の始まりに霜が静かに降りるように、君にたくさんの幸福が降り積もりますように。

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