六月二十三日1000 やはぎの進水

梅雨の晴れ間の午前十時。青い空の下で灰色の真新しい艦が、日の光を反射し輝いている。自分の本体である艦を見上げる幼い【艦霊】は、どこか落ち着かない様子で自分の太腿のあたりを撫でていた。


「【FFM5】、準備はいい?」

「晴れてよかったな」

【タマノ】と【ククリ】が、空を見上げながら自分を手招きする。

「はい」

二人に呼ばれるまま陽光の下に出れば、暑さと緊張が肌を刺激する。なんとなく、これが夏なのかと思いながら、自分を本体を見上げる。この造船所には同じ形をした艦が二隻と、新しく次の艦を作るためのブロックがいる。一番上の兄はもう就役してしまって、ここにはいないそうだ。ここには、自分の来た航路とこれから行く航路が、ぎゅっとつまっているのだ。


「本艦を、やはぎと命名する」


そう、マイク越しの声が告げ、その一拍後に薬玉が割れる。軽快な破裂音とともに紙吹雪が舞って、色とりどりの風船が満艦飾の旗を揺らし、真昼の花火があがる。花火の音が止めば今度は、祝福の汽笛がたっぷり十五秒。その光景、音、人の目線、その全てが自分の進水を祝っているのだ。

「おめでとう、【やはぎ】。お前の旅が豊かであることを願ってる」

「【やはぎ】、おめでとう。良い旅を」

「ありがとう!」


新造は確認するように太腿を軽く叩いてから、夏の中を歩き出した。

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