五月二十日 一般公開前

 最近、【掃海艇】たちが、やけに落ち着きがない。いつもより念入りに靴を磨いたり、【道】掃海屋敷のカレンダーを見てニタニタと笑ったり、正直少し気持ちが悪い。

「ねえ、【くまの】」

「なに? 【もがみ】」

「最近、掃海が落ち着きがない気がする」

「あー、そうだね。 聞いてみる! 【つのしま】!」

そう言うと、自称弟【くまの】はふすまを勢いよく開け、すぐ隣の部屋でカレンダーを見ながらニヤつく【つのしま】に突撃していった。

「【つのしま】! あのさ、最近いいことあった?」

「おっ!? 【くまの】か」

【つのしま】は垂直に飛び上がったが、すぐにいつものように軽そうな笑みを浮かべる。

「いいことな、うん、まあ、いいことと言えば、いいことだな」

【つのしま】は嬉しそうに勝手に頷いて納得しているが、俺たちには何のことだかさっぱり分からない。

「だーかーらー、いいことってなに?」

【くまの】がもう一度聞けば、【つのしま】はさっきまで見ていたカレンダーを指さして、言った。

「一般公開だよ」

「一般公開?」

「そっ、お前たちは就役したばっかりだから無いけどな」

【つのしま】が月曜始まりのカレンダーの月末、土曜日と日曜日の部分にサラサラと掃海艦の絵を描く。簡素にいろいろと省略しているが、しっかり特徴を掴んでいて、なかなかの上手さだ。

「あ、うらがだ」

「正解! 月末に俺と浦波ほなみとえっちゃんで高松。 その他全国津々浦々で三年ぶりだったり、もっと久しぶりだったり、いろいろって感じだな」

「ふーん、楽しみなの?」

「楽しみだよ。 あの名物おじさんは元気かなー? とか、マニアのあの子はでっかくなったかなー? とか」

【つのしま】のざっくりとした説明に、【くまの】がまたざっくりとした相槌を返す。それでも【つのしま】は、どこか懐かしそうに楽しそうに語る。

「当たり前だけど、港ごとに街も人も雰囲気も違うから楽しいぞ」

「【つのしま】は人が好きだしねー」

「いや、【くまの】お前もだろ。 というより【艦霊ふなだま】は大体みんな人間のこと好きだろ」

【つのしま】は少し驚いたような表情をしてから【くまの】の片を小突く。

「なんせ、俺たちは、人と有る艦艇ふねだからな」


 「人と有る」と書いて「たすける」

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