重陽

【座敷童】は長く生きている者が多い。そのためか花道や音楽といった長く時間をかけて極めるようなものを趣味としていることがある。徳島航空基地の【座敷童】である【マツバ】もその例に漏れず、季節の草花を愛で活けることを楽しみにしている。

「瀧喜! 瀧喜! これ運ぶん手伝おうて!」

「ほんな大きい声で言わんでも聞こえとるよー」

誰にもなにも言われないように【道】でゴロゴロしていたというのに、【マツバ】が大きな声で僕を呼ぶ。仕方がないとしぶしぶ玄関に向かえば、そこには色とりどりの菊の化け物が立っていた。

「なんこれ」

「菊よ、もう重陽やけんな」

「ふーん」

菊の化け物もとい【マツバ】は俺に向かって菊の山を押し付ける。半分ほど受け取ったが思っていた以上にずっしりとしている。

「居間に新聞敷いとるけん、ほこまで持ってって」

「はーい」


居間に敷かれた新聞の上に雑に菊を下ろせば、菊は横に広がってばらける。

「はい、ありがとう」

【マツバ】は僕の所作を特に気にする様子もなく菊を大きさや色ごとに分け始めた。いつものように花瓶に活けたりするのであろう。

「これ、日本酒に浮かべて菊酒にしよか」

端によって観察していたら【マツバ】が一本の菊を手にして機嫌よく言った。

「僕ビールがええ」

「ほれはやめとき」


草の戸や 日暮れてくれし 菊の酒

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