六月二十二日1000 のしろの進水

怒られたって朝は来る。叱責のスタンプラリーはまだ半ばだが、今日は弟【FFM3】の進水式だ。

「注水式は初めてだから楽しみだね【もがみ】」

「【くまの】あんまり前に行ったらダメって【ククリ】に言われただろ」

【もがみ】が俺の服の裾を引っ張るものだから、思わず一歩下がる。以前から思っていたが長崎生まれは真面目な【艦霊】が多い。我が兄【もがみ】もその例に漏れないようで、俺の動向をこの場にいる誰よりも気にしている。昨晩、俺に巻き込まれるような形で【道】から現世に無断外出した上に連帯責任で叱られたのが効いているのかもしれない。

「はあい」

「返事は伸ばさない」

「【練習艦】みたい」

「あんなにおっかなくないよ」

「それ、【はたかぜ】に聞かれたらしょんぼりするよ」

「案外、繊細だね」

「そうみたい」

二人でどうでもいい話をしている間にも式典は着々と進み、黒い服の女性が壇上のマイクの前に立った。

「本艦を『のしろ』と命名する」

艦首の白い幕が捲れロービジ特有の薄い文字が現れる。同時に金のテープが空を舞い、パステルカラーの風船が昇り、小さな花火が打ち上げられる。トドメに祝福の汽笛が鳴らされれば、どれだけの人が建造に携わり自分が望まれていることを嫌でも理解するだろう。

「長崎って薬玉とかなんかいろいろカラフルだよね」

「そうかな?長崎しか知らないから分からない」

「それもそうか」


雨は河になる。河は海へ流れていく。俺達はそのうえで鉄の城になる。

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