episode.4 キャラクタークリエイト(保護者同伴)



「では、早速種族の解説を始めましょう!」

「テンション高いな……」

「それよりも椿ちゃんはいつまで肩に寄りかかってるつもりなの……」


 ジョンソンが元気よく話しているのを横目に、

 月草は緊張の連続で多少グロッキー状態に、椿は暇すぎて眠くなっているようだ。



「最初の説明の通り、『Life Over Online』では多様な種族になって遊ぶことができます!人族から始まり実に数十種類の――」

「椿ちゃんは種族どれにしたんですか?」

「俺は人族。普通の人間だよ。

 スキルの自由度が高くてこれといったデメリットが無いのが特徴かな。

 際立ったメリットもないけど」



 背後の椿を見ると、紅色の瞳以外はほぼほぼ現実世界の本人にしか見えない。

 具体的には髪色も変更して少しアニメチックな黒髪にしているそうだ。



「月草は初心者だからな。人族は取り敢えず選択肢に入れといた方がいいぞ」

「他の種族で何か面白いものはありましたか?」

「他かー……魔人族とかも面白そうだったな。魔法の扱いに長けてる種族らしい」



 またしてもジョンソンの話を全スルーしている2人。



「――では!此方のウインドウから種族の設定をしてみましょう!」

「……ごめんなジョンソン」

「重ね重ねすいません……」



 ジョンソンに謝りながらウインドウを見る2人。

 そこには各種族の説明と取得するスキルが表示されていた。



「えーと。何から見ればいいんでしょうか?」

「それより先にスキルの説明しとくか。ほいっと」



 二人羽織のように月草の指を使ってウインドウを操作する椿。

 指を振るった先には『人族』のページが開かれていた。



 人族

 ・インフィルニア大陸において最も栄えている種族。

 特別苦手なことは無いが、特別得意なこともない凡庸な種族だが、

 その幅広い可能性は他のどの種族にも無い個性である。


 種族スキル:[採取],[気配察知]

 難易度:☆



「この種族スキルっていうのがデフォルトで設定されているスキルなんだ。

 スキルは初期設定では4つまで。種族スキルは自動で入るから自分で選べるのは2種類までだ」

「一番下の難易度というのは?」

「βテストの時には表示されてなかった項目らしいな。

 LOOをプレイするにあたっての難易度って言われてるけど……正直良く分からないんだよなぁ」

「へぇ……」

「種族スキルの構成で星の数が決まるんじゃないかってSNSじゃ言われてたけどな」



 その辺りは実際にプレイしないとはっきりしないわなぁ……と思案する椿。



「……取り敢えず次見てみますか」

「そうだな」



 分からないこともあるがそれに時間を取られるわけにもいかない。

 一先ず先送りにして次の種族の説明までウインドウのスクロールバーを下げる。



 森人族

 ・亜人族の一種。森に住み、森と共に生きる者達。

 自然との親和性が高く、そのせいか魔法の適性が高い。

 

 種族スキル:[魔法攻撃強化],[魔法防御強化]

 難易度:☆☆☆



「魔法が得意なんですね」

「反面近接戦闘が弱いらしい。ビジュアルがまんまエルフだから人気はあるらしいけどな」

「みんなエルフ好きですよね……」

「近接戦闘弱いって知ってから私は全く興味無かったけどな」

「脳筋……」



 どれだけ肉弾戦に飢えているんだろうこの子……となりながら次のページへ。



 獣人族

 ・亜人族の一種。亜人族の中で最も数の多い種族で、インフェルニア大陸に広く分布している。

 容姿は様々で、獣人族の中でも更に細分化されている。

 身体能力が高く近接戦闘を得意とするが、魔法の適性が無い。

 

 初期スキル:[敏捷強化],[聴力強化]

 難易度:☆☆



「獣耳……!」

「あー。俺が人族と迷ってた種族だな。これも人気らしい」

「なんかテンション上がってきました」

「お前んちペット駄目だもんな……ただデメリットが強いのも特徴だな」

「魔法の適性が無いってことは、魔法が使えないってことですよね?」

「βテストの時も検証してたらしいけど本当に使えないらしい。

 魔法だけじゃなくて魔法の技術を使って作られた、いわゆる『魔道具』も使えなかったってさ」



 実際は弓を扱うこともできるため、必ずしも遠距離で攻撃ができないわけではないらしい。実際にβテストの時は人族の次に使用率が高かったとか。


 そして次のページ。



 鳥人族

 ・亜人族の一種。

 インフェルニア大陸の中心に位置する山岳地帯に住んでいるが、昨今は若い世代を中心に人族との交流を盛んに行っている亜人族でもある。

 生まれつき背中に翼を持ち、その容姿も多岐に渡る。

 

 種族スキル:[飛行],[視力強化]

 難易度:☆☆☆



「飛べるんですか!?」

「重量制限付きだけどな。確か人ひとり抱えてギリギリ飛べるレベルらしいぞ」

「それでも凄いですよ……」

「因みに近接戦闘は適性があまり無いらしいから個人的な興味は無い」

「この脳筋……」



 ロマンより殴り合いの方が好きな椿の将来が割と本気で心配になる。

 とはいえ次は最後のページになった。



 魚人族

 ・亜人族の一種。

 遥か昔、地上を生息圏とした人族とは異なる進化の過程を経た亜人族。

 水中での行動に特化しており、その生涯の大半を海の中で過ごす。

 ただ水中で呼吸ができるようになった反面、地上で生活することが困難になってしまった。

 

 種族スキル:[水中呼吸],[聴力強化] 

 難易度:☆☆☆☆



「今度は水中ですか……半魚人?」

「βテストの使用率最下位」

「えっ……」

「移動範囲を水中に限定されるのがキツいらしくてな。

 しかもグランドクエストに関われない可能性がある」

「グランドクエスト?」

「インフェルニア大陸で起きる大規模なクエストだよ。

 小説でいうところの本筋の物語。

 βテストじゃ最終日に発生して、しかも発生したのが地上だったから魚人族選んだ数少ないテスターがめっちゃ怒ってたらしいぞ」

「あらら……」

「一応その後運営から『調整しました』って発表はされたんだ。

 ただ攻略サイトとかは軒並み『魚人族は上級者向け』って評価になってる」

「不憫な……海を自由に泳げるとか良いじゃないですか」

「俺も一瞬いいかもと思ったけど年中海の中は流石になぁ」

「私、海で泳いだこと一度も無いから結構気になりますね……」



 運動不足対策で屋内のプールを利用したことはあるが、その際もウォーキング程度で泳いだことは皆無だった。海で泳ぐなど夢のまた夢だったのだ。



「一応他の種族でも泳ぐのはできるからなぁ」

「……それなら魚人族じゃなくてもいいですね」

「哀れな魚人族……」



 2人が魚人族のページを見た後、もう1枚ページが続いていることに気づいた。

 そのページにはシンプルに『ランダム』と表示されているのみだった。


「ランダム?」

「ガチャだな」

「ガチャ?課金チャンスですか!?」

「テンション爆上がりじゃん……課金じゃなくて、ランダムで種族が1つ選択できるようになるんだよ」

「課金じゃないんですか……そうですか……」

「どんだけ課金したいんだお前……」



 三原月草17歳。今までの人生でギャンブルとか無縁な暮らしをしてきたせいか、

 初めての課金というギャンブルに興味津々だった。

 テンションがだだ下がりして何かどうでもよくなった月草。

 しかし椿は面白そうに月草の指を使ってランダムのアイコンを押させてしまう。



「――って、椿ちゃん!?」

「ランダムはさっき見た5つの種族に加えて『古代人族』っていう5種類のレア種族から1つ選択されてなー。俺が言ってた『魔人族』も古代人族なんだよなぁ」

「さては椿ちゃん。飽きたね?」

「まあ選択された後も種族変更できるから」

「顎で肩ぐりぐりしないで……」



 ランダムのアイコンは小さく輝いたとともに消え、その後から新たな文字が出現する。



 ――現れた種族は『人魚族』。



「……人魚族?」

「ハズレ臭いな……取り敢えず説明をポチっとな」



 人魚族

 ・古代人族の一種。

 魚人族の祖先にあたり、上半身は人族、下半身は魚人族の特徴を有している。

 魚人族と異なり、水を定期的に摂取できる状態なら地上でも活動可能。

 ただ集団で社会を形成する習性が無い上に大陸での発見例も少ない希少種族。


 種族スキル:[水中呼吸+],[聴力強化]

 難易度:☆☆☆☆


「ほーん。魚人族の強化版か」

「[水中呼吸+]ってなんでしょう?」

「地上でも呼吸可能って説明にも書いてあるから、それを反映してるんじゃね?」

「へぇ……」

「ビジュアル見てみるか」



 ウインドウの端にある虫眼鏡のアイコンを押すと、人魚族になった際の月草のアバターが表示される。

 露草色の鮮やかな、ストレートの長髪に珊瑚色の瞳。

 ただ人魚族にした影響か、肌は実際の肌より少し青みが増しており、全体的に透明感が強調されている。

 上半身は少しフリルがついたシンプルなデザインの青い水着で、下半身も同色のヒレと鱗に覆われた魚らしい格好になっていた。



「おお。いい感じじゃん」

「……いいですね」

「どした?」

「なんか、予想外に気に入っちゃって……」

「難易度高いけど大丈夫か?」

「課金で何とかします!」

「笑顔で言うな」



 一目惚れなのか、人魚族になった自分のアバターにすっかり夢中な月草。

 後ろで呆れている椿をよそに、確定のアイコンを押してキャラクタークリエイトを終わらせようとする。でもその前に……



「――リストの中からスキルを選択しよう!フリー枠は2つまで選択できるぞ!」

「椿ちゃんは何のスキルを選んだんですか?」

「少しはジョンソンの話も聞いてやれよ」



 だって椿ちゃんに聞いた方が早いんですもの。とすっかりジョンソンに慣れた月草。

 スキルリストは実に膨大で、先程の種族リストとは比べ物にならない量である。



「俺は[物理攻撃強化]と[格闘術]だな。シンプルイズベスト」

「やっぱり脳筋……」



[物理攻撃強化]

 ・エネミーと物理属性で戦闘を行う際の攻撃力が1%上昇する。

 Lv.20まで成長可能。

 ※物理属性:魔法を使用しない攻撃の属性。無属性とも呼ばれる。


[格闘術]

 ・人族の生み出した戦闘技術の1つ。

 Lv.20まで成長可能。



「[物理攻撃強化]は単純な攻撃力上昇効果で、[格闘術]は必殺技が使えるらしい」

「[剣術]とか[弓術]も似た種類のスキルなんですね。これが『戦闘スキル群』ですか」

「取り敢えず2つの内1つは戦闘スキルにした方がいいぞ」

「武道の経験どころか運動神経皆無なんですが……」

「じゃあ魔法でもいいんじゃね?」



 ウインドウを再展開し、戦闘スキル群のみ表示すると、各種魔法の説明が表示されているページにスクロールする。



[火魔法]

 ・火の精霊と共鳴し、魔力を媒介に火を生み出す魔法。

 Lv.20まで成長可能。


[水魔法]

 ・水の精霊と共鳴し、魔力を媒介に水を生み出す魔法。

 Lv.20まで成長可能。


[風魔法]

 ・風の精霊と共鳴し、魔力を媒介に風を生み出す魔法。

 Lv.20まで成長可能。


[土魔法]

 ・土の精霊と共鳴し、魔力を媒介に土を生み出す魔法。

 Lv.20まで成長可能。



「この辺は知らん」

「自信満々に言わないで……でも折角だし魔法のスキルは取ろうかな」

「お?何にするんだ?」

「人魚は水のイメージだから水魔法」

「安直だなオイ」

「だって火魔法とか使った瞬間に消えそうだし……イメージ的にやっぱり水かなって」

「まあ好きに取ればいいさ。でも魔法か……」

「なにか問題でもあるの?」



 椿は先程見ていたウインドウを消し、補助スキル群のウインドウを表示する。



「魔法使うと補助スキルが[魔法攻撃強化]か[間接攻撃強化]のどっちかで大体固定されるんだよなぁ」

「[魔法攻撃強化]は分かりますけど、[間接攻撃強化]ですか?」


[魔法攻撃強化]

 ・エネミーと魔法属性で戦闘を行う場合、攻撃力が1%上昇する。

 Lv.20まで成長可能。

 魔法属性:魔力を媒介に使用できる「~魔法」に付随する属性。


[間接攻撃強化]

 ・エネミーと中距離、遠距離で戦闘を行う場合、攻撃力が1%上昇する。

 Lv.20まで成長可能。



「間接の方は弓でも使えるから適用範囲が広い」

「距離とか分からないので[魔法攻撃強化]にします」

「お前時々頭悪くなるよな……」



 物理特化の椿には言われたくない。

 しかし見事に魔法特化になった自分を見て何とも言えない気分の月草。



「で、最後にキャラクターの名前を記入する。本名は使えないし、被ると使えないから注意な」

「被ることなんてあるんですか?」

「それが良くあるんだなぁ。被り対策で名前の後に数字付いてる奴は名前被った気の毒な奴だぞ」

「へぇ……椿ちゃんは?」

「カメリア。椿の学名をそのまま使っただけど、意外と被らないもんだな」

「じゃあ私も名前のもじりで……『ツユクサ』っと」



 入力して決定ボタンを押すと、そのまま『認証が完了しました!』と表示された。

 どうやら被っていなかったようだ。



「よーし。これでキャラクタークリエイト終了か。あとはジョンソンの指示に従えばゲーム開始できるぞ」

「色々ありがとう……」

「いいってことよ。一応フレンド申請しとこうぜ」

「ウインドウ開いて……このユーザーメニューってやつ?」

「それそれ。左のフレンド登録の欄開いて、私のキャラ名入力してみ」

「左……で、カメリアっと」

「中央のオレンジの『フレンド申請』ボタンを押すと申請完了」

「オレンジオレンジ……」



 介護されながらおっかなびっくりボタンを押すと無事申請が完了した。



「ゲーム入ったら登録できるから、これで共有切った後も連絡はできるぞ」

「お世話になります……!」

「いざとなったらメニューからヘルプも見れるからな……じゃあ俺は抜けるわ~」

「私も頑張ってジョンソンと向き合います!」

「……あんま時間かけるなよ?」

「ハイ……」



 そう言うと若干心配そうにしながら椿は去っていく。

 白い空間には月草とジョンソンの2人だけが残された。



「……えーと。ジョンソン、さん?」

「キャラクタークリエイトはお済ですか?」

「は、ひゃい」

「では、こちらをご覧ください!」



 嚙みながらも懸命にコミュニケーションを取る月草と相変わらず元気なジョンソン。

 ジョンソンが手を向けた先には光る靄のようなものが出現し、それが収まると木製のシンプルなデザインのドアが現れた。



「あのドアの先にはインフェルニア大陸の広大なフィールドが広がっています!

 夢と希望の溢れる冒険の日々を、どうかお楽しみ下さい!」

「あ、ありがとうございます!頑張ります!」


 笑顔で一礼。

 それにペコペコと何度もお辞儀をしながら、早歩きでドアへと向かう月草。

 ドアノブを引くとその先は光る靄に包まれた空間。

 その先を恐る恐る進んでいくと、月草の意識が段々と希薄になっていく。

 期待と不安を胸に、月草はインフェルニア大陸に飛び込んでいくのだった……。

















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