第七話

「エメ!どこにいるの!?」

「飛び出すな!死にたいのか?」


 アーナラと名乗った女性が引き止めるよりも先に飛び出した僕は燃える村の中を駆ける。そして村の端、血を流して倒れる妹に近づくゴブリンを見た。槍は魔法石の中に戻っており意識は無い。


「グギャッ?」

「そこをどけよ、ゴブリン」

「ギィギィア!」

「僕の大事な妹から、離れろよ!」


 抵抗してくる奴より柔らかそうな子どもを見つけたゴブリンは嬉しそうに駆け寄って来る。透明石の僕ではきっとあっさり殺されるだろう、でもそれを許していいのか!?エメを、大切な妹を守れない自分を!


『俺の物語を叫べ!』

「石投げカルヴァン!」


 手に構えるは無能の証明、透き通る魔法石。チャンスは1回、賭けるチップは僕と妹の命。


「貫けぇ!!」

「ギギィィ!?ゴアッ!」


 魔法石はいつの間にか路肩の小石のように変わっていた、それをただ僕は投げた。そして小鬼は死んだ。その日初めて僕は妹を守ったのだ。


「ゲギャァ」


 背中に妹を庇う、石は手の中に戻ってきた、

 当然村に騎士様が来ているのだから頭の悪いゴブリン達は既に討伐されているだろう。それなら残っているのは1匹だけだ。


「黒い、ゴブリンモドキ…」

「ゲギ?」


『それでいい、強い敵に一石報いるのが俺の物語だ』


 息を深く吸う、狙いを定める目をじっと凝らしながら睨み合う。笑え、俺と笑え!ゴブリンモドキ!


「ギギィ!」

「アァァァア!」


 投げる、避ける、また投げる。無限に思えるほど繰り返したが硬い皮を破ることが出来ない。だがゴブリンモドキも無傷では無い、そう思わなければ心が折れそうだった。


『逃げるな!避けるな!』


 さっきからなんなんだ!うるさくうるさく頭の奥に叫ぶ声がする。


『言う通りに構えろ!』

「そん、な!余裕ない!」

『これは生きるための戦いじゃないだろ!誰か一人を犠牲にしてでも何かを救う物語だろ!石投げカルヴァンってのはさぁ!』


「うるさいよ、でも」


 その通りだ。


 最初のゴブリンに石を投げた時と同じように深く深く構える。背中にはエメがいて手には小石が1つある。


『石投げカルヴァン』

「――石投げた」


 ドンッ、という鈍い音と共に眼窩を抉り脳漿を散らしながらゴブリンモドキは倒れる。それと同時に外れた肩、ありえない方向に曲がった肘。そして踏みしめた足は中をズタズタに裂かれたような痛みを訴える。


「エメと帰らなきゃ…」


 かろうじて使える左手で背中に背負い家へと向かう、頭の片隅では先程自分に何が起こったのかという謎が渦を巻いている。だが今はどうだっていい。


「ぁが、ただ、いまぁ!」


 僕は目を閉じた。


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あの円卓の末席へ~無能の少年が英雄の末席に座るまで~ ルート @yoshi2128

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