第一話

「これが、この村を守った男の話さ」

「何て言うの!このお話!」

「石投げカルヴァン、それがこの英雄譚の名前だ」

「かっこいいねぇ」

「そうかい、そうかい」


 メリル婆やはいつも僕に面白い話を聞かせてくれる。その中でもこのお話、石投げカルヴァンは一番かもしれない。


「えー、エヴァ…この人あんまりかっこよくないよ」


 妹のエメダラは僕に頬を膨らませて語る。


「だっておっっきな巨人と戦ったかもしれないけどただ小石を投げただけなんだよ?私でも出来るよ!」

「無理だよ~、エメは15年も毎日石を投げられる?」

「むり!飽きちゃう!」

「ほらぁ、でしょ?」

「でももっと王国の剣士みたいに首をぽーんって、切ったりした方がカッコいいよ」

「そのかっこいいと彼のかっこいいはとは違うのさ」

「えっへっへ」


 メリル婆やは僕たちの様子を見て声をあげて笑い始めた。


「あー!お婆様酷い!笑わなくてもいいのに」

「あーっはっはぁ!……お前達があんまりにも可愛い会話をしてるもんだからついつい、ねぇ」


 そんなこんなしているうちに夕日が出てきた。


「ほら、お帰り?」

「またね!メリル婆や!」

「またねぇ~お婆様ぁ」


 村の外れの家から僕らは手を繋ぎ村長の父と母の家へと帰る。


「おい、またあの役立たず外に出てるぞ」

「透明石の木偶の坊じゃないか」

「あんな不吉なガキ村長も早く捨てればいいのに」


 楽しそうな妹の歩くペースに沿って歩くと、耳が腐りそうだった。


「ほら!エメ、僕がおんぶしてあげる!」

「ほんと!?」

「おいで」


 世間に背を向けるように、妹へ背中を差し出した僕は家まで駆け抜けた。



 それが、村長の拾い子僕、エヴァンズの日常。何の力もない透明石の無能の僕の楽しい日々だ。

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